~荒野~其の四
「いてててて。」
しこたま打ちつけた腰をさすりながら、仁は立ち上がった。
咄嗟に逃げ込んだ地下道の入口は、正体不明の黒ずくめ女による先程の攻撃で、瓦礫で完全に塞がれていた。
さっきまで逃げ惑っていた灼熱の地上と打って変わり、地下はヒンヤリとしている。
「さて、どうしたもんかな。」
仁は、まだ暗闇に慣れない目を凝らし、四方の様子をうかがった。
どうやら、この地下道は以前下水道として機能していたのか、トンネル状で、壁もコンクリートか何かで固められ、すべすべとまではいかないが整っていた。
壁からは人工物特有の匂いと湿気のない冷気がにじみ出ており、光が全く入ってこないため、まさに黄泉の国へと続いているのではないかと錯覚させる。
地上との温度差に身震いしながらも、仁は、一歩踏み出した。
仁が落ちてきた入口は、壁に梯子が設置されていたため、もし、他に入口があれば、同じように梯子があり、地上に出れると考えた仁は壁に右手を沿わせながら歩みを進めた。
ピチョン!
どこかで落ちた滴の音が地下道に響く。
無光、無音の世界では、仁の足音やこのような雫の滴る音までも響き渡る。
仁は、黒いブーツの足音だけは聞こえないようにと切実に願いながら、それでもここまでは追ってこないであろうという安堵感に包まれていた。
何より涼しいし。
祈りが通じたのか、ブーツの足音を聞かないまま、仁の右手は壁の材質とは違う棒状の感触を感じた。
人間の目は不思議なもので、はじめは何も見えなくても、ほんの僅かな光を集め、何となく周囲の状況を脳に伝達する。
仁は、ぼんやりとではあるが把握している視覚情報と両手からの感覚で、間違いなく梯子であると確信し、更に、見上げた先には針の穴程もない穴から光が差し込んでいた。
パラッ
仁の顔に二、三粒の砂が落ちてきた。
短い?
仕よ・・・以下略