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第六話「汚れた街」

マドゥル・シャンペンは鉱山の街だ。

雨の少ない気候の為に地面は琥珀色の砂に覆われ、荒廃的な雰囲気を醸し出す。

しかし近くにある巨大な鉱山からは各国も驚く程の鉱産資源が採掘される。

この資源を輸出し、輸入した加工品をさらに加工したり、採れた資源を自ら加工したりして利益を伸ばしたマドゥル・シャンペンは今では輸出大国となっていた。

その独特な街並みは、賞金稼ぎが集まるウェスタンな外装の建物が集まり、ちょっとした観光客も来ることがある。

…唯一難点を挙げるならば…

とても空気が汚いと言うことだろうか?

そんな街の一角、とある安い宿で丁度二人の男が起床した。

「おはよう弟よ!」

元気に隣で起きている弟に手を振る。

「やぁ、兄さん。…1ついいかな?」

「なんだね?」

「人の睡眠時間は普通7時間が丁度いいらしいよ…今昼なんだけどさ…」

「あぁ。たっぷり10時間は寝たな」

「昨日さ、明日は早起きしようって言ったよね?何してんの?二度寝したよ?」

「仕方ないじゃないか」悪びれずに兄の、白い顎髭を伸ばした紳士風の男が言う。

「何がさ」対して弟の方は、若者が好んで着そうなお洒落なバッチを沢山着けたジャケットを着た今時の若者だった。

「私は昨日、もう少しであの【MADFISH】を捕まえられたのだよ?それを…」

「兄さんが頭を押さえて縮こまっている間に逃げられたんじゃないか…」

「あぁそうだ。だからヤケ寝してやった。ラム?何か文句あるかね?」

「それはふて寝って言うんだよ…」

ラムと呼ばれた弟は溜め息をついた。

「だがな、驚け弟よ…写真を撮ったぞ」

兄が見せた写真には、弟がチラシ配りをしている姿が生々しく写っていた…。

しかも女装しながら…だ。

「こ…殺すっ」

「あぁ間違えた、これだよこれ」

兄を殴ろうとした瞬間、兄が写真をすり替えるようにして見せた。

そこには全身を黒タイツで覆った、頭に鮫のマスクを被った男が映っている。

その男は両手に殺傷能力の高そうな細剣を持っていた。

「情報では彼はもともとフェンシング世界大会優勝者だった経験があるらしいぞ」

「そんな奴に勝てるのかよ…」

ラムは溜め息をついて身支度を始めた。

「弟よ。何処へ行くのかね?」

「バイト探してくる」

「そうは言っても弟よ。前回レストランのウェイターやってた時に客にアッパーカット決めてからからっきしじゃないか」

「仕方ないだろ。この街ってよく考えたらガラの悪い奴らだらけだし…」

「絵師でもやればいいのではないかね」

「今時そんなので生計立てられるかよ」

「じやあどうするのかね」兄はベッドに足を組んで座った。

「安い賞金首でも探してくるか…な?」

「安いとは言っても相手は大概武器を持っているんだぞ?そんな危険な事は…」

「じゃあ他に何すればいいんだよ!」

かっとなってラムは叫んだ。

「ここで調査の手伝いをだな…」

「そんな調査に何の意味があるんだよ!もういっそ最高の傭兵でも雇ってそいつに殺らせればいいんじゃないか!?」

「ラム…またその方向でいくのかね…」

「兄さんは臆病過ぎだ!…もう昔みたいに頼れないなら俺一人でも殺ってやる」

ラムは部屋を逃げるように飛び出した。

「…」

残された兄は静かに目を閉じて、

「…もう弟を失うのは嫌だからな…」

と言った。

「ふふふ〜ん♪ふんふんふ〜ん♪」

「おい…レイノア」「なに?」

朝起きると珍しくレイノアが早起きしていた…お陰で今目の前には着替え途中のレイノアの姿がある。

「…お前も少しは恥じらえよ…」

「え?なんでクレイスが見てるだけで恥じらわなくちゃいけないの?まぁ、ソフトだったら地獄に叩き込むけど」下着を外しにかかったのでクレイスはなるべく見ないようにして自分の用意を進める。

