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夏の話

「暑いですね……」

「そうね……」


 タンクトップ姿で胸をはだけながら扇風機の風を浴びるのは女性らしからぬ行為ではあるが、暑いから仕方ない。少年も暑いからか、今はランニングシャツに短パンという出で立ちである。

 少年がここに来てからもう三ヶ月が過ぎた。

 まだ宇宙船は治る見込みがないのだという。仕方ないことだ。地球でオーバーテクノロジーめいた宇宙船を修理出来る場所なんて、どこにもない。

 少年は時折空を眺めて泣いている。

 故郷が恋しい――その気持ちはわかる。

 だから、早く治って欲しい――私はそう思うのだが、生憎私は助けられる手段がない。

 だから、ただ待つしかないのだ。ただ祈るしかないのだ。

 少しだけ、まだずっと居たいという気持ちが残っているのは、少年には内緒にしておこう。



 というわけで。


「こんでますね……」

「混んでるね……」


 私はマイカーを使って、海までやってきていた。理由は簡単だ。少年がテレビを見て、


「そういえば地球は青い星だと言われるほど、水で覆われている惑星でしたよね。……ああ、一度でいいから海に行ってみたいなあ……」


 なんてことを言ったからである。

 私も暑かったから、「まあいいか」くらいの感覚で行ったわけだが。


「やっぱ相変わらず海水浴場ってのは混むってもんだ。泳ぐことは厳しいかもしれないけれど、海には普通に入れるよ」


 そう言って私は貴重品などをロッカーに仕舞いこんだ。

 ちなみに少年の水着は私が買ってきておいた。紺色のパンツだ。水着に着替えると少年の肉体があらわになる。そこまで筋肉はついていないようだが、かといってだらしない体型でもない。一般的な小学生低学年の体型といえるだろう。

 対して私は――。


「……あの、」


 少年が私に問いかける。

 少年の眼差しが、ある一点に集中していることは、もはや明らかであった。


「なによ、知ってるわよ! こういうタイプの水着はある程度胸のある人じゃないと映えないってことは!」


 私が着けているのは上が紫、下がピンクのセパレート型ビキニだ。こういうものは大抵胸がある程度ないとキレイに見えないなんて話をネットで聞いたことがあるが、生憎私にはそれほどの胸はない。


「で、でもいいと思いますよ……? 飛行機がよく飛べそうで……」

「誰が私の胸が滑走路だって言った!?」

「い、いえ! 一言もそんなことは言ってないです!!」


 それならいい。それならいいんだ。

 ……まあ、幾つかの不満点はあるけれど、一先ず海を満喫することにしよう。



「疲れたねー」

「そうだねえ」


 車の中で、助手席に座っている少年はジュースを飲んでいた。少年はもうすっかり地球に慣れている。透き通る金色の髪は伸びてしまっていて、後ろで束ねている。


「髪、切ればいいのに」

「面倒臭いだけです」

「髪切るのが苦手なんじゃないの?」

「……僕の住んでいた惑星では、髪を切ることは悪いことだって言われていましたから。極力髪を切らないことにしていたんです」

「へえ。でもあなたと初めて会ったとき、それなりに短かったけど」

「年に一回だけ、髪の毛を切っていい日があるんだ。そして、その日に切った髪の毛は集められて、ある場所に供えるんだよ」

「供える、ねえ」


 やはり違う惑星だと違う文化が根付くものらしい。

 まあ、深く考えることはしないけれど。


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