表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/28

第十五話「リヴィ・ノ攻略I」

「…」レイノアは力なく薄暗い部屋の隅に倒れていた。

【妹】がこの基地に来ているとは思いもしなかった。叫んでも誰かが助けてくれるでもなく、レイノアは全身をナイフで刺されたり、熱した火掻き棒を当てられた。

アイネス・リッシリア。

帝国の【散花大将】でもある彼女は、この基地の中でも当然トップの権力を持っていて、大好きな【絶叫鑑賞】をしても誰に咎められることがないのだ。

レイノアは、ワールスにここに連れてこられるなりこの窓のない四方をコンクリートに囲まれた部屋に閉じ込められた。

ワールスは当然反対したが、何かと文句を言われた挙げ句、遠くの街の調査を命じられてしまっていた。

要は厄介払いである。

「お姉さま!お帰りなさい!」

突然その後アイネスが現れてレイノアに虐待を始めた。…本人にしてみればただ遊んでいるだけなのだろうが…。

そして…

「お姉さま…もう叫んでくれないの?」ついさっきそう言って部屋を出ていった。

立ち上がる元気も無いほどに痛めつけられたレイノアは、頭の中でクレイスの事を考えていた。

彼は今どうしているのだろうか。

ご飯はちゃんと食べているのだろうか。

…もう私を助けに来てくれないの?

震える手でレイノアはコンクリートの壁に人差し指で血文字を書き始めた。

【たすけて】【たすけて】

誰でもいい。こんな所で死ぬなんて嫌。

誰か助けて…!

「地図が出来たよー」ドレッドはいつもの間延びした声で呼び掛ける。

仮眠中のクレイスはその声でようやく目を覚ました。

「…わ」いつの間にかフィアがキャンパスを手に枕元に立っていた。

「…お前なぁ…」

熟練したスナイパーなら誰もが会得する【自分の気配を消す技】。

特にフィアはそれが上手い。

昨日の戦いでは少々本気を出して戦っていたが、もし平常時のクレイスだったらまず気づけないほど、彼女は気配を消すのが上手いのだ。そんな物を使われて枕元に立たれても、いくら眠りが浅いとはいえさすがのクレイスにも気づけなかった。

「…駄目です、あと30秒…」

起きるクレイスを押さえつけ、フィアはキャンパスに絵を書き続ける。

「大変そうだねー」

ドレッドが大きめの画用紙をひらひらさせながら部屋に入ってきた。

「…仕方がない。寝ながら読むか…」

「あ、駄目です!」フィアは小さな身体を使ってクレイスを押さえつけた。「動かないでください〜!」

「いや待て、この状況は見ようによってはマズイんじゃないか…?」

「ク〜レ〜イ〜ス〜!?」

メイリルがクッキーの乗ったお盆を持ち、般若の形相でクレイスを睨み付ける。

「はははー、じゃ、またあとでねー」

ドレッドはメイリルをすり抜けるように部屋から出ていった。

「ぐおぉ…」

マズい。頭蓋骨陥没したかもしれん。

「メイリルさん、手加減なしに拳骨とか、レディを何だと思ってるんですか!」

半泣きで頭を押さえながらフィアがメイリルに訴えかける。

「いやいや、貴方が好みの女の子のタイプが今回よーく分かったわ…」

「メイリル…俺は何かしたのか?」

「存在自体が犯罪よ!このロリコン!」

「病気なんだから仕方がないだろう!」

「なんの話よ!?」

「そもそもレイノアから聞いた話なら、俺が少女が泣いているのを放って置けないのは病気らしいぞ!ロリコンとかいう…」

「ん…まぁ…病気…と言えなくもないのかな…」メイリルは視線が泳ぐ。

「そうですよメイリルさん!クレイスさんはとても可愛そうな人なんです!」

「貴方は黙ってなさい」

そうしていると、ロバートとイーリスが入ってきた。

「準備万端なのじゃ!」

「いつでも行けるよ、隊長」

「あぁ、じゃあ行くか」

クレイスは立ち上がるとサッと荷物をまとめ、部屋から出ていった。

「待てい」…が、メイリルによってすぐに戻される。

「…何をする」

「…私は貴方が何をしていたか聞いているんだけど?」

「…起き上がったら駄目なのか?」

「…!」メイリルが顔を真っ赤にする。

「メイリルさん…何の話をしてるんです?私はただ、起きようとするクレイスさんを押さえていただけですけど…」

フィアは首を傾げた。

「きゃああぁぁぁ!私の馬鹿アァァ!」

メイリルは何故か狂ったようにそう叫び部屋を出ていってしまった。

「青春じゃのぉー♪」イーリスがにやにやしながらそう言った。

リヴィ・ノ基地は湖横断列車も近いので、兵糧、兵器ともにハイレベルな物が揃っている。

ただ、立地条件は少し悪く、あまり戦略的には作られていない。つまり普通の基地並みには入り組んではいるが、実際の所迷路などの侵入者を足止めしておく設計にかなり乏しい砦という所だった。

