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第十九話「傀儡の契約」

「さぁ…どうしますか?」

フィアが額に汗を浮かべながら言った。

レイノアには理解できなかった。

だが…

「それでエネミーになっても…クレイスはクレイスなの…?」

レイノアはフィアに銃を向ける。

「えぇ。まだ脳が死んでいないなら貴方の能力で記憶を呼び覚ませます。…あの、皆さん銃を下ろして…お、落としちゃいますよう…」フィアは情けない声をあげた。

「それ、頂戴」

レイノアは素早い動きでフィアから小瓶を取り上げた。

フィアはそれを見届けると、両手を頭の後ろで組んで座った。

…戦意はまったく無いようだけど…

「れ、レイノアよ…それは…」

イーリスが遠慮がちに声をかけた。

「まぁ…結果的には、私の願いが叶うことになるのかな?」

「レイノア…おぬし…」イーリスはレイノアを見つめた「もし…クレイスが蘇って…おぬしの望むクレイスで無かったなら…一体どうするのじゃ」

「黙ってて」レイノアは小瓶の蓋を開け、クレイスの口に流し込んだ。

そのままクレイスの胸に手を当てて、何やら唱え始めた。

「…あれは…何をしているのかな?」

ドレッドはソフトを見た。

「いや…情報がない。」

「フィア…どういうつもりなの?」

剣をフィアの喉元に突き付け、メイリルは脅すように言った。

「私は…帝国にスパイの研究員として雇われていました…。あの薬は…計画が止まる寸前に研究所から盗んだサンプルです」

「なんてこった…」ロバートは剣を鞘に納めるとフィアを見下ろした「全然気がつかなかったな…」

「実際の年齢も24です…。この体は、薬の影響でもう成長しません…。」

「永遠のロリキター!!」

「ソフト…」ロバートが呆れた顔でソフトを見た。「お前も相変わらずだなぁ」

「今この世にいる全ての女性の味方だからな!俺は」ソフトは胸を張った。

「そんな台詞をよくもまあ躊躇いもせず言えたものじゃな…」

クレイスは全身が締め付けられるような苦しみに襲われた。

身体を誰かが押し潰しているような…!

この感覚ですぐに現実に意識が戻る。

「ぐっ…ゲホッゲホッ!」

いくらか渇いた血の塊を吐き出し、虚ろな瞳で辺りを見回した。

「クレイス…」

すぐそこに、泣き腫らした目でこちらを見ている小さな女の子がいた。

…夢を見ているのか…?

「レイノア…なのか?」

「クレイス!」レイノアはクレイスに抱きついた。「クレイス!おかえり…!」

「…何を言ってる…勝手に居なくなったのはお前の方…ん?ここは…」

「隊長!」ロバートがクレイスに駆け寄った「やっぱ隊長は不死身だな!」

「やってしまったか…」イーリスは少し離れた場所から呟くように言った「まぁ、こういう結末も…悪くはないかのう…」

「皆…」クレイスは次の瞬間にタックルを食らう「げはぐほぁっ!!?」

「この馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」メイリルはその後も体を滅多打ちに拳で殴り始める「かっこつけてんじゃないわよ!」

「メイちゃん!ストップ!しんじゃう…それは死んじゃうからっ!?」

「あー、白目剥いて泡吹いちゃったね」

ドレッドがニヤニヤしながら言った。

「クレイス…また戻ってこいよ…」

ソフトは腕を組んでしみじみと言う。

「…う…」

クレイスはベッドで目が覚めた。

内装から言って多分クラシスのホテルだろうと思う。すぐそこにレイノアがいて、こちらを覗き込んでいた。

「クレイス!」レイノアは嬉しそうに顔を輝かせたあと、すぐに少し表情を暗くさせた。「あ…ええと…」

「…ふう」クレイスはため息をつくとレイノアの頬にキスをした。

「…!…うえぇ!?」

「わざわざ敵地のど真ん中まで助けに来てやったんだ。その位は…何だ…ん!?」

レイノアが唇を重ねてきた。

しばらくその状態が続いた後、レイノアは耳元でささやいた。

「クレイス…私は貴方のことが好き…だから…貴方を死なせなかった…」

「…?」

死なせなかった?

