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第二十六話「紅の国旗は不滅を意味するーイチ」

紅城下ルビアノス王国。

王が住まう巨大な塔のような城を中心にドーム状に建造物が並ぶ。

元は巨大な山の上に国を作ったらしい。

「蛮族から城を護るためだ」

とアレクトは言っていた。

城とそれらを囲う城壁は夕暮れの光を浴びて金色に光を放っていた。その全てが赤い鉱石で出来ているという。

城下町は交易の拠点といったイメージで、遠目にも各国から寄せられた特産品を売っている店が多いように見える。

港の噴水広場では子供たちが仲良く手を振り合っていた。

賑やかで良い雰囲気の町である。


「うわぁ…すごーい!グロヴァームのラックズタワーよりも高いよ!?」

着くなりレイノアがはしゃぎ始めた。

良かった…いつものレイノアだ。

クレイスはフッと表情を崩した。

無理している感じではない、本当に肩の荷が降りたのだろう。

「乗る前は元気無かったですけど…本当に良かったです」

フィアがクレイスの隣に立って言った。

「そうだな」

「ただ…あのですね!いくら密室だからって、何もボートの中でイチャつかなくってもいいじゃないですかぁっ!」フィアは手を振り回しながらそう訴えた。

「う…すまん」

「ごめんなさぁい!」

ロバートが泣きながら叫んだ。

「何でロバートさんが謝るんですか…」

呆れた顔でフィアはロバートを見る。

「手続きは済ませておいたぞ」そんな風に停泊したボート周辺でたむろしていると、アーフィーを連れたアレクトが近くの建物から出てきた。「入国許可証だ。再発行には我輩が同伴していなければならん故、紛失には十分注意したまえ」

「すまんな。それとアレクト、まずは宿の手配をしたいんだが、この国でこいつは使えるのか?」

クレイスは賞金稼ぎ用の電子マネーカードをアレクトに見せる。

「あぁそうか、ここは別の国だから俺様達が持っている金と流通硬貨が違うのか」

ロバートは財布を開けて見る。

「え、じゃあもしかして私達イチ文無しってこと?」レイノアは心配そうに言う。

「その可能性は大いにあるのう…」

「えぇ、そんなぁ…」

「バウンティリワードと似ているな…」アレクトはクレイスから渡されたカードを見ながら呟いた。「クレイス君、一度私と登城して貰えないだろうか。宿のことは心配ない、アーフィー君に場所を教えてある。宿代も我輩が持とう」

