表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

第1部 第一章 第九話 この作品は柳の下に潜む2匹目の野性大ウナギ!

 とりあえず漁協管理会の事務局長と話をつけ、港を出た俺とホワイティは列島沿いに北上しベーリング海峡を目指す航路をとった。だがホワイティの身柄引渡しの交換条件に事務局長に約束したオキアミの二次加工品60万トンのことを考えるなら南極へ向かったほうがよかったのだろう。外輪はただひたすらに水をかいて進んでいる。

 そんなことを真剣に考えている自分を、ふと改めておかしく思う。物心ついたときからボタ山でボタを拾って、それを家に持ち帰り飯を食い、笑い泣き諭され学び、それを明日のボタ拾いに活かすあの頃の暮らしぶりから、俺はずいぶん離れたこんな現実感のないクラクラとゆられる海上に今はいる。あの確かな大地、明日も変わらぬはずの暮らし、父と母と姉と、べっ甲ぶちのメガネが愛くるしい妹……。


 妹の名前は生萌といった。なまなましく萌え~と書いて生萌と呼んだ、俺に答えるあの声が今も胸を離れない。


「オにぃチャーんっ!」


 放課後の校庭を走る生萌がいた。遠くで俺はいつでもキミを探してた。あの頃の俺はといえば安部光俊気取りでバンダナを巻きサングラスをかけ校舎のガラスを割ってはこんな街から飛び出して盗んだバイクで明け方にこっそり帰って来てた。おぉアンジェリーナ! キミは誰リーナ! 浅い夢だから…合唱!…合掌。


 俺たちが初めてきちんと見つめ合ったのは、相手を存在ある者として意識したのは、初めて互いの心を覗きあうようにして、そして当然のように言葉も無く繋がれたのは、あのGINZAの紅茶のおいしい喫茶店でだったかもしれない。忘れもしない。並びの席の向こうには、うす緑色をしたふくれあがったカブトガニのようなオブジェがあったっけ。そしてそのオブジェに対面する席に一人の男が座っていたっけ、ねえララア……。


「オにぃチャーんっ!」


「誰か、誰か、こいつを助けてくださいぃっ!」そして俺はあの場所ではそう叫んでいたっけ。お前にはあの時の俺の叫びが聞こえなかったと思いたい。


「誰か、誰か、助けてくださいぃっ!」

 唐突に現実の方角からそんな声が俺の耳に飛び込んだ。見るとホワイティの左舷ヒレの先端にボロをまとった男がつかまって助けを求めていた。

 俺に? こんな俺に誰が助けを求めるというのだ。助けてほしいのは俺のほうなのに……。


 こうしてサー・アーネスト・シャクルトンが、俺とホワイティの非常食として仲間に加わった。


次回予告

一向はひたすらに北を目指す。目的もわからぬまま、それぞれの定めに向かい……。その行く手に見える暗黒の塔。はたしてそれは彼らのたどりつくべき場所なのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