第十八話「リヴィ・ノ攻略IV」
「…ふっ!」クレイスは姿勢を低くして相手の弾を避けると、地面に飛び込みながら銃を乱射していく。
さすがに中央棟だけあって、帝国兵たちの数も抵抗もかなり厄介だ。
「クレイスさん!下がって!」
フィアの声と同時にクレイスは後ろへ飛んだ。同時に投げ込まれる手榴弾により帝国兵が叫び声をあげて吹き飛んでいく…。
「よし…片付いたようだな」
クレイスは素早くリロードする。
振り返ると、フィアもスナイパーライフルの弾倉を換えていた。
しかし…よくもまぁ自分の身長よりも高い銃をずっと構えていられるものだ。
「一旦休むか?」
クレイスはフィアに問いかけた。
「いえ、まだ平気です…」フィアはそう言いながらクレイスを見つめた。「クレイスさんは疲れていませんか?」
「いや、俺もまだ行ける。早くレイノアを探しに行こう。確か…」クレイスは武器ケースからドレッドの描いた地図を取りだして場所を確認する。
「うーむ…あちこちに監視カメラが動いているから、メインコンピュータルームがあると思っていたんだが…」
「そんな大掛かりな場所がいるんでしょうか…詰所や司令官室にモニターがあるのでは?」フィアは首を傾げた。
「確かにカメラを見るだけならそれで足りるだろう」クレイスは地図を畳んだ「だが、防火扉を任意で操作したり、エネミーを管理するシステムや、ネットワーク中枢のある場所が独立して無いということは…全てを管理する部屋があるという事だ」
「なんとも、帝国らしいやり方ですね」
「実は帝国の基地はそういう作りが多い…一つの場所で全てを管理する…それが帝国の一番好きなやり方だ」
「それじゃあ…」フィアはクレイスの隣に立つ「メインコンピュータルームを探す…これが当面の目標ですか」
「あぁ。一筋縄ではいかない場所に隠れて建造されているだろう。例えば…」クレイスはとある場所を指差した。「あれだ」
★
「これは…」
ロバートは何とはなしに開けたダストシュートに横穴が続いているのを発見した。
アイネスの地図と照らし合わせると、見事にメインコンピュータールームに続いている通路のようだ。
「おお、ロバートよくやったのじゃ…これでメインコンピュータールームに行くことが出来るの」
「やれやれー…基地って本当に面倒な場所にメインコンピュータールーム隠すよね〜?設計した奴死ねばいいのにー」
「案外じつはこの基地昔からあって、設計した人は他界しているかもですよ」
ロバートはドレッドに笑いかけた。
「待て」不意に後ろから男の声がした「3rdと何をしに来た」
ゆっくり振り向くと、帝国の士官服に身を包みメガネをかけた男が、こちらに黒光りする銃を向けて立っていた。
「あ…どうも…怪しい者です」
ロバートはにこやかに苦笑する。
「それでは逆効果なのじゃ!?」
「ふざけた奴らだ」男は銃の安全装置を上げた「…その先に何があるのか…分かっているのか?」
「メインコンピュータルーム」
ドレッドが真顔で言った。
「ちっ…」男は銃を構えた「どこでその情報を手に入れたかは知らんが、侵入者に知られたからには生かしておくわけにはいかない…悪いが死んでもらうZONE…」
男の胸から赤い光が飛び出た。それは男の胸を引き裂くと、唐突に消えた。
倒れた男の後ろには、光剣を構えた傷だらけの女性が立っていた。
「メイリル!?」
「全くあいつら…どこまで行ったのか」
「傷だらけじゃないか!?クレイス達は!?一緒じゃないのかい?」
「ふう…」メイリルはため息をつきながら近くの壁によりかかる。「途中で大怪我しちゃってね…医務室っぽい場所に置いていかれたってわけ」
「どれ、見せてみぃ」イーリスがメイリルに駆け寄る。「…よく動けたのう?」
「結構厳しかったわ…体は熱持ってるし、意識は朦朧としてきたし…」
「分かった。もう動くでない」
イーリスはメイリルの手当てを始めた。
「クレイス達はメインコンピュータールームに行ったのか?」
ロバートはメイリルに尋ねた。
「特にそういう話は無かったけど…多分そこに行ったんだと思う…」