「つまり入ったもん勝ちってわけかい」

ロバートは正面門を近くの木陰から覗いて呟くように言った。

「そうだよー。あとは俺の書いたルート通りに進めばOK!まぁ、古い資料だし実際に偵察もまともに出来てないから多少の誤差はあるかもー」

欠伸をしながらドレッドは言う。

「…で、何故お主は車掌姿なのじゃ…」

「気に入っちゃってさぁ…アヒャヒ…」

あわててロバートはドレッドの口を塞ぐ。やけにこいつの笑い声は響くからだ。

「…まぁ、正面突破は俺様達の得意分野だ。派手に暴れるとしますか」

「…らじゃ!吹き飛ばすのじゃ!」

イーリスがリモコンを構えて言った。

「爆発音!?…正面門から煙が…!」

「…なんだなんだ?俺、様子を見に行って来る!」

見張りの数が少なくなると、クレイスは木陰から飛び出した。

「がっ!」「ぐおぁ!」右手で一人の兵士のみぞおちに一発当てつつ、左手の銃身でもう一人の兵士の後頭部を殴打する。

「わあっ!」残った見張りの一人は、メイリルが足払いを仕掛け、後頭部を地面に打ち付けて気絶してしまった。

「…やるな」クレイスは感心した。

「ま、伊達に格闘家の娘やってる訳じゃないわ。このぐらいは朝飯前よ」

「…何だかすいません。私何の役にも立てなくて…」近くの木陰からフィアが出てくる。木の葉のような服装なので茂みが動いたかと思って多少驚いた。

「い…いや、スナイパーは近距離だと難しいのは分かってる。フィアはフィアに出来ることをやっていてほしい。」

クレイスはフィアを見つめてそう言う。

「…ちなみに、フィアは近距離だとどう戦うわけ?普通ならサブにハンドガンとか、携行しやすい火器を持っていくわよね」

メイリルは首を傾げた。

「そう言えば近距離まで接近されたことなかったでしたね…私暗殺専門なので」

フィアは苦笑する。

「ハンドガンぐらいは持っておくか?」

クレイスは武器ケースから予備の自動短銃を取り出して渡す。

「わぁ…こんなに軽いんだぁ…」

フィアはおかしな反応をした。

「…おい待て何だその反応は…まさか」

「私、ハンドガン持ったことないです」

目を輝かせながらそんなことを言う。

「…撃てるわよね?さすがに…」

メイリルが護身用の短銃をちらつかせながら言った。

「…あれ!?何でコッキングレバーが無いんです!?はっ!弾倉が着付いてないですよこれ…え?ここが安全装置?こんな…こんな最先端の銃操作できません!」

クレイスは銃を返された。

「…教えておけば良かったな…」

「私でも分かるのに…」メイリルは自分の銃をしまいながら呟いた。

「ちなみにナイフも料理の時以外使ったことなくて…持ってきてはいるんですが」

フィアは懐から刃物を出した。

「…フィア…それは包丁だ。」

「え?ナイフじゃ無いんです?だ、だって古代英語じゃ、【キッチンナイフ】って言うじゃ無いですか!ナイフでしょう!」

「…メイリル、お前のナイフを見せてやってくれ。」

言われるままにメイリルは護身用のコンバットナイフを見せる。

フィアはそれを見てかなりショックを隠せない表情になる。

「…持ちやすそうな最先端のナイフじゃないですか!私のよりも…ずっと!」

「…フィアのそれは包丁と言うんだ。」

「包丁…これはもう旧時代の遺産なんですね…アンティークなんですね…はわわ、カルチャーショックです…」

何故か落ち込むフィア。

「…まぁ、何だ。メイリル、一応こいつお前より5年は違うベテランだから。…な、仲良くしてやってくれ」

「…まぁ、進みましょうか」「よろしくって言ってくれないんです!?」

カッと顔を上げフィアが叫ぶ。

メイリルはドスの効いた目で睨んだ。

「…夜露死苦」「あひゃわぁぁ!」

「…あんまりいじめないでやってくれ」