「あれ?そういえばソフトは?」

「結局あのあと俺達はマドゥル・シャンペンまで逃げてきて、ソフトは情報収集とヘリコプター修理でしばらく別れることになったんだろう…忘れたのか」

「あ、そうだった。ところでクレイス」

「…何だ」非常に嫌な予感がする。

「こっち見て!」

さっと振り向くとレイノアが見事に全裸だったのでクレイスは慌てて部屋から飛び出すように逃げた。

「あはは〜逃げることないのに〜♪」

「…お前はどうしてたまに理解できない行動に走るんだ!」

後ろ手で扉を閉め、その場に尻をつく。

大きな溜め息が出た。

「このクソ野郎!」ダァンと音を響かせ、壁を殴っている男がいた。

…決して俺ではない。間違えた奴殺す。

用心するに越したことはないので一応リボルバーに手をかけながらクレイスは男に声を掛けることにした。

「…何をしている」

「何だと…うお!?」

クレイスの顔を見るなりそいつは懐に手を入れながらじりじりと後ずさっていく。

「…何故逃げる…」

「お…お前は…深淵の弾光【レイ・オブ・アビス】の…クレイス・グラムスティール…」

「…あぁ。ちなみにその呼ばれ方は久しぶりだな。いつもはレイノアと二人で【デュアル・レイ】と呼ばれるからな」

「じゃあ、鮮血の光【ブラッド・レイ】のレイノア・リッシリアも…」

ここまでフルネームを知っているという事は、相手は相当な情報屋、もしくは腕の立つ殺し屋、賞金稼ぎの類いなのだろう。

「まぁ、お前を相手にするなら…」クレイスは両手に銃を構える。「俺だけで十分だかな」

殺し屋、賞金稼ぎが相手の二つ名を叫ぶということはすなわち相手に殺し合いを申し込んでいることになる。

…まぁ、こいつは実名までフルネームで言いやがったが…

「ま、待てよ。戦うつもりはない」

「なに…?」

予想に反して相手は両手を上げた。

「突然襲いかかられても困るからちょっと距離を置いただけさ!…本当だ!」

「…」クレイスは何も言えなくなった。

こういう事態は初めてだ。

罠だ。罠だと体が警告している。

「すまん。やはり罠だと体が言っていて歯止めが効きそうにない。悪いがそこの白い壁の染みになってくれないか?」

「うわぁ待ってくれ!そ、そうだ!これを見てくれ!」

男はこちらに写真を投げてきた。

クレイスは地面に落ちたそれを拾い上げると、男の動きに注意しながら見た。

「…こいつは…」

S級犯罪者…MADFISH…

三年前の遠征で会ったことがある。

…多分向こうは覚えて無いだろうが。

彼は快楽殺人者とも言われていた。

だが殺しの手法は至ってシンプルで、男なら喉を一刺し、女なら心臓を一刺しだ。

決して猟奇的な殺しをする奴ではない。

ただ純粋に人を殺すことを自分の使命のように感じてしまうらしかった。

「俺は…悪い奴だよナ…?」「あぁ」

最後に交わした言葉はいまでも思い出せる。そいつが何故…?

