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第七話「犠牲」

レイノアと雇い主と別れ、クレイスはひとり街を歩いて情報を集めていた。

…ソフトがいれば楽だったんだが…

流石に一晩でヘリは直しただろうし、多分新しい情報を求めに行っているだろう。

連絡するための通信機は持たせていないから、実際どこにいるかは分からない。

「なんとか良い情報が集まってくれると良いんだが…」

言っていても始まらない。クレイスはため息をついて聞き込みを始めた。

「…この男に見覚え、もしくは目撃しなかったか?」

「あっ…そいつは知らないがお前は知ってるぞ!?何故ここに…」

退散。

結局、あまり良い情報は入らなかった…

「ラムさんはナイフ使いなんだね」

「あぁ、俺のナイフは特殊合金製だからね、よほどのことがなければ…」

ラムとレイノアの二人はMADFISHが潜んでいると思われる廃工場を歩いていた。

「…だから兄さんより俺のほうが…」

「うん、ラムは凄いと思うよ。」

レイノアは近くの階段に腰かけた。

バッヂだらけの黒いジャケットを着たラムは首をかしげる。

「疲れたか?」

「うん…ひょっと【ちょっと】休憩ー」

レイノアは欠伸をしながら言った。

「しかし…あんたは本当にあの【ブラッド・レイ】なのか…?話に聞いてたのよりも…なんというか…」

「ブラッドなんたらは別に知らないけど…私はレイノア以外の誰でもないよ?」

「だよなぁ…そう返してくるよなぁ…」

ラムはため息をつきながら言う。

その時だった。

「…うぎゃあああああ…!」「!?」

声的に女の悲鳴だったと思う。

「なに?今の!?」

レイノアは立ち上がるとアサルトを取り出して弾帯をセットした。

「ずいぶん重そうな機関銃だなぁ」

ラムも懐から両刃の大きなナイフを出して空中で回転させてキャッチした。

「アサルトよ。よろしくね」

わざと一発ラムをかすめるように撃つ。

「ひでえ挨拶だな。躾がなってない」

「私、放任主義だから」

言いながらも二人は音の方へ走る。

「何かいたら私が後方支援に回るわ。…ラムは敵を誘導、もしくは撹乱して。」

「撹乱?複数だってのか?」

「複数だと困るでしょ!」

そう話し合いながらようやく二人はその場所へたどり着く。

「おいおい…マジかよ…」

廃工場のかなり奥まった場所。

倉庫が大量に建てられた、何かの保管庫のような場所があった。

そこには女がひとり倒れている。

胸をひと突きされたようだ…。

「…いるよ!」

レイノアは叫ぶと上に銃を向けた。

その瞬間、目の前に鮫の頭があった。

口の中に中年の男の顔があり、その顔がニタリと怪しく笑う。

「…見たナ」

「あんたが見せたんでしょおぉぉ!!」

レイノアはアサルトを乱射する。

しかし男はアサルトの弾を避けて、足払いをレイノアに仕掛けた。

「きゃあっ!」

レイノアは背中から地面に落ちて顔をしかめながらも乱射を止めない。

「手元を見れバ、貴様の弾など避け…」

「オラァ!」

男は盛大に吹き飛んだ。

近くのコンテナに盛大に突っ込み、全身を白い粉まみれにしながら自分を吹き飛ばした相手を睨む。

「へっ!全然駄目だなぁ!」

どちらに言っているのか。

「ありがと、ラム」

レイノアは起き上がるとアサルトの弾を補充した。その間にラムが突っ込む。

敵の男は二本の細剣を腰から抜き、右はフェンシング持ちに、左は肩に置いて構えラムを迎え撃つ。

「うおらぁ!ウララララ…」

ラムはナイフをまったく予測のつかないトリッキーな振り方で連撃を入れている。

対する男は片手の剣だけで弾く。子供をあやすように何も言わず、冷静に。

「くっ…流石に強えぇ」

