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「汽車男」筑豊篇  作者: アニー・ヨシムラ
第二部 第一章
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COUNT 4 my name is no name

 目の前に広がる光景に気おされて身動きすらできないまま思考が5分くらい止まっていただろう。


 頭上をMagic TATAMIが通り過ぎる鋭い風切り音をきっかけに、ようやく我に返って頭に浮かんだのは、数世紀に渡り搾取され続けてきた村の反乱軍がこのタイミングで蜂起したんだという現実味の感じられない理解だった。


 夜の闇の中、星空を背景に丘の上から見下ろす村のあちこちから火の手があがり、黒煙が立ち昇っている。

 煙の一部が村の集会広場のあたりに低くたちこめている。

 ノーカー・ウォーカーの群れと、強化農POビニールアーマー装備の農奴兵(スチーム・トルーパー)が放つ赤と緑の荷電蒸気ビームの筋が何十本も、まばたきする間に線香花火のようにチラチラと交錯し続けている。


 信じられないが角川帝国軍と村のレジスタンスの交戦だ。


 そこへ角川ウォーカーak4-b7が3台、栗林の向こうから樹木の先端を越して頭を覗かせた。 角川の第14機甲農攻兵団だ。

 大型コンテナ―のボディから突き出した長い4本の運動脚を二対交互に動かし樹々をなぎ倒しながら前進してくる。

 その足元後方には重蒸気関銃が据え付けられた軍用フライングTATAMI数十枚が地表3メートルあたりを低く旋回しながら時折発砲している。


 爆発音は止まず、ここまで焦げ臭い臭いが漂ってきはじめた。行かなければ。


 反証も許されない法廷に引きずり出され、不当な魔女裁判にかけられて縁を切られ、哀れ家を追い出された屈辱と恨みがあるとはいえ、あの村が古里であることに変わりない。


 そして生萌を、世界のすべての禍から護らなければ。


 ポケットに入れた、すっかり温もりを失った姉ちゃんのパンツを右手で握りしめる。

 そして祭りの古道具屋で買った、生萌とさっき互いの指に通し合った揃いの銀のリングをはめた左手を強く握りこむ。

 あのジプシーの婆さんがフォーチュン・マッシーンの前で浮かべたニタニタ笑いが脳裏をふとよぎる。それを置き去りにして一気に丘を駆け降りる。


 この戦火のなか、生萌は無事なのか。地を蹴る足の運びがもどかしい。こんな足じゃなく<クリスティーン>のような車輪がついていたなら一息で生萌の元へたどり着けるのに。


 ***


 丘を下り平地に出てそのまま真っ直ぐ進むと、やがて特二級河川の“角川”から村側に伸びる分流にぶつかる。

 上流の本川から向こうは角川帝国の領土だ。

 本川にかかる橋は四六時中跳ね上げてあり橋の左右、領土側には物見櫓を兼ねた橋の引き揚げ塔が建つ。


 角川を左に回り込み村の入り口までようやくたどり着いたが眼前では、レジスタンスの青年団が設置したサツマイモ地雷があちこちで爆発し、パイナップル手榴弾が飛び交っている。

 轟音に耳をふさがれ、衝撃波に頭を体をゆさぶられる。


 走って背を寄せた土止芽(どどめ)さんちの藁ぶきの軒下から夜空を見上げると、それぞれ5色に塗り分けられた厚さ5センチ、畳一畳ぶんの渺反密重カーボンフロートMagic TATAMIが新たに5枚、ゆっくりと舞い上がっていくのが見えた。

 あれは村の消防と防犯を兼ねる消防自警団〈盾の団〉の精鋭5人の畳色(メンカラ)だ。外星人観光客が見たら大喜びで写覚することだろう。


 フローボードで華麗にビッグウエーブを乗りこなすサーファー以上に、5人は思いのままに縦横無尽に空を舞う。

 TATAMI表にある窪みで足裏認証をおこない、畳μ細毛繊維が73本、足裏の皮肉を通してずるずると身体にもぐり込んで脳細胞へと直結しβ-タタミン=幸せホルモンを分泌することで反射神経にテコ入れしてくれる。

 おまけに空間認識が拡大し、興奮と万能感で何も怖いもんなんかなくなる。そして多層カーボンナノチューブのビンディング鼻緒で保定されさえすれば、あとは細やかな体重移動のフットワークでインメルマンターン1440だってへっちゃらなんだ。


 赤のメンカラは青年団の団長も兼務し正義感の団粒塊でもある<カッパのシゲ兄ぃ>。

 いつもクールで長い爪楊枝を咥えてスカしてる<明日能條>のアニキのメンカラはブルー。

 太っちょで食いしん坊で村の奉納相撲横綱の<カピバラのマル八さん>は黄色で、村一番の物知り小学生で湘南児弩喪(こども)会特攻隊長<鉄砲玉のリューヂ>は緑。

 そして忘れちゃいけねぇ、堆肥の山に凛と咲く一輪の白百合。紅一点は自慢の姉貴、<白衣の天使ヹバ>姉ちゃん。メンカラは、純潔を表す純白の白だ。


「行っけーーーーーーーーーー!」


 身体を満たす興奮に突き上げられ、拳を突き上げてぴょんぴょんとジャンプした。

 萎えていた両足に徐々に力が漲り、自分が確かに大地に立っているんだと感じていた。それは一瞬の夢でしかなかったのに。

(次回予告)まだ「名無し」未満だった頃の俺=タフネス大地に立つ!ウォーターが村を駆ける。そして戦火のなか彼が見るものは! キミは生き延びれることができるか。

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