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平民ですが、なぜか第三王子殿下と公爵家令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれました、助けてください

作者: にしはじめ
掲載日:2025/12/01




「やっと見つけた、こんなところで何をしているんだ? 早くこっちに来るんだ」

「へっ?」

「しかも何だその服は? もしかして、意地悪されてたのか?」

「い、いいえ?」

 

 私の名前はライラ。

 姓はなく皆からはライラ、あるいはアラゴ商店のライラと呼ばれています。その名の通りアラゴ商店の娘で、単なる平民です。

 今日は私が住んでいる町の領主様の給仕役として、はるばる王都へとやってきました。

 上位のお貴族様は、給仕の人も全員お貴族様かその関係者ですが、うちの領主様は下位貴族様であり、側仕えや執事様などの方々を除けば殆ど平民を雇っています。

 私は商店の娘ですが領主様の治める町に代々住んでいて、信頼と実績があったためか、よく給仕役としてパーティのお仕事をさせていただいております。

 私の母上も昔、領主様のところで働いていたらしいです。

 また、一応仮にも商店の娘、つまり商人見習いであり、平民にしてはそれなりの教育を受けていた、という事情もあります。

 教育といっても母上から習った程度ですが、それでも母上も私と同じように給仕をやっていたそうですし、何も知らない人たちに比べれば、十分教育を受けていたと思います。



 今回は領主様が王都のパーティに出席なさる、ということで給仕役として私が抜擢されました。

 最も私以外にも三名ほど平民の給仕がいますけどね。


 私の住んでいる町から王都までは馬車で五日と遠く、往復と王都の滞在を含めて二十日間ほどの旅程になっております。ただし天候によって多少伸びる可能性もあるそうです。

 幸い往路は天気も良く、予定通りの日数で王都に到着しました。


 これが王都かー、すっっっごく大きい、町の城壁なのあれ?

 え、この長蛇の列って王都に入る人たちってことですか?

 あ、並ばなくてもいいんですか? お貴族様専用の城門があるんですか。

 うわぁ、なんでこんなに人が多いの?

 ちゃんと石畳の道なんだ、すごいっ!

 あれ、ここって何の場所ですか、さっきの喧噪から遠ざかってやけに静かな場所ですけど。

 貴族街? お貴族様しか住めない区画なんですね。

 

 と、田舎者丸出しで口を開けたまま外の風景を見ていたところ、驚きで目がまんまるになっていた、と侍従長様に笑われてしまいました。

 何でも私みたいに、王都に初めて訪れる平民を臨時で給仕に雇うと、大抵私みたいな反応するんですって。


 そうして四日ほど領主様のお屋敷でマナーなどを教育して頂いたあと、本日お城のパーティへお仕事しにきたのですが……。



「とにかくこっちにこい。お前の為にこの舞台を考えたんだ」



 絶賛お貴族様に拉致られ中です。

 まだお若い、私より二つ三つくらい年上の方ですね。

 ご立派な服を着ていらっしゃるし、何となく雰囲気というか傲慢な気配をしています。

 同じ平民同士なら腕を掴まれた瞬間、相手の顔をひっぱたきますが、流石にお貴族様相手にそんなことはできません。



「あ、あの……どちらへ行くのですか?」

「そんなもの決まっているだろう? あそこだ」



 お貴族様が指さした場所は、パーティ会場で最も奥にある注目を浴びられそうな場所でした。

 領主様のお屋敷でパーティ会場になるお部屋にもありましたが、いわゆる司会の人や何か発表がある時に立つ、周りより少々高くなっているところです。


 な、何で私がそんなところへ連れられるのですか!?


 若干抵抗はするものの、お貴族様は私の意思など関係ないとばかりに、ぐいぐいと引っ張っていきます。

 ああ、侍従長様助けて! 