ラムが距離を取った瞬間、

「あなた、MADFISHね、久しぶり!」

挨拶と同時にアサルトを乱射する。

だが…敵はそのすべてを剣に当て、弾道を変えてしまう荒業を使っていた。

「危ねっ!」

うち何発かはラムの方へも飛んでいく。

ラムは飛んでそれを避けると、ナイフを両手で持って構え、走った。

「死ねえ!◇リッパー!」

奥義。◆でないから単発で何度でも使用できる、技の様なものだ。

奥義の前の独特の◇の詠唱はこの世界の解明されていない謎の一つだ。

◇や◆の詠唱は人様々で、真にその道を極めた者が不意にたどり着く領域らしい。

…レイノアには、それがない。

いや、あるのだが使えない。

もし使えば、クレイスとは居られない。

「…え?」

ラムの技は見たところ、音速で敵に突っ込み、腹を狙うと見せかけすれ違い様に左脚を切り裂く奥義のようだった。

しかし相手は今、右の剣先を下にしてそれを止めている。

細剣のあの細い刀身で、ラムと鍔迫り合いをしているのだ。

「マジかよ…っ!あ゛っ…」

「ラム!!!」

相手は二本剣を持っている。

右の剣はラムのナイフを止め、左は…

深々とラムの背中に刺さっていた。

チリーン…と、ナイフが地面に落ちた。

「ぐ…ガアアァァッ!!」

レイノアが弾を換えている間、

それだけの事が一気に起きたのだ…。

「駄目ぇぇ!!」

レイノアはアサルトを男に向けた。

まだラムは生きている。

自分が引き付ければ、ラムは助かる。

この男は強い、だがクレイスとなら…

「ほら鮫頭っ!あなたの秘密を知ってるわ!バラされたく無かったら…」

「なッ…なにいいいいイィ!!?」

…うわ、一瞬で引っ掛かった!?

「大人しく武器を捨てて……っ!!」

男は一瞬でレイノアとの距離を詰め、蜂のように襲いかかる。

「なら生かしておけン!今すぐ死ネ!」

「いやだよ!まだ告白もしてないのに」

「何の話ダ!」

クレイスとたまに遊ぶことで少しは俊敏な避けはできる。でも相手が悪かった。

「うわっ…あぁぁ!」

左肩に剣が刺さる。

…つ…通信機、あれで早くクレイスを…

今度は右膝にかする。

レイノアは半ばパニックになりながらポシェット型の武器ケースを相手に投げつけた。反動で中から通信機が飛び出す。

「うお…しまっタ!」

空中で一瞬ばらまかれる弾帯を盾に、

レイノアは通信機のスイッチを入れ…

ドスッ………

「あれっ…?」

腕をまっすぐ伸ばして男が右手の細剣をつき出している。その切っ先は通信機。

レイノアは左手から通信機を離した。

弾帯ごときでは、盾にならなかった…。

「う…うわあああぁぁぁ!!」

アサルトを滅茶苦茶に振り回し、弾を散らしながらレイノアは逃げる。

…今まで色んな…様々な戦場をクレイスと見てきた。

だがクレイスは決して私を一人にしなかった。それに甘えて、私は自分自身が大きな物だと、勝手に決めつけていたんだ。

今なら…来てくれる…?

いや、甘えている場合じゃない!

廃工場の入り口で、レイノアはUターンした。奥の通路に、男がいる。

「忘れ物ダ」レイノアのポシェットをレイノアの前に投げて寄越す。

「ありがと」レイノアは見向きもせず、クレイスが来ないことを願いながら近くの鉄パイプを拾った。

「…何のつもりダ?」

「…はぁっ!」レイノアは流れるように男の距離を詰め、瞬速の剣閃を浴びせる。

「なにッ…馬鹿な…ッ」

右に払い、回転しながら縦に凪ぎ、

「◆ファースト・アサルト!」

相手の胸を穿つ速度で鉄パイプを突き出した。轟音と共にパイプが吸い込まれていく…軽い感触が返った。

…外した!?

「真剣なら負けていタナ」耳元で囁く。

「!」

声は真後ろから聞こえた。

まさか…っ!?

