第一部 第一章 第十四話 何か冠とハゲみが欲しい。例えばSF大賞の祝辞とか……ほら、どすかね?
おかしなことを言うようだが、人の意思は時を超えちゃうコトがある。オカルトがかった、と頭から決めつけるお偉い先生なんかは理屈をつけ、それをハナから笑い飛ばしがちだが、あるものはあるんだから、そう言ってみろよ先生、どうだよ? わかるだろ自分で。これ、ほら。ここ…。俺の指がかき回してるここ。指先にあたってんのわかるだろ、これ、ここ何て言うの? ん、だめだよ、はっきり言えよ。知ってんだろ、中学の先生なんだからさ。何て言うんだよ。言わないと煙草の火を近づけちゃうよ。ほら、ほら、ほら……蝸牛だろ。言ってみろよ大きな声で「かぎゅう」って……。
かき氷を一気にかきこんでたいらげようとしたときのような、キーンてする感じにノックアウトされかけ、頭が左斜め23度に傾いていた。そのせいで進路が大きく左回りに円をえがき、ぐるぐると走馬灯がスパイラルに北極海の底の底に沈みかけていた。
深度12メートル付近で中学時代のかわいい夢からさめた俺は、あわてて浮上し、ようやく海面にたどりつくとふいごをふくようにして強制的な呼吸を繰り返した。上あごが、喉が、気管が、肺が瞬時に凍りつく。危ない危ない、あやうく時を超えてしまうとこだった。ゴローちゃん。
右腕のアタッチメントをフック付きのロープアームに付け替え、ホワイティのミッドスルの高い所へ発射する。ピンと張ったロープをたぐりながら、セグウェイのタイヤで俺はそっとホワイティの側面をのぼっていった。ありがとう、千葉のクリニック。
やがてバカの背中が見えた。案の定、バカは俺が落ちた側の海面をのぞきこむように見ていた。勝機は我にあり! セグウェイのギアをトップに入れ、俺は一気にホワイティの舷側から反対側へと加速した。ライディング・ハイ! 俺は今、汚れたひでお。
「ジムさんっ! アブねぇっ、奴が後ろからっ!」シャクルトンがそう叫ぶ。奴はバカ側にに寝返ってやがったのか。だが、もう俺のセグウェイを止めるにはあまりにバカとの距離が縮まりすぎている。やるしかねぇ! まだ実戦では試したことはないが、あのバカを超えるにはこの必殺技を出すしか道はねえ。姉ちゃん、使うぜこれを。俺は左腕のパワーリストを外し、そのまま一杯に引く。くらえっ、
「ギャラクティカ・宇宙空母ギャラクチカ!」……眠っていた俺の中の隠された野性のパワーを実感する一撃。お前は俺の大切な人たちを奪ってしまった!
腕を上げガードしようとしたバカの右肘から先が消滅した。血の霧と肉骨粉が北極の風を桜でんぶのようなピンクに染める。勝敗は決した……。
「ぐわあぁあ」バカが叫ぶ。そこへ、
ダダダダダダッ……。「青い豆」の一味の船と米農務省の視察団の一行を乗せたボートが近づいてきた。バカは苦痛を押さえ込み歪んだ笑みと共にこうもらした。
「人の身でよくぞそこまで己の技を練り上げた! 俺は嬉しいぞ、我が一番弟子よ。しかしこの極北の寒さから身を守るため、そして今の一撃のため、貴様は力を使い果たしたはず。ひとまずこの勝負は青豆の一味と米農務省に預けるとしよう」
バカはそう言うと身を翻し、ホワイティの船首へと走って姿を消した。俺は展開の早さについていけず、しばし次の動きをとれずにいた。
俺は停車場のバーにいて、そしたら後ろから撃たれて、冷凍庫で目が覚めて、クリニックに行って、で、海に行ったら何もかもむなしくなって……。
その一瞬の状況確認で一歩出遅れた。
ホワイティの頭部が左右に開き、そこからヘリキャットーが浮上する。操縦席にはバカの姿があった。俺の姿を認め、奴は軽く左手を振った。その薬指に光るものは……。
ババババババババババ。極北の薄い空気をローターが切り裂き、ターボプロップエンジンがうなりをあげる。
みるみるうちに奴の乗ったヘリキャットが遠ざかっていく。何も聞けないまま、何も知りえないまま、やつをみすみす取り逃がすのか。ようやくたどり着いた復讐への第一歩、そしてその先への手がかりを失ってしまうのか。ならばいっそ奴を今ここで……。
「かー、めー、はー、めー……」ホワイティの戦闘ブリッジへ駆け込んだ俺は、ためらうことなく透明なプラスチップのカバーを開け、赤い爆破ボタンを押し込んだ。…「はっ!」ポチッと。
ドーーーーーーーーーーーーーーーーン!
地軸がねじまがるような超磁力爆弾の爆発の衝撃とともに俺は高く高く宙に吹き飛ばされた。
ホワイティが、自爆してしまったのだ。
「ラナーーーーーーーーーーーーーーっ」
そう叫びながらまた、俺は落下していった。
(次回予告)
ある老婆に助けられたタフネス大地に立つ!は、髑髏のレリーフをあしらった、とある銃を譲り受
け、さらなる復讐の旅へと歩みを進めるのだった。