「無線が使えるなら一番だけどねー」
ドレッドが携帯無線機の表示を見ながら言った。当然、基地自体の持つ絶縁物質で、外から持ち込まれた通信機はジャミングされている。
「なるべくならさっさと合流したいな」
ロバートはそう言いながらダストシュートの横穴を注意深く観察し始めた。
「…よし、激しくは動かんようにな」
しばらく待つとイーリスがそう言って立ち上がった。手当ては済んだらしい。
「…少しは楽になったわ。ありがと」
「早速だが、早めにメインコンピュータールームに乗り込むぞ。…何だか嫌な予感がしてきたんだ…」
ロバートは皆の顔を見つめながら言う。
「クレイス…」メイリルは俯きながらぼそっと呟いた。
★
「待って…!ソフト…!待って!」
レイノアは息を切らせて膝をついた。
「よし、レイノアちゃん!俺の背中に乗るんだ!」
「すごい嬉しそうな顔で言わないで!」
「でも…早くしねえとクレイスが別の所に行っちゃうぜ?研究棟までわざわざ物を取りに行っちゃったんだから」
「それはそうだけど…」レイノアは肩で息を必死に整えようとしている。「でも、ちょっと休もうよ。重いし…」
武器ケースいっぱいに緑色の粘性の高い液体をつめたレイノアはそう提案した。
★
「すごい…着きましたね!」
フィアが興奮ぎみに飛びながら言った。
「…問題はここからだ。どうにかしてレイノアの現在位置を探さないとな」
クレイスは巨大なコンソールパネルを操作し始めた。
…よく分からんなぁ…
適当に監視カメラなどの表示が出るように操作を試みる。
ヴー!ヴー!
…警報が鳴った。
「クレイスさん!?」
「…結果を急ぎすぎたかもな…」
二人の背後でギギギと何かの音がした。
クレイスはドキッとして振り返る。
…気配がなかった…いや…これは…?
「今まさに起動した…のか?」
見上げるほどの高さの、巨大な兵器の塊が突然動き始めたのだ。
コアのような物を中心に、ランチャーやマシンガン、マスケットなど様々な武器が磁石のようにくっついている。
「お…大きいですね…!」
「散開だ!…フィアはどこかへ隠れて援護してくれ!俺が気を引く!」
クレイスは銃を取り出すと、兵器の塊に向けて何発か射撃を試みる。
装甲板が凹みはしたものの、やはりマグナムではないリボルバー銃の威力はたかが知れていた。…あまり効かない!
「…っ…ぐおぁっ!?」
塊から巨大な砲身が出てクレイスごと辺りを凪ぎ払う。回避が間に合わず、クレイスは体に衝撃を受けて地面に倒れた。
…オールドの時の傷が…!
必死に起き上がろうとするが、体の痛みが邪魔をしてうまく起き上がれない。
「このっ!」フィアが何かコアのような物に向けて狙撃を成功させた。だが、軽くヒビがはいっただけで、まだ倒せてはいないらしい。「そ、そんな馬鹿な…」
「フィア!早く逃げろ!」
クレイスは何とか立ち上がり、手榴弾を相手に投げ込んだ。
コアには爆発は届かなかったが、いくつかの武器を封じることは出来ただろう。
…今の隙に突撃出来れば…!
「…っ!?」
クレイスは自分が大変な誤算をしていることに気づいた。…今日は本当にらしくないミスばかりだ。
フィアが逃げ切れていない。
敵の武器の一部に巨大な柱のような砲身がもうひとつあった。それが今、フィアに向けて振り下ろされる…。
気づけばクレイスは機械に突撃する勢いでフィアを突き飛ばしていた。
フィアが驚きの目を向ける。
…体の中から、何かが砕けた音がした。
「…がっ…ふ」
クレイスは地面を転がりながら、持てる限りの力を使ってもう一度、コアに銃を乱射する。機械の注意が一瞬、フィアからクレイスに切り替わった。
「うてえぇぇ……!!!」
クレイスはフィアに叫ぶ。
体勢を立て直したフィアはスナイパーを正眼に構え…引き金を引いた。
まっすぐと弾丸は飛んでいき、吸い込まれるようにして機械のコアに命中した。
「まだ…壊れない…!」
空薬莢を排出しながらフィアは叫ぶ。
「せえええやぁ!!」フィアの背後から飛び出してきた者がいた。
…メイリルだ…!
