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第二話「衝突」

「さて、話してもらおうか。」

店を出た後建物の間にあるスラム街で、

クレイスは近くのドラム缶に腰かけた。

「よしよし、では聞きたまえ!」

基本的にお調子者のソフトは両腕を

広く広げて大袈裟なポーズをとった。

「…金がない。」 「…」

……………。

「レイノア、撃て」 「はい」

ドダダダダダダダダダダダダダ!

「うわあ冗談だってえ!し、死ぬ!」

「うるさいとっととくたばれ臆病者。」

やがてレイノアが射撃をやめ、ドラム缶の影からおそるおそるソフトが現れた。

「金がないのは本当だぜ!そもそもBEARが悪いんだよ!」

「BEARだと?」クレイスはその名前に興味を示した。「BEARと言えばこの町の最も高いビルの会社…だな。確か金融会社も併設しているんだろう?…そこに借りにいったのか」

「ああ。…けど金利がひどすぎて話にならねえんだよな。…で、本題だ。」

「俺らに…潰してこいと?」

「そうだな。…一応まだ日は浅いから俺の名前は全国登録されてないはず…」

「私たちに…泥棒の手伝いさせるの?」

レイノアはどうやらあまり乗り気ではないようで、ソフトに向けて銃を構えた。

「…何も無報酬でなんて言ってないだろ。でも俺は今金がない〜♪」

「仕方ない、レイノア、撃て。」

ガガガガガガガガガガガガ!

「バババ馬鹿野郎そんなの食らったら三秒でアウトだっての!しかもレイノア!かよわい女の子はそんなの撃つなぁ!」

「クレイスが撃っていいっていったから、私は撃ってるんだよ?だから大丈夫。」

レイノアはとびきりの笑顔を向けた。

「わけわからんわぁ!と、ともかく、受けるんなら今日11:58にここだぜ。」

「報酬は?」クレイスはソフトを見た。

「ふはは驚け!これだあ!過去最高!」

そう言うとソフトは四本指を立てた。

「ほほう、なるほど四千万か!」

「クレイス、すごいよ!四億だよ!」

「宝くじにでも当たるつもりかああ!」

「分かった、4兆だな」

クレイスも笑ってレイノアに合わせた。

「国家予算じゃねえか!?」ソフトは慌てて言った。「…四千万だよ」

「……?」クレイスはソフトを睨んだ。

「よ…四千五百万…」 「…成立だな」

「たくさん武器が買えるね!」

レイノアは必要以上に喜んでいる。

「お前らなぁ…そんだけ手に入れて何に使うつもりだよ…」

「…待ち合わせには間に合うようにする。…レイノア、行くぞ。」

あえてソフトの言葉を無視する。

ソフトなら察しはつけてくれるだろう。

「…うん!」クレイスはきびすを返し、

町の大通りに入る。

この時間にもなるとさすがにそろそろ人も出てきて、少し賑やかな商店街を歩きながらクレイスはふと呟いた。

「…手配書はまだ回っていないのか」

「みたいだね。私達それなり有名人のはずなんだけどな…」

「色んな意味でな」ふとクレイスの脳裏に様々な情景が浮かんでくる。「殺人、基地破壊、国家反逆者のS級犯罪者…」

「誰が呼んだか、着いたあだ名は【対の閃光】デュアル・レイ!」

レイノアはくるりと回って見せた。

「…楽しそうだな…」

「だって楽しいもん!」

…追われている身で楽しいとは…。

「あまり大声を出すな…バレたら困る」

「そう…だね…」レイノアはしゅんとしてとぼとぼ歩き始めた。

レイノアははっきり言ってもう少し町では静かにしていた方がいいと思う。

だが…俯く彼女を見ているうち、俺の【持病】が出てきた。

「…あの屋台でたこ焼でも買うか?」

俺もかなり甘やかし過ぎだと思う。

いや、なんと言うか…俺は昔から自分より小さな女性が困っているのを放って置けない病気らしい…。

ソフトはそれには【ろりこん】という病名がついていて、中年やモテない男性に多い精神障害であると言っていた。【ちなみにそのやりとりを聞いたレイノアが一晩中笑い転げていたのは今でも謎だ。】

