短編集③オフ会
沈黙。周りのいかにも居酒屋らしい喧騒とは裏腹に、この一角は沈黙と気まずさが集まった人々を覆い、まるでお通夜のような印象さえ受けた。何故、このような飲み会が開かれたか。発端は三日前にさかのぼる。
オンラインゲーム【エターナルフロンティカ】アグネスサーバーのレイドフィールドにあるロンド会館五階
[たけちー]:いやー我らのギルド「スター☆帝国」も大きくなりましたなあ
[タノ★スィー提督]:ですのー自分もギルマスとして嬉しいなwww
[清武士]:wwwww
[モツ男]:そうだ!今度オフ会やりませんか(^O^)ノ
[清武士]:( ・∀・) イイネ!
[タノ★スィー提督]:んー(。-_-。)じゃあ、やてみるw?
[たけちー]:えww?提督マジΣ(゜д゜)
[タノ★スィー提督]:うむ!
[モツ男]:おーヽ(・∀・)ノ
[タノ★スィー提督]:じゃ、三日後どう?場所は町田のB店で。参加者は?
[清武士]:ノ
[モツ男]:(^-^)/
[✝Karou✝]:参加希望!!
[えんどー3]:オレもww
[秋田剣]:私も行きますー(*´∀`*)
[レッドマン2号]:みんな行くならノ
[タノ★スィー提督]:以上かな?
[清武士]:あれ?たけちゃんは?
[たけちー]:行きたいけど、おれ北海道民だからwww留守番頑張りマス(´・ω・`)>
[えんどー3]:あららw
[タノ★スィー提督]:そかー
[たけちー]:まあ楽しんできてwww
そして現在に至る。未だに沈黙が場を支配していたが、気まずい空気に耐えられなくなったのか、一人の眼鏡をかけた冴えない青年が渇いた口を開いた。
「あの~僕、エタフロではタノ★スィー提督という名前です・・・・」
提督は顔を赤くしながら、軽い自己紹介をやりきった。
「あ、タノ★スィーさんでしたか・・・自分はモツ男です・・・」
一人の学生らしき男が目を泳がせながら、ポツリとつぶやいた。他のメンバーもポツリ、ポツリと自分のゲームと現実の名前を言っていった。だが、それ以上の進展は彼らにはもう限界だった。ここで、誰もが思ってることを、おそらく最年長であろう中年男、清武士が言った。
「何か・・・盛り上がりませんね・・・」
「自分ノーパソ持ってきてるんですけど・・・」
サラリーマン姿の男、レッドマン2号が周囲の様子を伺いながら言った。その途端、何かのスイッチが入ったように全員、
「自分もです!」
「僕も一応」
「えっ!俺も!ていうか全員!?」
ここでタノ★スィー提督が言った。
「じゃあ・・・・みんなでやりますか。」
その言葉を全員が待っていた。
オンラインゲーム【エターナルフロンティカ】アグネスサーバーのレイドフィールドにあるロンド会館五階
[清武士]:いやあ提督若いwwwww意外www
[タノ★スィー提督]:意外てwwwwwwwwwwwwww
[レッドマン2号]:モツ男イケメンじゃねwww
[モツ男]:いやいやwwwよく言われる(。≖‿≖)
[✝Karou✝]:wwwwwwwwwwwwwwwwww
[たけちー]:・・・・・ていうかさ。オフ会は・・?
[タノ★スィー提督]:してるよww
ちょうどその頃、現実世界。
「あの・・ご注文は・・・?」
困惑を隠せない店員の前には、一言も喋らず自身のノートパソコンに向かう異様な飲み会が広がっていた。