 目で背後を見ますが、侍従長様たちもどうしていいのか分からず、おろおろしてらっしゃいます。

 あ、だめだこれ。

 助けてくれそうな領主様は奥方様と一緒に執事様を連れて他のお貴族様へご挨拶しに行ってらっしゃるし、このお貴族様を止められる方がおりません。


 そうこうしているうちに、部屋の中央奥にある高台でしょうか、そこへ到着してしまいました。



「エルヴィーナ! いるか! こっちへこい!」

「はい、何でしょうか殿下。それにそこにいる給仕は?」



 いきなり大声でお貴族様が叫ぶと、ここからさほど離れていないテーブル席にいたお貴族様のお嬢様が、こちらへとゆっくり歩いてきました。

 パーティ会場は奥から順番に高位貴族様たちのテーブルが配置されていて、入口へ近づくほど下位貴族様のテーブルとなっています。

 そしてここはパーティ会場の一番奥であり、そのすぐ側にあるテーブルということは、あのお嬢様は高位貴族様となります。

 場違いも甚だしいです。

 私は領主様、ペレイラ子爵様が治めている町に住んでいる、単なる平民です。

 決して高位のお貴族様たちに連れてこられるような立場ではありません。



「何を言っている。貴様が意地悪をしてマリエルにこのような服を着させたのだろう?」



 マリエルって誰!?

 私はライラです!



「あ、あの」

「いいから、マリエルは黙ってろ。俺に全てを任せろ」



 抗議の声をあげようとしたものの、即座に黙らされました。

 いったい何なのよ、どうしたら良いのよ。



「さあエルヴィーナ、俺はここに宣言する! 貴様との婚約を破棄し、そしてここにいるマリエルと改めて婚約することっ……ぐぺっ」



 そう言ったお貴族様が、私の腰を引き寄せてきました。

 ひっ!?

 つい反射的にお貴族様の顔を、気持ちいいくらいの音を立ててぱしーんと、叩いてしまいました。



「あらあら殿下、そこにいらっしゃる給仕はマリエル様ではありませんわよ? そんな事もわからないのですか」

「へ?」

「さあそこの可愛らしい給仕さん、こちらへいらっしゃい」



 叩かれた顔を抑えたままのお貴族様が、エルヴィーナ様と呼ばれたお嬢様の言葉に唖然としました。

 その隙にお貴族様の側から離れると、エルヴィーナ様に呼ばれました。

 お貴族様とエルヴィーナ様の顔を見比べ、そしてもちろんエルヴィーナ様の元へと駆け寄りました。

  

「さあ、貴女のお名前は?」

「ラ、ライラと申します。ペレイラ子爵様の給仕としてこのパーティに参加させて頂いております」

「ペレイラ子爵? ああ、うちの寄り子ですね。その子爵様はどちらにいらっしゃるのですか?」

「は、はい。奥方様と執事様を連れて、ご挨拶回りに出ておられまして。その間に、あそこにいらっしゃるお貴族様に連れてこられて……ど、どうしたらいいのでしょうか」

「ふふ、心配なさらないで。どうせ間もなく子爵様もこちらへ来るでしょうから。あとの事はわたくしが対処いたしますわ」



 つい反射的とはいえ、お貴族様の顔を引っぱたいたのです。

 不敬で罰せられても仕方のない行為で、そのことに動揺していた私を、エルヴィーナ様が優しく頭を撫でてくれました。



「それにしても貴女、スナップが非常に効きた良い平手打ちでしたわね、わたくし感動いたしました」

「そ、それは……」

「良いのよ、あの男には良い薬となったでしょう。さあ、子爵様がいらしたわ。ペレイラ子爵様、この娘をよろしくお願いいたしますわ。詳細はまた後日」

「はっ、エルヴィーナ公爵令嬢。ライラ、さあこっちへ来るんだ」



 こうして私は子爵様に連れられて、パーティ会場を去っていくのでした。



=============================================================



 もちろんお屋敷についてから、領主様に問い詰められました。

 ただ侍従長様もその場を見ていらしたので、今回起こった出来事を子爵様が把握するのに、時間はかかりませんでした。


「ふむ、殿下を殴ったと」

「も、申し訳ありません! 抱き寄せられて、つい……反射的に」

「エルヴィーナ様が対処するとおっしゃったのだろう? それならおそらく大丈夫だ。あの殿下も色々問題があるお方だからな」


 そういえば、あのお貴族様は殿下って呼ばれていましたね。

 殿下って、あの殿下でしょうか。

 王族につける敬称?


