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極楽楽土

乙女椿の下で

作者: 蒲公英

綺麗な桃色の八重の椿が「乙女椿」という名前だと教えてくれたのは、祖母だ。

小さな私はその花を幾つも拾っては糸を通して首飾りにした。

一晩置くと色のくすんでしまうそれは、一日だけの宝物で、毎年お正月に訪れる祖母の家での写真には、落ちた椿を私が拾っている様子が何枚も映っている。


祖母の家にはたくさんの椿が植えられていて、冬の庭はまるで赤のグラデーション。

白、薄桃、濃桃、赤。

ぼかし、かすり、枝変わり。

夏に涼しい日陰を作る濃い緑の葉は、冬にはもっとつややかに花を引き立てる。

寒ければ寒いほど、花は色鮮やかに咲き誇っているかのよう。


一昨年のお正月は、中学受験の直前で祖母の家に行かなかった。

昨年は、弟が熱を出したので行けなかった。

祖母は電話口でとても残念そうに何度も言った。

「あなただけでも、来たらいいのに。」

でも、祖母の家にひとりで行くより、友達との初詣のほうが私には魅力的だった。

「夏休みに行くよ、おばあちゃん。」


でも、夏休みにも行かなかったんだ。

部活の合宿とお父さんの夏休みがぶつかっていて、私以外の家族だけが行った。

だから、お正月には祖母の家に必ず行くはずだったのに。


今年、私がお正月に行ったのは大きな病院で、会ったのは一回り小さくなった祖母。

「ずいぶん大人っぽくなったねぇ。」

と、嬉しそうに手を握ってくれたから、謝りそこねた。

ずっと会いに来なくてごめんね、夏休みに来なくてごめんね。

「こんなに大きくなったら、もう、椿の花で首飾りなんか作らないかしらね。」

祖母は少し寂しそうに笑った。


祖母が留守の祖母の家に泊まり、庭の椿をひとつづつ確認して歩いた。

乙女椿は今年もたくさんの花をつけている。

幸い、祖母の病気は重大なものではなく、もうじき退院できるらしい。


おばあちゃん、来年は一緒に椿の首飾りを作ろう。

おばあちゃんには椿の冠も作ってあげる。お姫様みたいに。

そして、乙女椿の木の下で、写真を撮ろうね。


fin.

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