第一部 第二章 第Nana話 He~,Are you Nana? I'm Nana too. Nice to meet you!
ふたつのこんもりとした土饅頭を前にした俺が、そのドオーーーソ!というという音と衝撃波に体の背面を押され、セグウェイのタイヤは10センチほど前のめりに轍をきざみ、ようやく背をこごめたままからおそるおそる振り返った俺の目の前3メートルほどの所には、四角い銀色の箱があった。
何が落ちてきたのかと、思わず空を見上げたものの、そこにはいつの時代も変わらぬ黄昏を過ぎたコバルトの空が空を覆おうとしていた。バッカスIII世号の軌跡と宍戸錠の頬の震えが見えたようにかすかに思えた。
視線を怪しい銀の箱に移す。
それをあえて現代の何かに例えるなら、自動車を正面から見た図でしかない。フロントグリルから、ボンネットにかけてはありきたりのラジエータとライトに似た何かがこちらに対して真正面を向き、そこから折れ曲がるように伸びたボンネット部分はまるでヘアライン仕上げでステンレスの地肌が出たままのような広くて平坦なボンネットのよう。そしてその奥にはフロントグラスが空気抵抗を気にしてやや浅い角度で配置されている。側面に回るとタイヤに似た輪状のものが前後に一対ずつ。
俺の身に流れる鯨打ちの血と本能、そして今までの幾多の冒険につちかわれた勘が、俺にそっとこう耳打ちした。
「これは自動車だよ」
しかしなぜこの時代に自動車が?
ガチャという金属音と共に、その箱の側面の一部が跳ね上がる。そして反対の側面からも同じように、ガルウィングのような要領でドアに似たものが跳ね上がった。
箱の後方には、野原の一部から突然現れたような二条の轍があった。それはかやの葉と下生えが焼け焦げたような跡で、しかもその轍の線からは未だ煙が立ち上っている。
ザッ。ザザッ。箱の左右からそれぞれ何者かが地に降り立った。身を隠すことすら忘れ果て、土饅頭の前から動けずにいた俺。
自動車のフロントグリルの前まで歩いてきたそいつらは、周囲を見回したあと、互いにみつめあい、片方は首をかしげながら肩を軽くすくめ、両腕を肘から上げるような仕草をし、もう片方は額に掌を当て軽くのけぞった。まるでアメリカ人が、
「おいおい、ドク。ここはいったいぜんたいどこの国の、そしていつの時代なんだい?」
「すまん、マーティ。どうやらわたしはタイムチップに誤ったデータを入力してしまったようじゃ」
とでも言っているかのようだった。欧米か!
ドキューソ!ドキューソ!
射線の先にあの銀色の箱がこないようにセグウェイを円弧状に移動させつつ、その赤いダウンのスリーブレスジャケットを着たおじさんくさい小男と、まるでマッドサイエンティストのように見えるじじいを戦士の銃で撃つ。そして倒れたところをそれぞれに至近距離から二発ずつ撃ちとどめをさした。
ドクドクと全身の太い動脈がうづく。血液が溢れかえり、静脈すら弁に逆らい逆流し、体の内側から切実な希望が、裏返るようにしてこみあげる。
なぜこの時代に自動車が? 答えはひとつ。
ハッハッと短く切った誰かの呼気が聞こえる。
今、俺は俺と未来を支配しようとしている。
目の前のこの銀色のタイムマシンさえあれば、俺はすべての哀しみをくつがえせる。あの日のあの夜へ! そしてすべてを取り戻す! すべての絶望が地獄の三丁目から蘇り、逆巻きながら一気に俺の背骨をかけあがった。
その夜の密度の薄い夜気のすきまをくぐり、夜半まで続いた俺の歓喜の叫びは山野を越えてどれほどまでに届いたのだろうか。
(次回予告)
タイムマシンがゆきかう隘路の中で、タフネス大地に立つ!ウォーターがかかわりあった、その青くて丸くてでかくて、例えるなら耳のないネコのようなロボットは、敵か?味方か?