「この街で出没してるS級犯罪者…名をMADFISHという…」

「…あぁ、知っている。それで?」

「協力者を探しているんだ。頼む」

男は頭を下げた。

…どうしたものか…

「…別に良いんじゃない?」「うお」

いつの間にか背後にレイノアがいた。

「写真見せて〜クレイス」

クレイスはレイノアに写真を渡す。

「わぁ、この人誰だったっけ?」

「…知らないくせにわぁって言うなよ」

「協力してくれるか?もし成功したら賞金から一千万は君達に渡す。」

「…元の確保金は?」

「一千五百万だ。我々は五百万あれば足りるからな。」

これに答えたのは男の背後から現れた黒いハットを被った男だった。

「弟よ。でかした!…と言いたい所だが…もう少し謙虚にはなれなかったのかな」

「どういうことだよ、兄さん」

「…いや…この人達もS級だろう…しかも、MADFISHの何倍の賞金がかかって…」

…カチャッ。クレイスはわざと音が聞こえるように安全装置を動かした。

「待ちたまえ!早まるんじゃない!」

「クレイス、そろそろ朝食にしない?」

「…………。」レイノアの空気を読まない発言に、一瞬の静寂が流れた…。

「…話は下の食堂で聞こう。」

仕方なくクレイスがそう言うと。

弟と兄は目を輝かせた。

「わかった!」

「悩むな…」クレイスはメニューを見ながら唸った。「どれもなかなか…」

「私ピザトーストにする!」

そして即答のレイノア。

「ここはカルボナーラが絶品ですぞ」

兄のその言葉に流され、

「…ならそれにするか」

と優柔不断のクレイスが注文した。

「さて、自己紹介を始めようかね。」

兄の方が帽子を脱いで一礼する。

「私はマイルロフ・アレイ。【レンタルタイガー】の最高責任者兼リーダーだ。…まぁ、今となっては団員は私と弟のラムしかいなくなってしまったのだがね…」

話には聞いたことがある。殺し屋の実力を買い、力とする奇妙な賞金稼ぎがいる。

彼らは確保金の山分けを対価にこれまで様々な有名ターゲットを葬っていったと。

「ただな…よく雇った殺し屋が寝返るから、兄さんは乗り気じゃないみたいだがな。俺はラムだ。【レンタルタイガー】の諜報部員兼実働部隊だ。得意武器は幅広ナイフ、まぁ、よろしくな」

クレイスはラムの差し出した手を握り返す。それを見てラムが不思議な顔をした。

「…どうした?」

「お前警戒してないのか?今俺が手の中に毒針でも仕込んでたらどうするんだ?」

どうやら殺し屋にしてはあまりにも警戒心が無いと思われたらしい。

「…お前に殺意が無いことは気配で分かるからな…何なら見せてやろうか?」

クレイスは目を閉じた。

「今俺たちの他には4人客がいるな」

「ほう」マイルロフは感心した声を出した。「確かに…だがそれは…」

「暗記してれば分かる。だろう?それでも分からないことを今当ててやる」

「やってみろよ」ラムが腕を組んだ。

「窓の外を見てみろ。誰もいないな?」

「だね」レイノアが言った。

「これから右から青いコートをしたアゴヒゲの濃い男が通る」

クレイスがそう言うと…

「おお!確かに!しかしアゴヒゲや着てる服までどうして分かるのかね!?」

「まぁ、そこは何となくだ。俺もこの能力を完全に使いこなせていないからな…」

「へえ…じゃあ、兄さんの武器は?」

「これ、ラム…私の武器は部屋だ。いくら気配が読めるといっても…」

「片手だけだが、俺と同じリボルバー使いか…撃ち方を教えてやろうか?」

「なにっ…私の武器はおろか、不得手だということも当てた…だと…?」

人それぞれ、持っている気配は違う。

マイルロフというこの男は、あまり戦うことが得意ではないようだ。

「お待たせしました」

ウェイトレスが料理を運んできた。

「…」クレイスはパスタを口に入れるなり顔をしかめる。「…貝に…砂が…」

「ま、まぁここに出回るのは主に闇取引で手に入れるような品質の物ですからな。我慢していただくしか…」

「ピザトーストは美味しいよ?」

「いや…それに使われてる野菜も…いや言うのはよそう」

ラムはレイノアから目を離すと自分の食事にとりかかった。

「…で、マイルロフ。ターゲットはMADFISH。殺せばいいのか?」

「あぁ。奴のことだ。生け捕りは無理だろうからな。しっかり殺ってほしい」

「わかった。レイノア、食べ終わったら散開して街に情報を集めに行こう。」

「うん!」

【続く】


今日のケイオスの呟き


マドゥル・シャンペン編が始まりました

一体どうなってしまうのか!?

ちなみに次回予告は毎回は

やれませんでした…

次の街に向かうとき

新たにキャラクターを変えて

やろうかと思います

すみません!


それではまたいつものように

次回もお楽しみ下さい

では!

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