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第一話「オレリーの宿屋」

…なんだ、もう朝なのか。といっても睡眠は7時間は取っているから問題ないと思いたい…。

俺の名はクレイス。灰色の髪に黒いカウボーイハット、同じく黒い強化繊維のコートを着ているせいで、よく年上に見られがちだが、まあ、来年で成人だ、とでも言っておく。

ここは小さなオレリーという町の軽い宿屋だ。俺たちは帝国に追われているから、本当は野宿やらしなけりゃならないんだろうが…まあいい。

「んん…っ」

となりで安らかに…というかのんきに寝てるのはレイノア。俺の7年前知り合った相棒だ。

殺し屋なんだが、あり得ないほどまっすぐサラサラで、しかも真っ黒の髪を尻まで伸ばしているという非常識さ加減が極まりない女だ。

普通弾をよけても髪に当たって髪ってくしゃくしゃにウェーブするものなんだが…。じかもこいつは身長が無いせいで小学生みたいに見られる事が多い。だからはっきり言っておこう、こいつは今年で18だ。

俺たちはグロヴァームという帝国に攻撃を仕掛けた。理由は簡単、仲間を集めたら帝国を倒せる気がしたんだ。その結果見事に惨敗、確か10人くらいいたはずの俺の仲間は半分以下まで殺された。しかも帝国直々の国際指名手配なんていうオマケつきで。

「…あれ、クレイス?起きたんだねようやく」

「言っておくが俺は先に起きてるぞ?少なくとも10分ぐらいは。」

「うっそだ〜!だってクレイス寝てたじゃん!さっきまで!」

レイノアはああ言ってるが実際は俺が起きるのが早い。

こんな狭い部屋で、しかもベッドはひとつでこんな少女と共に寝てるなどと言えば一部の奴らは怒りそうだが、断じて良いものではない。

あえて言うなら狭い、暑い、相手の寝相が良すぎて常にヒヤヒヤする、しかもこんな状況で寝れるはずはないのにあいつは俺の事を寝坊だとか言うし。

…というかこいつの器用な所は、夢で早起きすることだ。さっきも言ってたが、あいつは俺が寝てる夢しか見ないらしい。…なんだそれは!

俺はその事についてため息をつくとベッドから起き上がり荷物をまとめ始めた。気にすることなくレイノアが背後で着替えを始める。俺は普通の健全な青年とは見られてないらしい。

…振り向いてやろうか。多分振り向いたとして、照れたような嬉しいような顔で「…なに?」と言ってくるのがオチだ。

そうなんだよ。困ったことにこの女はいたく俺の事を好きらしい。だいたいそうじゃなきゃ7年もこんな生活しないし、何よりあいつが全く他の男に驚くほど残酷なのも理由が…つくのか?(自問自答)

「クレイス〜ねえねえ、外は雨だけど外行こうよ〜!」

「…面倒だな。」

きっぱりと俺は言ってやった。雨降ってたら風邪を引く。というかお前より俺は朝が弱いんだ。

「えぇ〜…」

そのわりには俺は今この宿屋を出る気でいっぱいだった。なぜならここは帝国の基地が近くにある町だからだ。もう一泊なんてしようものなら一瞬で寝首をかっ切られる。…面倒なご身分になったものだ。

…誰のせいやら…。

「…支度しとけ。」

「…やった!」

レイノアは無邪気に顔を明るくさせるとベッド脇に置いてある〈アサルト〉と命名した軽量型機関銃を取った。小銃、つまりアサルトライフルだな、それよりもかなり全長が長い。以外にも腕力は男並みにはあるということはこれで分かる。

さて俺はというと…俺はリボルバー二丁だ。今時やってるやつは少ないが、だからこそ、だな。右手用の年期の入ったやつは大事な父親の形見だ。ほぼそれが理由だったかもしれん。

まあそんなこんなで支度を整えるとレイノアは髪に悪魔の羽の飾りを着けた。黒曜石で出来ていて全長6センチという大きなものだが(実は本当はブローチなのだ)、3年前に俺が買って以来ずっと身につけてくれている。