「わぁ、太っ腹!」レイノアがニコニコとアレクトに笑いかけた。

「分かった。宿の場所がわかったら各自自由行動にしよう。夕食も終わらせておいてくれ…それとアレクト、城に行くならレイノアも連れていって構わないか?」

「クレイス…!」

レイノアは嬉しそうだ。

「勿論構わない。多人数では困るのだが、二人なら問題ない…」アレクトはアーフィーの肩をポンと叩いた。「ではアーフィー君、後は頼んだよ」

「お任せください」アーフィーは敬礼した。「マスター、後程迎えに上がります」

「ありがと、アーちゃん」

レイノアはアーフィーに手を振った。

紅城と呼ばれる場所はとても高く、一番上は雲を突き抜けていた。

正門は頑丈で、かなり…巨大だった。

…トラックが縦に三つ並びそうだな。

横幅などは横向きに二台は置ける。

「ご苦労様です!サーキュロイズ中佐殿!只今門をお開けしますので、しばらくお待ち下さい」

衛兵がアレクトに敬礼する。

「よろしく頼むよ」アレクトはそう言いながら兵士に敬礼を返すと、少し離れるようにクレイス達に合図する。

そして…

「うわあ…すごい…!」

レイノアが声をあげるのも無理はない。

クレイスも目を見張るほど、門は重厚な音をたてて開いていく。その先には、その巨大な門の横幅と同じぐらいの大きな大理石の階段が続いている。

「よし、ついてきたまえ」

アレクトはそう言うと、門に一礼してから門をくぐった。

もしや礼儀の一部なのかと思いクレイスも同じように頭を下げて門をくぐる。

レイノアは気にしていないようであちこちをキョロキョロ見回しながらクレイスの後についてくる。

手の込んだ装飾が施された廊下を抜けると、【税務省】と書かれた広い場所に出た。アレクトは駆けつけた若い女騎士に声をかける。二人はなにやら話を始めた。

「クレイス〜、ちょっとここで座って良い?流石に足が疲れたよ〜」

「あぁ」思ったのだが、この国の軍に属している者は全員紅い甲冑を身につけているようだ。

…今は夏なんだが…。

実際、標高が高い場所に有るとはいえ、夕日が落ちたあとでも多少蒸し暑い。

レイノアはとっくにワンピース姿だし、クレイスもそろそろ額に汗が浮いてきた。

きっとあの甲冑の女もとても暑いのを我慢しているのだろう…。

片手にハンカチを常時装備して、ことあるごとに額に当てていた。

「クレイス君」アレクトに呼ばれたのでクレイスはレイノアから離れてアレクトの所へ向かう。「こちらは税務省の受付のリッツァだ。早速だがクレイス君、リッツァに先程のカードを見せて貰えないか?」

「あぁ」クレイスはカードを見せた。

「お預かりしますね」リッツァは小さい声でそう言うと、クレイスからカードを受け取り、膝のホルスターから四角い画面のついた機械を出すと、カードをスキャンするように機械を動かす。

「どうかね…?」

リッツァにアレクトはそう声をかける。

「バウンティリワードとスキャン方法が同じですね。ただ、一度本体サーバーに新規扱いにして同期させた方が…」

「ふむ…では頼めるかな」

「かしこまりました」リッツァはクレイスに向き直って敬礼する。「一時間ほどお預かりしますね」

「分かった」

「では、失礼します」

リッツァはそう言うと、広間の奥にある受付の方へ歩いていった。

「さて、君達に少し話がある」

アレクトはリッツァが居なくなるのを見計らってクレイスに話しかける。

「あぁ」

クレイスはアレクトに向き直った。

「アーフィー君から聞いた話では、君達はグロヴァーム帝国側で揉め事を起こして、この国に亡命を希望しているそうだね」

「アーフィーちゃん…正直に話しちゃったんだ…」

レイノアが頭を押さえた。

ただクレイスは無理に素性を隠すより、正直に身元を明かした方が良いと思っていた。個人情報であるマネーカードだってさっきリッツァに渡している。

「いや、無理に身元を隠しても我々の国には入港出来なかっただろう。君達は我輩に出会って本当に幸運だった。無論帝国側から要請があろうとなかろうと、我々はグロヴァームにすぐには君達を引き渡すことはないから安心したまえ…ただ…」

「ただ?」レイノアが首を傾げた。

「我輩は実は、深刻なバウンティハンターの不足を受けて、グロヴァームに応援を求めるという任を任されていたのだが…」

「バウンティハンターって?」

レイノアがアレクトに質問する。

「治安維持省から発行される要請を受けて、殺人犯や危険な組織を相手にしたり、時にはパトロールのような簡単な仕事をしてくれる、有志の傭兵組織のような物だ」

「なるほど…賞金稼ぎと似ているな」

クレイスは頷いた。

「それで本題なのだが、君達をそのバウンティハンターとして国に迎えた…と言うことにしたいのだ。そうすれば紅城内を好きに移動出来るし、我輩とも連絡が取りやすくもなる。どうかね?」

