第一部 第二章 第弐話 残酷な天使のベーゼ
カッパの川流れていた俺を拾ってくれたのはお医者だった……。薬草をとりにきて俺を見つけてくれたのさ。
長い間北極の海を流されていた俺の腕や鼻、耳、唇、目蓋や目玉はすべて凍傷でやられてしまっていた。そんな俺をパパは拾って育ててくれたのさ。幸いセグウェイとスチームボールは健在で、俺はまるでセグウェイに乗った肌色の巨大イモ虫のような姿だった。
どうやら最初のうちそのお医者は俺を、戦の敗残兵だと思ったようだった。破れ屋の風通しのいい縁側に藁布団をしいてくれ、陽が当たるように気にしてくれていた。粗末だが食事も日に二度、きちんと与えてくれた。本当によくしてくれたんだ。
そうした親切に何とか礼を伝えようと、いつか君と行った映画のように俺は後頭部を板張りの床にぶつけて、モールス信号を送り続けた。
ゴンゴン…ゴゴンゴン…ゴンゴゴン…ゴンゴン…ゴゴンゴン…ゴンゴゴン…ゴンゴン…ゴゴンゴン…ゴンゴゴン………
しかしここは戦国時代。まだモールス信号は発明もされていないので伝わるわけがない。タンコブができて首に角度がついたただけだった。
ある日、急な夕立がやってきた。濡れ縁にいた俺は雨に打たれるままゴンゴンと頭を打ち続けた。ゴンゴン、ゴゴン、ンゴゴン……(雨だよぅ、おいら水びたしだよぅ)
しばらくして薬草採りからあわてて帰って来たきたお医者は、頭をうちつける俺を見て、何かにひっかかりを感じたようだった。
「……うーむ、このイモ虫ケラがいつも床に頭を打ち付けておるのは、戦で頭をやられたせいとばかり思っておったが、これは……」
ゴンゴン、ゴゴン、ンゴゴン……(雨だよぅ、おいら水びたしだよぅ)
「……太田…、いや、違う…ウォーター、そうだ、この男はウォーターと心の中で叫んでおるのだ!」
俺とお医者の意思が通った感動的瞬間だった。
ようやく俺が人並みの心を持っていることを知ったお医者・寿海は、あたたかい心とやさしさで、非道な魔王子たちに奪われた俺の体を補ってくれた。木と焼き物で腕を目鼻を、唇を入れ目を幾晩もかけてこさえてくれた。鑿と玄翁を使い素体のパーツを作り、顔料で染め、それらを細いフジの蔓でつなぎ、そして左の義手にはかつて大将から拝領したというサイコガンを仕込んでくれた。そして
「よいか、お前はわしとは違う。どこかにお前の行くべき場所があるはずじゃ。この島を出て、仲間を見つけろ」
と言ってくれた。
「これからお前はウォーターと名乗れ」とも。
(次回予告)ああ流離のタフネス大地に立つ!ウォーターは、この戦国の世にどこへ向かうのか? 次回、過去最強の敵が現れる――?