「クレイス良く聞いて。…今のあなたは、エネミーになってしまっているの」

「な…何だと…!?」

クレイスは飛び起きて身体中を調べた。

さしておかしいところはない…いや…

「傷が全部治っているはず…私は死んでしまった貴方をエネミーとして蘇らせたの…私が…貴方の専属の悪魔…」

「専属の…いや待て…とすると、お前は俺の…?」クレイスは混乱してきた。

「悪魔はね」レイノアは再び話し始める「エネミーの管理者…そのためエネミーと違って、し…子孫を残す必要があるの」

「…あぁ」クレイスは相づちを打った。

…さっぱり分からんがな…

「私たちは外見的には成長はしないけど、子を成さなくてはならない…自分の決めた相手と【契約】することによって、その相手と…ええと…」

「つまり…その契約とかいう奴は、強制的に結婚する魔法みたいな物か…?」

「わ…私じゃ…駄目…かな?」

「レイノア」クレイスはレイノアを抱き寄せた「俺は考え無しだし、臆病で、人を見る目もないどうしようもない奴だぞ?」

「でも…それでも私は…」

こちらを見つめるレイノアの目が綺麗な宝石のように見える。

「……分かった。もう何も言うな…」

クレイスはレイノアを抱いたまま、再び後ろ向きベッドに倒れ込んだ。

…お前と一緒なら、たとえ永遠に闇の中を落ちていこうとも…恐れることは無い。

「痛い…いだだだだだ!」

メイリルが叫びながら暴れる。

「黙れ馬鹿もん!親が知らないのを良いことに無茶ばかりしおって…!!」メイリルの父親だろうか?白い胴着に身を包み、メイリルの看病(?)をしてくれていた。

「そりゃあ私だって列車であんなことがなければ真っ直ぐ家に帰ったわ!でも親父アンタいきなり追い出したわよね?仕事しろとか言って!できりゃしてるわよ!」

「ぐぬぅ…た、確かに俺も事情を聞かずマスコミ面倒だなって一心で追い出したことは認めよう。だがそもそもお前がアイドルなぞやると言うから…」

「うるさいわクッソ最低親父!」

「ならばこうしてくれるわ!セリャ!」

「ギャアアァァァ!!」

「…随分と賑やかだな…」

騒がしい部屋にクレイスが入ってきた。

この部屋にはメイリル親子にイーリスとロバート、フィアがいた。

「お、隊長。具合はもういいのか?」

ロバートはクレイスに気づくと明るい表情を見せた。

「あぁ。大分動きやすくなった。一度死んだとは思えないぐらいにな。ところで…ソフトとドレッドはどうした?」

「二人とも各自でやりたいことがあると言ってついさっき部屋を出ていったぞ?まぁ、情報屋も殺し屋も、普通は多忙なものじゃからなぁ…」

イーリスがお茶をすすりながら言う。

「そういやレイノアは?」ロバートはクレイスの隣に誰もいない事に気づいた。

「あいつなら俺の布団で寝てる…何でも俺が目覚める3日位の間ずっと寝ないで側にいたって話だったが…」

「そうか…」ロバートはそう言うとメイリルを見た。

父親による荒っぽいマッサージを終えたメイリルはベッドから降りるとクレイスに笑顔を見せた。

「クレイス…あのね…私、アイドルに戻れるみたいよ?」

「おお、そうか!」

「また新しいマネージャーさんがついてくれることになってね…だからまぁ、あなたともしばらくお別れになりそう」

「そうか…まぁお前は剣を振っているよりは、マイクを振っていてくれた方が似合うからな…頑張れよ」

「…あ、そう。」メイリルはそっぽを向いた「が、頑張るわよ…あ…何処かでライヴするときは、最前列で見てくれて構わないから…じゃあねっ…」

そう言うとメイリルは逃げるように部屋を出ていった。ふと、メイリルの父親に声をかけられる。

「可愛くない娘だが、まああいつの面倒を見ていただいてありがとう。…またあいつを何処かで見かけたら、是非声をかけてやってくれ。では、しばらく」

そう言うとメイリルの父親もメイリルを追って部屋を出ていった。

「…アタッカーが一人減ったなぁ…」

ポツリとロバートが呟いた。

「まぁ、仕方ないだろう。…で、部屋でレイノアから話を聞いたんだが…」

クレイスは先ほどから椅子に座って黙ったままのフィアを見た。

その小さな背中がビクッと震える。

「隊長…こいつ一体何のために俺らに関わろうとしたんだと思う?」

「いや…今のフィアはただの暗殺者だ」

クレイスはフィアの頭をポンと叩く。

「…ふぇ?」フィアが顔を上げた。

「帝国のスパイ研究者だった時期があって…多分まだ盗んだサンプルを持っていると言うことは、依頼主に何かあったんだろう…それでスパイを続けられなくなったフィアは、殺し屋になるしか無かったんだ」

