~荒野~其の七
象亀~GENBUは、自身に抗うちっぽけな、それでいて鬱陶しい存在を踏み砕くことを諦めた。
と、同時に、かつての戦で使われ、未だ体内で生産されている重火器という武器の全てを使い、この邪魔者を排除することを決定した。
外皮を変化させ構築された無数の重火器が一斉に火を吹き、その弾丸という弾丸は怒号と共に女に降り注ぐ。
女はさして驚いた風でもなく、人間離れした機敏な動きで弾丸の豪雨をかわしながら、或いは、纏ったマントに忍ばせた武器で必要最小限攻撃の源を破壊しつつ、戦闘は継続された。
ズゴォォォン!
小規模な爆発音と共に、今度はGENBUの右前足の機能が停止した。
もし、この巨大な象亀に感情があったらなら、激しく動揺したに違いない。
自分と比べ遥かに脆弱な存在から、僅か数分で自由を奪われたのだから。
しかし、動きは封じられても存在を抹消される心配は皆無だった。
何故ならGENBUの全てを司るコアは、体内の中心、幾重にも重ねられた装甲の中にあり、人が扱える武器などでは到底ダメージを与えることなど出来ないのだから。
GENBUはやがて来るであろう、この小さな反逆者の弾が尽きるその時を、気長に待つことにした。
自分の武器は、弾丸を含め無限に生産、構築出来る。
もはやGENBUは無差別に弾を吐き出すだけの存在と化していた。
女は未だ汗一つかくことなく、弾幕をすり抜けながら象亀を翻弄していた。
不意に女のサングラスに、何かの反応が表示された。
この時一瞬だけ女の口許に笑みがこぼれたのは気のせいだろうか。
全ては整った。
GENBUの体内で精製された巨大な弾丸は、その背中に背負った巨大な蛇、レールガンに装填されたのだ。
蛇は、折り畳まれていた巨体を天空に昇るかの如く伸展させ、ほぼ直上に禍々しい弾丸を吐き出した。
極限まで上昇した弾丸は重力の鎖に引き戻され、GENBUの直近、女を狙い大地に着弾した。
大地は陥没し、続いて衝撃波と轟音が周囲を呑み込んだ。
そして、静寂が訪れた。