「食べる!!」

レイノアは一瞬で元の調子に戻った。

「すまん…これを1つ貰えないだろうか」俺は屋台でたこ焼を買うと、レイノアに紙に包んだたこ焼を渡した。

「…クレイスは?」

「俺はお前が食い残したのを貰う…大盛を頼んだんだ、食いきれないだろう?」

「そっか、じゃあ半分だね!」

「それを食べたら次は武具屋を探そう…ここにも帝国に回してる武器を取り扱う店があったはずだ」

「わかった」レイノアはそう頷くと近くのベンチに座って早速食べ始めた。

皮肉な物だが、帝国の武具屋の支店が一番最新の道具を置いている事が多い。

まぁ、自営業の方は対応しやすいし、掘り出し物やアンティークな物品を取り扱っているから、自営業の場所があるならそれに越したことはないのだが…。

「クレイス…ごめん…美味しかった」

レイノアはこの短時間で全て平らげてしまっていた。いくらなんでも早い…。

「…太るぞ」

「クレイスが責任とってくれるから大丈夫」レイノアは即答する。

「…」クレイスは軽く溜め息をつくと、

レイノアに先に待ち合わせ場所で待つよう指示を出した。

「えー、クレイスとショッピングしたかったよー…」と文句を言うレイノアを、

「ソフトが選ぶ場所は確かに人通りが無いが、だから安全かと言われれば違う。」

「…ってことは…偵察ってこと?」

「下見…といった方が良いだろう。先に場所に行って待っていてくれるか?」

「もちろん!じゃあ、またね」

「あぁ待て!忘れてるぞ!」

走りだそうとしたレイノアの襟を掴んで引き寄せると、クレイスは小さな悪魔の羽の飾りのついた少し大きめの黒いポシェットを取り出した。

「武器ケースぐらい持っておけ」

「あ、クレイスに持ってもらってたんだった…えへへ」レイノアは自分の頭をポカンと叩いていたずらっぽく笑った。「じゃあ、また後でねー!」

…ちなみに武器ケースとは最新の技術を取り入れた小型の鞄の事だ。

グロヴァーム帝国の技術らしいが、見た目は小型だが、中には不思議と沢山入る便利な鞄で、形は人それぞれだ。

レイノアはポシェット、俺は黒い金属製のアタッシェケースを持っている。

…ちなみに鞄ではないが、ソフトの頭に着けているバンダナには銃弾が沢山入るらしい…あれも同じ技術だ。

ただ…さすがに値が張るので、まず一般人は持っていないだろう…。


そうこうしている間にレイノアが見えなくなったので、クレイスは狭い路地に足を運んでいった。…しばらく気の向くまま、スラム街を歩いていく…。

(…ついて来ているな…)

背後から何者かの気配を感じながら、

クレイスはしばらく路地を回った。

…多分手配書は真っ先に賞金稼ぎギルドに回るから、奴らは俺を狙った賞金稼ぎに違いない。

「……ヒャッハァ!」「!?」

…前に気配!?

反射的に体を傾け、飛んできたナイフを避ける。ナイフは近くの朽ちた木造の看板に当たり地面に軽い音をたてて落ちた。

「…ヒーハー!」

エンジン音がする…今度は上!?

クレイスは弾かれたように上を見た。

「ちっ…!」クレイスは舌打ちをした。

目視で五台…バイクがこっちに向かって上から落ちてくる…!