「…はぁ」フィアはクレイスを上目遣いに見つめた「貴方にはなんでもお見通し…という訳でしたか…えぇ。幼少期から英才教育をされた私は類い稀な頭脳を持った【ゴッド・ブレイン】と呼ばれていました」

「フィアって頭良かったのか」

ロバートが素直な感想を述べた。

「ぐふっ…失礼ですね悪くはないですよぅま!それで…」フィアは話を続ける。

大体18ぐらいの頃、ようやく博士の職位を得た私は元々帝国とは別企業だった私の会社の研究者…両親に帝国の研究所に入って情報を横流しするよう言われました。

そしてある日…我々の研究チームが死人をエネミーに変えるという、恐ろしい計画を立ち上げたのです。

当然、これを報告しない訳にはいかない。だけど…両親は私を狂人扱いして家から追い出すと、研究内容を口外したと帝国に私のことを通報したんです。

それがいけなかったのか両親はすぐに殺され、私は帝国に追われることになりました。研究は事実上凍結され、直前に私が管理していたサンプルを持って、私は紙の色素を抜いた後で逃げてきたんです。

「でも途中で体全体から血が吹き出て…私は死を覚悟しました。…研究所の関係者は脱走防止の為に体のなかにリモコンで毒素をばらまく機械が入っていたんです」

「それが人のすることか…!」

イーリスは怒りをあらわにする。

「死にかけていた私を助けたのが…私が【先生】と呼んでいる人物です」

「…誰だ?」クレイスは首を傾げた。

「今はお答え出来ません」フィアは首を振った「先生は私に銃を教えてくれました。殺し屋として生きていく術を…そして、私は先生の知人のおじいさんと10年ほど生活していたんです。おじいさんが亡くなってしまうまで…ずっと…」

「その、先生とか言う人は?」

ロバートはフィアに尋ねる。

「あの人は世界を飛び回っています。おじいさんに私を預けた後…どこかへ…」フィアはクレイスを再び見つめた。「これが私の身の上です。…私をどうしたいのかは、貴方に任せまじゅ…!!」

フィアは最後で盛大に舌を噛み、口を押さえてじたばたと苦しみ始めた。

…この性格で神童か…

「ロバート、イーリス」クレイスは二人を見る「どう思う?」

「俺様は別に嘘はついてないと思うぜ?まぁ、研究者としての血が騒いでサンプルをクレイスに試すことを思いついたのかも知れないけどな」

「私は…ただ…クレイスさんを…」

フィアが小さな声で呟いて俯いた。

「薬学に詳しいワシの視点からはフィアは嘘は言ってはおらん。研究所の人間にポイズンチップが埋められていることや、対症療法に軽い精神退化を起こす薬を用いることもな…」

「あー、俺様にも分かったぜイーリス。精神退化を起こして重要記憶だけを教えて…あ、そうか!つまり、フィアが本当の事を言っているかいないかは…」

「…先生、と呼ばれる人物を探す他はない…だが多分嘘をついている確率は極端に少ないと思う。」

クレイスはフィアを見下ろした。

つまり記憶がまっさらな状態で自分の身の上を知り、余った部分に狙撃についてを叩き込まれた。フィアの神業的な狙撃能力はきっとそれが原因なのだろう。

「クレイスさん…」

「フィアを俺達の仲間にしよう。異論は無いはずだ」

クレイスはイーリスとロバートを交互に見ながら宣言した。

フィアは呆然とその話を聞いていたが、クレイスが話し終わると泣き崩れた。

…今後の方針も決めないとな…

クレイスは心の中でそう呟いた。

【続く】


どうも皆さんお久しぶりです。

今日も忙しいケイオス ケインです。

ひとまずこれでレイノアやフィアの秘密が分かりましたね。

次回からは国外逃亡編となります。

帝国領外の大陸には何があるのか。

まぁ当然領外に逃亡する際にもひと波乱二波乱あり、実際に国外に出られるのはかなり先の回になるかもですが…頑張って続きを書いていこうと思います!

それでは気が向きましたら、またこの話を見に来て下さいませ。

地平線の向こうで、また会いましょう!

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