第一部 第二章 第はち話 Yesterday~♪ほにゃらららら、ふ~んふふ~ん♪ シャア!シャア!シャア! JASが来る~♪
最後に、乳房のように二つ並んだ土饅頭に手を合わせ、俺はゆっくりとひとつ、頭を下げた。その盛り土のひとつには、あの得体の知れぬ男の持ち物の白刃を一本、墓標のつもりで立ててある。
もうひとつの盛り土に向かい直し、
「交わりは薄かったが俺は、俺の大事な存在の、写し身のようなお前を生涯忘れない」
そう言葉にして約束どおり、お萌の塚のてっぺんに、そっとオキアミペーストのウェハーを突き立てた。100年経とうがお前のことは忘れない。憶えてるかな? 知らんけど。
涙は流れない、だって涙は昨夜のうちに流しつくしたから。お前の事をきれいに忘れてしまうまで俺は涙を流さない、ロボットだからセグウェイだから。だだっだー。
ふざけてお調子者のような軽口を自分に放つタフネス大地に立つ!ウォーターだったがもちろん誰も受けて返す者はいない。それは昇る陽が茜色に染めゆく空と大地が力強さを取り戻し、新たな今日という世界の広がりから、ひとり己だけが取り残されるような畏れを感じたゆえの強がりだったのであろうか。つまり、この世界でよるべないといえるただ一人の自分の哀れさを見ないための。
すべての儀式を終えた俺は、さっそうとタイムマシンに乗り込んだ。
人を人たらしめるあらゆる繋がりを見失い、こうして狭い空間に収まってみると、なおさらに失くしてしまった過去に囚われていたくなる。
しかしただひとつ、俺が俺に俺を繋ぎ止めるために今手にしているものは、復讐。
憎しみにすがり、それを生きるよすがにする。そしてそれがいつの間にか気がつくと生きがいになってしまっている。生きることを自らやめない以上、俺の魂が狂おしくそれを求める。俺をかりたてる。あいつをヤツを狩り立てろと…グリフィ……!!!!!
「よっしゃ!」
タフネス大地に立つ!ウォーターは気合いを入れ直すと、まず、このタイムマシンは左ハンドルだったので、一度助手席から降り、ドライバーシートに移った。
ざっとコンパネを見まわすと、愛車のクリスティーンと計器やレバー類もたいして変わらない。マイル表示のスピードメーター、タコメーター、燃料計、走行距離計などなど。
しかし12桁の7セグメントLEDが数列並んだパネルがフロア上にあるのは見慣れない。おそらくこれが一般的な自動車が自動しない部分に関わる指示器もしくは表示器であるはずだ。でなければオーブンの温度表示計か。であれば、お萌えにもう少しうまい魚バーグを食わせてやれたかもしれない。そう思うと滂沱のごとく涙溢れて止まらない。ゆらゆらと視界が波打って時間の迷子になったような切なさがいやます。
あるいはあの幸薄い、生萌の写し身をさらって遥か時間を遠くまで連れてゆき、信じられないような旨いものをたらふく食わせてやれたかもしれない。風呂に入れて垢をおとし、きれいな服を着せ、美容院へ連れていってやれたかもしれない。連れて歩けば誰もが振り返るような女ではなかったかもしれないが、それだけにその社会に属する誰もが俺たちをあたりまえの二人連れとして自然に受け入れてくれるようにしてやれたのかもしれない。つまり、お萌とやれたかもしれない。スター歌手への階段をのぼらせてやれたかもしれない。
歴史と男女の関係に”if…”はタブーだ。チョークレバーを引き、キーを捻りエンジンに火を入れる。暖気。ひとつ息を吸い、俺は過去の一切を断ち切り、未来へと生き延びる理由をただひとつにぎりぎりと絞り込む。
「復讐」
過去の一切を断ち切ったのに「復讐」をいうのはおかしな話でもなんでもない。これは第ニに、未来の生萌を救いだすため。そして第一に未来の生萌の仇を未然に討つため。おまけに、歪められてしまった二人の将来を購わせるのに加え、こんな体になってしまった俺への、落とし前をつけてもらおう……。あの小憎らしい五人の魔王子、イソップ、灰色熊、なかでも、グリフィ………。
昂る気持ちを極北での過酷な体験ですら押さえ込めぬまま、震える右手はキーボードスイッチにあの運命の日を。
あの日、あの夜、この世界の残酷さを何も知らぬまま、たわいのないまま結ばれようとしていた幼い二人を護るために、全てを把握し全てを正すことのできる俺がすべりこむための数列を打ち込んだ。あの日あの時あの場所に! そしてその一途な思いのまま、アクセルペダルを深く深く踏み込んだ。
フロントウインドウの向こうが虹色の、厚い遠くからの光に満たされ、ゆらゆらとうごめき流れるその端に、瞬間、お萌の着物の切れ端の模様が重なった。
金属とエネルギーと歴史の矛盾が、時間と肉体の孤児が、あさまだきの限りなく透明なブルーをつきぬけ、この戦乱の時代から、己の戦いの時代へと舞い戻る!!!!
(次回予告)
バッフクランの襲撃をかわしつつ、放浪の旅を続ける彼を救ったのは見慣れぬ悪魔か見知った悪魔か!?




