第一部 第一章 第三話 早くも大好評!
俺の名前はトーマス。名前はまだない。
得意なことは決められたレールの上を走ること。
最近気になっていることは、寒さのせいでレールが縮んじゃって、どうしても継ぎ目でガタンガタンしちゃうこと。でもこのガタンガタンは、けっしていやなものではない。
生まれ育ったあの田舎町へ、二度と戻ることのできないあの頃へ、俺の心を運んでくれるから。その響きだけが昔の俺を取り戻させてくれるから。
こんな体になってしまった俺の、毎夕復讐に萎えそうになる俺の日和がちな目を覚まさせてくれる、この律動のおかげでこうして生きていられるのだから。
そう、あの頃の俺はまだ生きていたのだ。
「も~、トーマスったら、あたしをどれだけやきもきさせれば気がすむのっ?」
康司は停車場に軒を並べるバーの雇われホステスだ。気が向けばバーの二階の宿で客もとっているらしいが、俺はまだその誘いに乗ったことはない。もし奴の誘いにのってしまうようなことがあるとしたらそれは……。
バキューン!ズキューン!!ドキューソ!!!
俺の右肩の上で康司の頭蓋がはじけた。熱いスープカップの紙製のそれが電子レンジの中で爆発する様そのままに、俺の顔のそばで康司の頭に詰まっていたものが飛散した。
床にはいつくばっている目の前に、みるみるうちに血溜まりが拡がっていくが、その様子はグラデーションとなってすぐに俺の視覚は白銀に覆われた。
そして、やたらと痛いアバラの奥。
その激痛の向こう側に伸ばした俺の手がつかんだのは、スツールに腰掛けた俺の足首。
それでも気を失う前に、くいしばった歯と鼻の穴から俺は吐き出した。
「イソップの野郎……」
次回予告
下半身を失ってしまったトーマスは、とりあえず食材として冷凍庫に保存される。目が覚めたトーマスが見たのは、管理社会〈ハイブ〉での人間の悲惨な世界だった!




