第一部 第一章 第八話 狼よ、彼を救いたまえ~。ライラライラライララ~イ
28号! 薄暗く狭苦しいあちこちすすけた待合室で俺は2時間ほど前から自分の番がくるのをぼんやりと待っていた。俺がクリニックに着いた時、先客では12号が呼ばれたところだった。そのまま受付で簡単な問診表に記入し、デッドゾーンで康司が胸ポケットにねじこんでくれたなけなしの1万6千ゼニーを差し出すと、超ミニの白衣を身に着けた、おそろしく胸のデカい受付嬢がくわえ煙草で俺の手のひらに、28とマジックで書き込んだ。保険は利かないとのこと、やっぱりね。
処置室とプレートのかかげられたさらに狭い部屋で予備麻酔を受ける。だんだんと意識がとろけてきた。ここがどこなのか、何をしているのか、そもそも俺は誰なのか、だんだんわからなくなってきた。だが五人の男たちが、たくさんの人を殺しているイメージだけは少しも薄らがない。これは何だ、あれは誰だ、思い出せ。とても大切なことだ。忘れてはいけない。あの男たちの名は……。誰かが俺をどこかに連れていく。俺はあの時、今、明日、どこにいたんだっけ……。
手術はおおむね成功した。ようだった。今では俺のなくなった下半身にセグウェイがしっかりとくっつけられていた。しかも腹の中には動力源としてスチームボールが入っている。こんな素晴らしい体にしやがって! 俺は泣きながらなめらかに岸壁を疾駆し、突堤から海へと軽やかにダイブした。
海風と陽に焼かれた浅黒い顔の老漁師に頬を叩かれ俺は目を覚ました。俺は彼の船が流していた底引き網にひっかかっていたのだという。
「困んだよな、アンタみたいのがさひっかかってっと商売にさしつかえっからよ、やるんだったらどっか山にでもいってやってくんねえと」漁港の船着場でずぶぬれの俺は説教をくらう。
「どーぼずびばぜん」頭にてをやり、てへへと照れ笑いしながら俺はセグウェイを後進させながらその場をしゅるると去った。どうやらまた俺は死にそこねたらしい。
潮をたっぷりふくんだ風。夕日を背に受けコンクリートに長く伸びる俺の影。とぼとぼと低速でセグウェイを走らせる俺の目は水揚げ場のでかい建物にすいよせられた。いくつもの空のトロ箱がつまれた中に、ひとつだけ中身のつまったものがあった。そこには額に黄色いナイキのマークをつけたシロナガスクジラが詰まっていたからだ。たぶん先の大戦後に廃棄された連邦のサイボーグ鯨だろう。
そのまま通り過ぎようとする俺のセグウェイを止めたのは、その鯨のものいいたげな目だった。おめぇも俺と同じ半端者だぁ~。どうでぃ若けぇの、おめぇ拳闘やってみる気はねぇかい? その目は俺にそう問いかけているようだった。
(次回予告)
サイボーグ鯨・ホワイティとひたすら川を上る「名無し」に旅の仲間ができた。サー・アーネスト・シャクルトン、逃亡奴隷の黒人ジム・ボタン、ブリキロボットのレッド・バロン。道々「名無し」はジムから拳闘のてほどきを受ける。やがて彼らがたどりつく先には……。




