~荒野~其の六
ガラン!ガランッ!
白く細い指から離れたハンドカノンは、大地で派手な音をたて転がった。
仁の生命反応は、何者かにジャミングされてるのか、ノイズが入り上手くモニター出来ない。
女は無表情だった。
灼熱の太陽が照りつけているにもかかわらず、汗一つ流れていない。
漆黒のロングレザーコートに、幅広でプレートのようなサングラス、SF物の主人公のような出で立ちは、この世界にはあまりにもミスマッチだった。
不意に女が立っている周辺を、瞬時に構築された巨大な影が覆い、次の瞬間、金属の塊が地面に打ち付けられた。
間一髪、華麗な跳躍で身をかわし、身体を反転させ着地した女の前には、装甲車や戦車といった次元ではなく、まさに小さな山の四隅に巨大な四本の柱がついた物体が、その巨体を構築し終わろうとしていた。
巨体から伸びる無数のコードがスクラップと融合を繰り返し、別の物体として構成される様は圧巻であり、生から死の時の流れを逆回ししているようであった。
そして、ほぼその再生が終わったシルエットは、巨大な象亀が長い物干し竿を背負っているようにも見えた。
「GENBU・・・。」
女はそう呟き、仁に弾かれたハンドマシンガンを再び手に取り、トリガーを絞った。
無数の鉛弾はその巨体に吸い込まれていったが、着弾と同時にその外皮に弾かれる。
女は移動しながら、空になったマガジンを排出し、間髪入れずブーツに装備している新たなマガジンを装填すると、再びトリガーを引いた。
弾丸は、象亀の右前足、人で言う「肘」に当たる部分の5センチ四方の中に集中して着弾し続け、やが外皮はその部分だけ重なる衝撃に耐えきれず破壊された。
僅かな、ほんの子供の拳くらいの穴から露になった内部には無数のコードが走っており、破壊の衝撃でその何本かは断線し蒼白い火花を上げていた。
動きを止めた象亀は、脚としての機能を直ちに回復すべく再生を試みた時、女の投擲した榴弾が炸裂しさらにその傷口は広がった。
間髪入れず、女が次に投げた野球ボールほどのカプセルが傷口に到達するのとほぼ同時に、小銃の弾丸がカプセルを破裂させると、ゲル状の粘着物が飛び散り、コードの類いを包み込む。
再生は封じられ、機能が回復することはなかった。
こうして象亀の左前足は、完全に機能を失った。