黒髪だからあまり目立たないが、他の奴らには見えなくて俺には見える物…俺ら二人の関係を示しているようにも思える。

「あ、準備してる間に雨がやんだよ!」

「本当だな…さて。」

そう言って部屋を後にする。帽子を深めに被り最低限の愛想で清算を済ませると二人は外に出た。今は朝の8時。町には所々に人がいたり、開店準備の店があったりと少し静かなムードだ。

「ねえクレイス、オレリーは今日中に出ちゃうの?」

「別に死にたいなら良いぞ。俺も付き合ってやる…帝国にもう一度刃向かってみるか?」

「クレイスと死ねるなら素敵だけど、やっぱりまだダメだね。…うん、分かった」

レイノアはそう言って寂しそうに笑った。無理もない、このオレリーの町は彼女の生まれ故郷なのだ。1日ほどしか滞在出来ないのは少し可哀想な気がする。

しかし帝国軍のことを考えるとそうはいかない。しかしまあ、思い出くらいは…

「レイノア。…朝はどこで食いたい?」

「え?私が選んでいいの?」

レイノアは昔からあるような雰囲気の店を指差した。〈ヒストリー〉とある。

「確か旧米語で歴史…だったよな?」

「うん、ベーコンエッグが美味しいの」

…なるほど、値段も安く済みそうだ。

 ★

とりあえず俺は店に入ってみた。ログハウスをイメージした内装はとても落ち着きがあり、一番奥に木材のカウンターテーブルがあった。席について周りを見渡す。

今どきの若いカップル、頭の禿げたオヤジ、そんな人しか居なかった。まあ時間的に仕方ないだろう。

クレイスは横からの視線を感じた。おやと思って振り向くと、そこには友人でもあり、帝国に突っ込んだ十数人のうちの一人でもある、情報屋のソフトがいた。

「やあ、クレイス。久し振りってとこかい?レイノアちゃん元気?」

「…おう、お前生きてたのか。」

「私は元気だよ!だってクレイスがいるんだもん。」

…そう言う恥ずかしいことを堂々と言ってくれたな。非常識女め。

「ははは、クレイスはリア充だなあ。」

「…レイノアすまん。この素晴らしい店が今日は血に染まってしまうらしい。主にこのソフトのな。」

「タンマ!お前ってたまに冗談と行動の区別しないよね!ゴメン悪かったよ!」

「あ…あの…オーダーはお決まりになりましたでしょうか?」

クレイスが半分ホルスターから銃を抜くのを見てたのか、今の会話でだかは分からないが、ウェイトレスがおそるおそる注文を訊きに来た。

「あ、私ハムエッグセット!」

「ずいぶん昔のメニューですね…ええ、出来ますよ?ハムエッグセットが一つ」

「俺はサンドイッチにしようかな!」

「はい。サンドイッチがひとつ。」

「俺か…俺は…」実際俺は優柔不断な所があったりする。「…半熟で目玉焼き。」

「かしこまりました。少々お待ち下さい。追加オーダーは受け付けますので何なりとお申し付けくださいね。」

俺達が静かになったのが安心したのか、ウェイトレスは安心して歩いていった。

「…で、本当は他の人に頼もうかと思ってたんだが…クレイスたちに頼みたいことが実はあるんだよ。」

「なんだそれは…俺達をなぜ巻き込む」

「や、だって強いじゃん二人とも。」

「ああ、その返答で分かった。つまり俺らにヤバいことやらせるつもりだな?」

「…バレた?仕方ないなあ、食事が終わったら話すよ。まずは食おうぜ。今言ったら飯が不味くなりそうだしな。」

「…分かった。」

俺は軽く欠伸をして横をみると、レイノアがカウンターに身を投げ出してこっちを見ている。こういう仕草は可愛いんだが…。

とりあえずソフトが厄介事を持ってきた以上、あと1日くらいはここにいるかも知れないな。そうなると帝国軍が少し心配だが…まあなんとかするか。

ウェイトレスが持ってきた目玉焼きは、全く半熟では無かった。

この恐ろしく苦い固焼きは、多分俺達のことをずっと見ていて、料理に気が回らなかったに違いない。

…まぁ、S級犯罪者に飯が出てくること事態ありがたいことだ。

文句を言わず頂くとしようか…。



〈第二話に続く〉

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