メイリルは付属された武器を避けながら、持っていた剣をコアに突き立てた。
しかし次の瞬間に砲身に体を突き飛ばされてしまった。
「…やば…!」
メイリルは慌てたように言う。
付属された武器の中からミサイルが三発飛ばされた。
クレイスは痛む体を動かし、何とか一発を空中で爆発させる。
だが…そこで力尽きてしまった。
ぼやって見える視界の端には…
こちらに向かうミサイルが二発。
…二人が無事なら…それでいいか…
地面に広がる赤いモノを見ながら、クレイスはため息をついて…気を失った。
★
「あああああああ!当たれ!うわああ」
フィアは半狂乱になって小型ミサイルに向けて銃を乱射した。
だが無情にも小型ミサイルはクレイスの体に接触し…………爆発しなかった。
「…はぁ!?な、何あれ!?」
フィアはミサイルをよく見た。
何か緑色の粘性の高い液体でミサイルが覆われている。
しかもどうやらこの液体は、自らの意思でうねうねと勝手に動いているようだ。
…きっ…気持ち悪っ………!?
だがあれのお陰でクレイスはまだ即死しなくて済んだらしい。
でも…あの状態では…もう…
「フィア!前!」
メイリルが叫んだ。
慌てて前を見ると、機械の塊がこちらに向かって突撃してきた。
…もう撃てる兵器があまり無いようだ。フィアは攻撃をかわそうと姿勢を低くした…だが、誰かがまた自分の前に躍り出る。
カキィン!
「おっしゃあああ!受け止めたぜ!」
なんとロバートだった。
「いよっ、世界一なのじゃっ」 イーリスも一緒にいて、手元のリモコンを押す。
機械の塊が炎に包まれた。
「…今だあっ!」
そして…そしてフィアには聞き覚えのない、若い女の子の声がした。
まさか…あの子が…?
「グリーンスライム…コントロール!」黒い服の女の子はそう言うと手にいきなり緑色の槍を召喚させた。「◆リキッド・ランサー!!!」
彼女が投げた槍はそのまま機械のコアに刺さり…コアごと爆発した。
機械の塊は突然崩れ、辺りに金属片が散らばった。…倒したらしい。
「クレイス!」女の子は動かなくなったクレイスに駆け寄った。
イーリスも後を追ってクレイスに駆け寄り、彼の腕を握った。
「…間に合わなかったかのう…」
ポツリとイーリスが呟く。その目には涙が溜まっていた。
「嘘だ!」女の子は叫んだ。「そんな…なんでこんな…嘘…あああ…」
「まだです」フィアは立ち上がった。「まだ…助かる方法はあります」
「【命移し】…かの」
震えた声でイーリスは呟いた。
「…クレイスの為なら…」
誰かが言った。
「ボケぇ!何をいっとる!ふざけるなあああ!」イーリスは叫んだ「わしには…無理じゃ…この中の誰かが…欠けるのは…」
「いいえ」フィアは服の中からある物を取り出した。「…これを使います。」
「それ…は…」イーリスだけではない。皆の視線がフィアに集まった。
「…冗談でしょ?」メイリルは機械に刺さった剣を抜いて、フィアに向けた。「…アンタが何でそれを持ってるの…?」
フィアの握っている小瓶には、【ユグドラエリクシル】と書いてあった。
この名はこの場の誰もが知っている。
帝国が目指す、エネミーによる統括世界。そのエネミーの個体数を増やすにはどうすれば良いのか?エネミーは基本的に生殖行動を取らない。その為…一時期【死人をエネミーにする】狂ったとしか思えない計画が行われた。
その計画にあった、計画自体が潰されて、存在自体が無いはずの薬品。
死人を動かす…常識ではあり得ない薬。
何故…それをフィアが…!?
皆の表情は、それを物語っていた。
【続く】




