第一部 第二章 第009話 フランソワーズ・アルヌールはエロい
少しずつ拍をずらしながら、何重にもなって聞こえる蝉の鳴き声のすきまを縫い、細く踊るような調子の祭囃子が遠く聞こえる。
ぼた山のむこうに陽が沈もうとしている。バンドの演奏も失われてしまった。
サイドWindowsを全開にした車内を夏の夕風が吹き通ってゆく。その肌あたりに、閉じた目のまぶたの裏に遠い記憶の中のアサガオの棚がぼんやり浮かぶ。ゆっくりと、なじみのある忘れていた時間が体に染みとおってゆく。
田んぼのあぜ道に止めたタイムマシンの中に座ったまま、俺は自分を取り戻してゆく。遠い昔と同じ風と緑豊かな匂いに鼻を柔らかくくすぐられるまま。
還って来た。未来から、過去から、あの全てが始まった、ここへ。もうすぐ全てが終わる、その満ち足りた思いを胸に短く一息吐く。
時間の流れを遡る隘路での体験は酷いものだった。それを利用する誰一人がルールを守らない。そもそもルールなど無用不要、縦横無尽に俺が交通法規だとばかりに時間から解放された野郎どもは、ハコ乗りし放題で窓から煙草の吸いさしは捨てるは、ドリンクの缶は捨てるは、使用済みのコンドームとティッシュも捨てるは、ひどい奴になると粗大ゴミまで捨ててゆく。
虹色のトンネルをくぐるなか、マナーの悪い無法者たちにかたっぱしから窓越しのGNサイコガンを喰らわせてやったわ。
青くて丸くてデカい耳のないロボット、イカルス号、制服を着たラベンダー臭い小娘、ジョーイ・テンペスト、流星号、元カリフォルニア州知事のコスプレ野郎、自衛隊の戦車、加藤ミカ、主人公のダン、俊夫、シンディ・ローパー、ウーパー・ルーパー、ドラム式、ユウちゃん、メカブトン、あとは憶えてない。
歴史認識上の不必要悪に成敗をくらわし、すっきりした気分でタイムアウトした俺は今、ここにいる。
そして今夜、ひっそりと五人の魔王子の宇宙船が俺たちの村へ舞い降りる。
陽も落ちた。さあ復讐に向かおうか。
キーをひねり、俺はアクセルを踏み込んだ。
(次回予告)
…つもりがペダルに何かがはさまっていて、踏み込めない! 足元を覗いてみるとローズの頭がアクセル・ペダルと床の間にはさまっていた! はたしてローズの運命は? 次回、第二部、突入!