「…他の皆にも相談する必要が有りそうだが…俺個人としては良いとは思う。どうだ?レイノア。丁度仕事には困っていた所だろう?」

「ここまで良くして貰ったんだもんね…私はクレイスが良いって言うならいいよ」

「ちなみにアーフィー君にロバート君に無線機を渡すように言ってある」アレクトは用意周到にもその無線機をクレイスに渡した「さぁ、好きなだけ確認したまえ」

「アレクト…お前は騎士より商人になった方が良いとか言われないか…?」

「ふふっ、これでも我輩は治安維持省直属の依頼交付局の局長なのだよ?バウンティハンター勧誘に関してなら我輩の右に出るものはいない!」

アレクトは胸を張った。

なるほど…アレクトがグロヴァームに使者として送り込まれたのはそういう勧誘交渉のプロだったからか。

『ん?おぉい聞こえるか?』

ロバートの声が聞こえた。

「俺だ。皆は今どこにいる?」

『あぁ隊長か!皆今一緒に夕食を取ってた所だぜ…で、どうかしたのか?』

「少し話があるんだが…」

クレイスはロバートにバウンティハンターの件を手短に伝える。

『皆に確認…別に隊長が好きにして良いとは思うんだが…まぁ、聞いておくか』

少しの時間、ロバートが周りに話をしている音が小さく聞こえる。

『…よし、あークレイス?皆大丈夫みたいだ。それとな…』

「それと?」

『宿屋にさっさと戻ってこいよ。お前に会いたいって奴がいるから』

「分かった」

…俺に会いたいやつ…か…。

誰だろう?国外に知人はいないはずだ。

一度レイノアに襲われたリーノだとしても、わざわざ皆の前に姿を現すまい。

「…その話、引き受けよう」

クレイスはアレクトにそう返答した。

「そう言ってくれると思っていたよ」無線機を受けとるとアレクトは微笑みながら歩き出す「では、もうしばらく付き合って貰えないだろうか?」

外に出るともう既に辺りは夜の闇に包まれていた。

「お疲れ様でした」と衛兵から声をかけられたので会釈を返す。

「んぅー…っ」レイノアが伸びをした。「流石に落ち着かなかったなぁ…肩凝っちゃった…。それにしても、クレイスって礼儀作法とか気にするイメージ無かったから、ちょっと意外かも」

「一応俺らは余所者だからな…海を越えて帝国の奴らが万が一来たときの為に、敵はあまり作らないようにだな…」

「でも、少し前のクレイスなら考えられなかった事だよね、それ」

レイノアはクレイスの目を見つめた。

「…そうだな」クレイスは眼下の町の明かりを見つめる「あの頃の俺は、【失う】事を恐れていなかったからな…」

「殺し屋としては合格じゃない?」

クレイスはレイノアを見た。レイノアの目は真剣そのものだ。

「殺し屋…か」クレイスは呟いた「失う事を恐れながら、ずっと逃げるだけの日々を過ごしていた。俺は…殺し屋というより、ただの臆病者だったのかもしれん」

「クレイス…」

「レイノア、お前がいたから…お前を失いたくないと思ったから…俺はきっと逃げる選択肢を選ぶ事が出来たんだ。今の俺は殺し屋じゃない…護りたいものを護りたいと思う…ただの一人の男なんだ」クレイスはレイノアの手を握る「親の仇討ちは当然まだ諦めていない。もっと力を蓄えたら、俺はまた帝国に行く。ただ…どんなことがあろうと、お前だけは失うつもりはない」

「…じゃあ、もう大丈夫かな」

レイノアが小さく呟いた。

「…?」

「あのね!クレイス…」レイノアは顔を伏せた「ちょっと一緒に来てくれる?」

今は使われていない建物を見つけた。

レイノアは立ち入り禁止の札を躊躇なくくぐり抜け、クレイスを中に誘導する。

「レイノア、一体ここは…」

「ここでいいか」レイノアは椅子の並んだ会議室のような場所で止まった。

窓から月明かりが差し込んでくる。

「…えっとね…何処から話そうかな…」レイノアは何故か元気が無かった。

…何か彼女の気に触るような事を言ったのだろうか?そんな覚えはないが…

「レイノア?」

「クレイスは…親の仇を討ちたい?」

「あ、あぁ…」

「その為に何かを失っても?」

「どういう…意味だ?」

クレイスにはレイノアの言わんとしている事が全く理解出来ない。

「じゃあ…銃を取って。クレイス」そして彼女はいきなりアサルトをクレイスに向けた「もう私は…迷わないから」

「レイノア!?」

「大丈夫よ。私が死んでも貴方は死なない。だってさっきボートの中で貴方にコアを渡したんだもの」

「待て、一体…」

ガガガガガ!

猛烈な機械音と共にクレイスに雨のように鉛弾が飛んでくる。

間一髪、机に身を隠して射撃をやり過ごすが、レイノアのアサルトを相手にするなら、こんな戦術では机ごと破壊されるのがオチだろう。

「クレイス…言っておくけど私は正気だから…貴方も容赦しないで」

レイノアは射撃の手を緩めた。

クレイスはその隙に手榴弾に警戒しながらコートを羽織った。

…一体何が起きているんだ…?

【続く】


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