「近づくんじゃないっ!」ロバートは叫びながら三人の兵士を斬り捨てる。

「アヒャヒャヒャヒャ!!」

ドレッドは回転しながら両手に持ったサブマシンガンの弾をばらまいている。

…たまに流れ弾が飛んでくる…

「前方、クリアじゃ!」

ガトリングを構えた重装甲兵の頭を火縄銃で撃ち抜いたイーリスは叫んだ。

「分かった!行こう、ドレッドさん!」

「わー…ばらまきすぎちゃったかなー」

ポケットの中のマガジンの数を見ながらドレッドは一足遅れてついてくる。

「逃がすか!」丁度ロバート達が通った十字路で、左右から敵の小隊がやってきてロバートとイーリスのペアと、ドレッド一人が分断されてしまった。

「しまった…ドレッドさん!」

ロバートは叫んで振り返る。

「どした?」ドレッドが隣にいた。

「なんじゃとっ!?」

イーリスは慌てて敵の方を見る。

小隊は全員が脚に傷を受け、うめき声を上げながら這いよってくる。

「うわ…どうやったんだよこれ…」

「さー、行こっかー…この先が確か基地の正面ガレージだと思うよー」

ドレッドは(今気づいたのだが)、ワイヤーで繋がれた双機関銃を扇風機のように振り回しながら先を歩いていく。

ドレッドのマイペースでハイペースな動きには、全く目を奪われる物があった。

…敵に回したくない人だな…

「そういえばー、ロバート君は帝国攻略の時にクレイスと動いてたんだっけ〜?」走りつつドレッドはロバートに話しかける

「ん…あぁ。ドレッドさんはあのとき何処にいたんです?」

「俺は更に奥の地図を描こうと先に偵察してたんだけど、いきなりクレイスが帰るぞって連絡してきたからさ〜」ドレッドはここでいきなり真顔になる。「…で、あのときクレイスに何があったんだ?」

「セインが裏切った」ロバートはそれだけを呟くように言った。

「あ〜、なるほど〜…」

「なんの話じゃ?」イーリスは首を傾げながらロバートに近づく。

「イーリスに会う前の話さ」ロバートはそう言いながら歩速を速めた。「よし…ガレージは手薄になってるな」

「このまま突撃じゃ…」

ガラガラガラ

ロバートは非常に嫌な予感を感じた。

「皆!避けろ…」

瞬間鼓膜を叩く炸裂音と共に、今までロバート達のいた地面が穿たれる。

「うわ〜♪そういえばここって戦略拠点だったねー。そりゃ戦車の一台や二台あるか〜はは、誤算だったよ〜」

「感心している場合ではないのじゃ!」

イーリスは頭を低くしてうずくまる。

…かわいい。

はっ!

「次弾、来るぜ!」ロバートはイーリスの手を引いて次の遮蔽物の影へ移動した。「イーリス!爆弾は!?」

「丁度そこにはセットしてないのじゃ!誰かが戦車の動力部にこれを貼り付けてくれれば話は早いのじゃが…」

イーリスはマグネット爆弾を取り出す。

「俺が行く!」ロバートは爆弾をイーリスから奪い取った。

カバーポイントから飛び出したロバートに戦車の砲塔が向けられた。

「ロバート!」イーリスが叫ぶ。

戦車から弾が発射される。ロバートは盾を地面に対して平行に構えた。

「◆リフレクト・レイズ…!」

爆発しないギリギリの力加減で、盾を使って砲弾の軌道をずらす…。

クレイスの【アテンション・ブースト】と同じ、経験によって会得した能力。

あらゆる攻撃を盾によって効果的に弾く、【パリング・マスター】。

それがロバートの能力だった。

背後で砲弾が爆発する。その風圧を利用した突進で、ロバートはすれ違い様に爆弾を取り付けた。

瞬間、戦車は轟音をあげて砕け散る。

危うく爆発に巻き込まれる所だったが、これがいつものイーリスとのやり方だ。

ロバートが無茶して、イーリスが爆破する。これに勝るコンビネーションはない。

【続く】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