第一部 第一章 第五話 さよならは別れの言葉だよ
「ぎゃあぁあーっ!」
その叫び声で俺は目を覚ました。ひきつった顔の40がらみの女がガチョーンの手をしたまま
「ぎゃあぁあーっ!」の後に続く声が伴わないまま、シュウウゥウと息を吐き続けていた。
指が、耳が、後頭部が、上半身が、そして無くなった下半身が、寒気をこえた水銀の針のように、シュライクの棘のように俺の全身を深くまんべんなく千二十四方から刺し貫いているようだった。
「ぃ、ぃ…ぃっ…ぃ……ぃしゃ…を、呼、ん…でくっく、…れっ」そう言えたことが奇跡だった。
機械措置によって延命されつつ、救急フローで運ばれながら、麻酔が全身の皮膚の裏側にぬらぬらとゆきわたると俺はやっと暖かさを感じ出した。
さっきのマダムには不快な思いをさせてしまった。誰だって冷凍庫の中に知らない男の凍りついた上半身があったら驚くだろう。麻酔で人心地ついた俺はクスクス笑いを抑えられない。
それにしてもあの時俺は確かに死にかけていたのだろう。康司といたあの場所は、あの霧に包まれて高さも奥行きもなかった所はきっとあの世とこの世の境目だったのだろう。恐竜みたいにでかいのが歩いていたみたいだったし。そこから俺はこっちに戻ってきて、康司はあっちへいっちまった。体の解凍が進んできたせいか、目じりから涙がたれた。血行がよくなってきておおいに結構。鼻水もたれた。グッバイ・康司。鼻が詰まってうまく言えないけど。
どうやら俺を乗せてフォームはひたすら上昇しているらしかったが、額に十字の焼き印を押された3等市民の暮らすセントラルドグマを抜け青空が見えたところでようやく状況がみてとれた。どうやら俺はインダストリアまで流れてきてしまっていたらしい。
だとすれば、俺が生きながらえあの五人の魔王子たちに復讐する機会、なによりイソップにたどりつくことができるチャンスは残されているだろう。
わずかに芽生えた希望にしがみつき、俺は深い眠りに落ちていく。待ってろよイソップ、待ってろよグリフィ………
そこで俺は気を失ったようだった。
次回予告
時間の墓標をくぐる前に、とりあえず「名無し」は病院に行くことになるようだったのだった!