クレイスは着地位置を瞬時に直感しつつ、二丁のリボルバー拳銃を腰のホルスターから取り出す。

バイクがクレイスの体を軽く擦って着地する。土ぼこりが舞い、視界が霞む。

「…そこだ!」

狙いは当然的確だった。

クレイスは左右の銃を構え、撃つ。

土ぼこりの中に吸い込まれるようにして消えた銃声の中に確かに、二人分の悲鳴が聞こえたのをクレイスは感じとる。

…あと三人か…

「オラオラァ!」

ガラの悪い声と共に目の前に拳が繰り出された。眼前に迫るそれをクレイスは冷静に身をずらして避け、

「…黙っていろ」左手の銃で撃ち抜いた

「ぎゃああああああ!!」

パンと言う軽い音がしてクレイスの顔に何かが張りつく。

クレイスはそれを右の銃身で払い、銃口が下を向いた瞬間に引き金を引いた。

…あと二人…

次の瞬間、クレイスの動きが止まる。

「…っ!」飛び退くのが一瞬でも遅れていたら確実に死んでいた。

目の端にさっき立っていた場所に土の柱ができて消える。

…ライフル射撃…それもスナイパーだ!

クレイスのリボルバーの残弾は、両方三発ずつ撃ったので左右ともそれぞれ左が5発、右が3発…向こうにこちらの状況が見えている今、リロードは不可能だ。

照光爆弾【スタングレネード】はレイノアの武器ケースに入っている。

彼女がいればこの時点で相手の目を眩まし、周りを彼女が、俺がスナイパーを倒す作戦が出来たが…

(まぁ…俺にも切り札がない訳ではないがな…)クレイスは軽く深呼吸した。

もう一発のライフル射撃を回避すると、

「◆ラスト=サバイバー!」

「…!やべぇ逃げ…」

クレイスは全ての五感を集中し、辺りの【存在している】物に銃口を向けた。

実際第三者から見ればクレイスはその場で一回回りながら銃を乱射したように見える。しかし…

倒れたバイクの燃料部分、スナイパー持ち、目の前の二人、そして、他はスナイパーの横のガスタンク、何故か一つ転がっている砂袋、そしてあと二発は目の前の二人の頭にもう一度。

クレイスは回り終えた後、冷静にリロードを始めた。次いで二人の悲鳴、しぶとく息のあった一人の命を爆発したバイクが一瞬で奪い去る。

スナイパー持ちの悲鳴、更にその横のガスタンクが爆発、その風圧で砂袋の舞った砂が更に視界を悪くさせる。

「さて…行くか」

リロードを完了すると、クレイスはレイノアとの合流位置へと向かった。

先程の技はクレイスの【アテンション・ブースト】別名【あらゆる気配を読み取る】能力を最大限に利用した、

クレイスのみが使える奥義である。

奥義とは殺し屋が独自に開発した、特に自分にしか出来ない能力を最大限に生かした技のようなもので、裏の闘技場などでも見世物として人に見せる者も多い。

クレイスは他にもいくつも奥義を習得しているが、先程の奥義が最も使いやすいと思っている。

奥義の習得には【アテンション・ブースト】のような能力が必要不可欠であり、そのためレイノアは奥義を使うことは出来ない。

…まぁレイノアの場合、強力な機関銃を持っているからあまり必要はないとは思うがな…

そう言えばさっきの賞金稼ぎのスナイパー使いはかなりの手練れだった。

あれほどの使い手なら契約金はかなりの値段になりそうだ。それでも受けたと言うことはきっと賞金が恐ろしい額になっている、ということであり…

さすがにあれ以上腕のたつスナイパーが二人、いや三人来るなら流石のクレイスも勝てる気がしないし、実際レイノアなら不意討ちされれば避けることは出来ないだろう…

「レイノア…!」クレイスは気づいた。

俺だけ狙われるのならまだいい。だがレイノアは今や俺と行動を共にしているパートナーだ。狙われる可能性はある。

…別れたのが裏目に出たか…!

手配書の回りが予想より速かった。

急いでレイノアと合流しなければ…

最悪の事態は帝国軍との挟み撃ちだ。

いくら身体が小さくて隠れるのが上手いレイノアといえども、数が多ければ時間の問題で…!

「ちっ…!」クレイスは舌打ちをした。

【続く】


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