~荒野~其の二
「見つけた。」
少女とは全く違う影は、俺に向かい確かにそう言った。
俺・・・
そう、俺の名は『仁』。
そして目の前にいるのは、
わからん。誰だっけ?
漆黒のコートにマント。
このくそ暑い中、正気とは思えないね、全く。
でも、顔立ちはサングラスで目元はよくわからないけど、間違いなく美人。
しかも飛びっきりの。
そんな女が、俺を「見つけた。」ときたもんだ。
神様ありがとー!
「で、ウチはイチゴミルクしか無いんだけど、それでいいかい?」
いかん!何を言ってるんだ、俺は!
「見つけた」て、アイス屋じゃないだろ!
ほら、何も答えてくれないし、何か銃のような物を・・・
それって、銃ですよね?
黒色の、そのT字型の物は、T字の縦棒部分が、貴女の白く美しい手に収まらないってことは、いーっぱい弾が入ってるってことですよね?
それも、ご丁寧に両手に持っちゃって。
あっ、丸いパイプ状の・・・否!銃口がこっちを向いて・・・
タタタタタッ!
軽い音とは裏腹に、仁が直前まで座っていた椅子は粉々に砕け散った。
「おわっ!ご、ごめんなさいっ!名前とか、貴女のことを忘れていた事について怒ってるのなら謝りますし、頑張って思い出しますっ!だから、撃たないでっ!」
間一髪逃れた仁は、スクラップの山の影に逃げ込み、美人だが、迷惑極まりない女に向かい叫んだ。
ガラッ
頭上の音に仁が視点を移すと、スクラップの山の頂上に、漆黒を纏った女が仁を見下ろしてした。
タタタタタタッ!
「何でどいつもこいつも俺の話を聞いてくれないんだよっ!」
紙一重で銃撃をかわした仁は、だが、砂に足をとられ、大きくバランスを崩した。
タタタッ!
さらに容赦なく放たれた銃弾は、仁の心臓の位置に吸い込まれるように着弾した。
「がっ!がはっ!い、いてぇ!」
仁が痛みにのたうち回るが、血は一滴も出ていない。
「この着流しは耐弾性があるから貫通はしないけど、やっぱ死ぬ程いてぇ!」
鶯色の仁の着流しには穴一つ空いていなかった。
「だけど、俺は何でこんなモンを着て・・・」
キィィイン!
しまった!余計な事を考えてっ!
痛みと吐き気にフラつく仁に、女はとどめとばかりに発砲した。
ヤバい!やられる!
弾丸は、今度は着流しに邪魔をされないよう、仁の頭部を確実にとらえようとしていた。
キレが無いのも仕様です。(笑)