カキン。

鉄パイプは持ち手だけになっていた。

突いた反動で、パイプは遥か向こうで壁にぶつかって音を立てた。

「嘘でしょ…ぅああぁっ…!!」

嫌な耳につく音が聞こえ、身体が持ち上がる。…お腹から剣が出ている。

「お前軽いかラ、持ち上げても切れないナ…」後ろで囁くようにそう言われる。

「やめ…がはっ……!う…あっ…!!」

痛覚が遅れてようやく働く。

しかしレイノアにとってそれはただの枷でしかなかった。

「い…たい…抜いて…ぬいてよぉぉ!」

「では抜いてやろウ」

ズブッ。すごく嫌な音がした。

レイノアは地面に叩きつけられる。

目の前にアサルトがある。

いつの間にか手放していたのだろう。

地面に川が流れている。

赤い…綺麗な赤い川だ。

…眠いよ…クレイス…。

クレイスはいない。でも、だからこそ、

勘違いされてクレイスに嫌われるよりは

あの技をクレイスに見られなかったことがレイノアには安心だった…。

「クレイス…もう…痛くないよ…」

レイノアは呟くようにそう言った。

そして静かに、目を閉じた。

「マイルロフ!いないのか!」宿屋の部屋に飛び込み、クレイスは叫ぶ。

「何を慌てている?」マイルロフは欠伸をしながら机に突っ伏していた。

「レイノアからの通信機が切れた…あいつはラムと一緒だったんじゃないのか」

「なにっ…!」マイルロフは飛び起き、机の引き出しから埃を被った通信機を取り出してスイッチを入れる。

…着信音がすぐそばでした…。

「携帯しとけよ!何のための携帯だ!」

「…どこに行ったか分かるか」

「いや、基本的にラムは自分勝手に動く…まさかあの場所を…」

「どこだ!そこは!?」

マイルロフは机上の地図を指差した。

「…北西地区の廃工場跡だ…MADFISHが最後に目撃された場所…まさか…」

「そこか!?…くそっ!」

クレイスは出来るだけの装備を整えて、マイルロフの言った場所へと走り出した。

無事でいてくれ…レイノア!

「にゃああっ!離せ!ロバート離せぇ!今すぐワシの胸から手を離すのじゃあ!」

暴れまくる着物の少女を担いで、群青の甲冑に身を包んだ男は叫ぶ。

「駄目だイーリス…君は間違ってる!」

「嫌じゃ嫌じゃあ!たとえ明日から逃亡生活になろうとも、もう無駄じゃあ!」

「我が儘言うなって!子供かよ!」

「背丈は子供じゃあ!」

「年は俺より上だろっ!」

「心は永遠に12じゃあ!」

「それはそれで萌え…じゃなくて!」

ロバートと呼ばれた甲冑の男は兜を外して投げ捨てた。

「いいかいイーリス…」

「なんじゃ?」

ロバートは人通りの無い路上にイーリスを座らせた。睨むとイーリスは親に叱られた子供のような顔になる。

「懐からリモコンを出してごらん?」

「心得た」イーリスはそう言いながら懐からボタンが大量についたリモコンを取り出した。1〜9そして0の小さなボタン、それとひらがなで【えくすぷろーど】と書かれた大きなボタンのついたリモコンだ。

「イーリス…」「ロバート…」

二人は互いに見つめ合う…そして…

「クラッシュ!」

ロバートの拳がリモコンを粉砕させた。

「のあああああああ!!!!!」

「ふう、すっきりした」

「お主貴様おどれてめぇ何さらしとんじゃボケぇぇぇ!!?」

粉砕したリモコンの欠片を拾い集めながらイーリスは泣きながら訴える。

「いやぁ、だってそれ壊さないと、イーリスあの製薬会社爆破してたでしょ」

「否定はせん。あれは帝国の基地じゃ……………あ」イーリスはそう言いながら何かに気づいた。

「どうしたんだい?」

「これが破壊したと言うことは…」

遠くの方でとてつもない爆発音がした。

「…一応聞くけど…なにした?」

「このリモコンはな、破壊されると登録してある爆弾を全て【えくすぷろーど】させるのじゃっ★」

「………。」

「いやぁロバート!お主の爆弾が爆発しなくて良かったのう?【1番】の爆弾の登録してあるリモコンはこれじゃ」

同じような銀色のリモコンをイーリスは懐から出してちらつかせる。

「か…覚悟っ」

ロバートは刀を抜いてリモコンを切り捨てようと凪いだ。

危機一髪でイーリスが避ける。

「なにするのじゃ!やめぃ!」

「もう駄目だぁっ!俺達は指名手配だぁ!ならいっそ愛した人と心中しても…」

「ロバート!落ち着けぃ!まずはそこに直るのじゃ!」

「わかった」

ロバートは大人しくそこに正座した。

「ロバート…」「イーリス…」

二人は互いに見つめ合う…そして…

「成敗!」

「ぐわあああ!」

ロバートの股間にイーリスのタックルがクリティカルヒットした。

「ロバートよ…ワシはこの町におる。ワシを止めたかったら探し出してみせよ!」

「イーリス…今度あったらただじゃすまないから…な…」

ロバートは昇天した。

【続く】


ーあとがきー

レイノアが死んでしまいました。

ヒロイン死にました。

皆さん冷静に考えてください、

ヒロイン死んでお話になりますか?


さて、新キャラが出ましたね、

なにやら凸凹カップルです!

青い甲冑のロバート、そして

何故か着物姿のイーリス。

イーリスには爆弾魔疑惑が…

次回はどうなってしまうのか!

皆さんこうご期待。


あ、そうだ。

基本的に回りをよく見ないレイノアは、筆記上わざと回りの状況をわかりづらく書いています。

決して手抜きではありません。

えぇ。手を抜くためにレイノアやイーリス視点を多くしようとは全く…

クレイスが主役です。はい、次回は出来るだけクレイス視点で。

努力します。頑張りますぅぅ…

【作者逃走】

…また次回、お会いしましょう!

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