「領主様、あの、私がつい手を出してしまったお貴族様は、どちら様でしょうか」

「知らなくて殴ったのか。あのお方は第三王子殿下だよ」

「あっ……」

「最も今夜の騒動でどうなることか。婚約破棄とおっしゃっておられたからな、全く自ら後ろ盾を手放すとは。心配するな、全てエルヴィーナ様に任せておけばよい。エルヴィーナ様はうちの寄り親のご令嬢だ。面倒事は高位貴族に任せるさ」


 そう気楽におっしゃる領主様。

 王族に手をあげたのにいいのかなぁ……。




 そして四日後に、件のエルヴィーナ様がお供を連れて領主様のお屋敷を訪ねてまいられました。

 残念ながら私は話し合いには参加出来ませんでしたが、領地へお戻りになられる帰りの馬車で、領主様から事の顛末を聞きました。


 まず殿下と呼ばれたお貴族様、正式にはアーベライン第三王子殿下だそうです。

 その殿下とエルヴィーナ公爵令嬢様は婚約されていたようです。

 ただお貴族様が通う学園で、殿下がマリエル伯爵令嬢様と恋仲になってしまい、あのパーティで婚約破棄を行ったそうで。

 何やってるんですか。平民の私だって王族と公爵家の婚約を勝手に破棄なんて出来ないことくらい分かります。

 ただ肝心のマリエル伯爵令嬢様がいらっしゃらなかったのは、何でもご実家で問題が発生してしまい、数日前に強制連行されたそうだ。

 詳細は教えてもらえませんでしたが、何をやらかしたのだろう。

 そして殿下が私をマリエル伯爵令嬢様と勘違いしたのは、何と私がそのご令嬢の妹だから似てた、とのことでした。


 ……え? どういうこと??


 そして領主様から聞く驚きの事実。

 うちの母上は元男爵令嬢で、件の伯爵家に行儀見習いとして行ってらしたのですが、何とそこのご領主様のお手付きとなってしまい、マリエルという名の娘を生んだそうだ。

 そして娘は使い道があるということで奪われ、母上はポイ捨てされたらしい。

 平民ならともかく、いくら何でも母上は貴族のご令嬢である。ポイ捨て良いのか?

 しかしながら母上の実家は貧乏男爵家であり、伯爵家からそれなりのお金を包まれたそうだ。そして母上は男爵家からも捨てられ、そこを拾ったのがご領主様。

 貴族籍からも抜け平民となった母上を、領地内でも古株の商店に嫁がせ、そして生まれたのが私、だそうです。

 

 でもその姉だというマリエル様とは、半分しか血が繋がっていないはずなのに、そんなに似ているのですかね。

 私はよく母上似と言われますが、マリエル様も同じだったのでしょうか。


「あの時は給仕服を着ていただろう? さすがに普段見ていた学園服なら分かったと思うが、給仕服は帽子も被るからね」


 帽子被った程度で間違えるなんて、最低じゃないですかね、その殿下。


 結局、エルヴィーナ様と殿下の婚約破棄は成立したのですが、エルヴィーナ様は公爵家のご令嬢であり、その寄り子貴族ともども第三王子殿下の後ろ盾から離れたそうです。

 元々次の王太子には第一王子殿下と第三王子殿下が争っていて、若干第三王子殿下が優勢だったらしい。

 しかしながら公爵家が離反した事により、王太子には第一王子殿下にほぼ決定したそうです。

 もちろん勝手に婚約破棄した第三王子殿下に、国王陛下はカンカンに怒っておられたらしい。第一王子殿下の立太子の礼を行うまで反省しろと、地方に飛ばされたようです。

 なお第二王子殿下は何でも剣馬鹿らしく、王太子よりも騎士団長を目指しているとか。自由ですね。


 一応半分は姉のマリエル様については、どうなったか詳細は教えていただけませんでしたが、平民にはなったけれども生活は出来るよう手配済み、との事でした。

 実家の伯爵家が何か悪いことをして、何らかの処罰を受けたものの、姉はどちらかと言えば被害者側だったので、平民落ちで済んだって事でしょうか。


 母上には悪いですが、会ったこともない姉ですからね。ふーん、で終わりです。

 平民でも生活できるよう手配されていますから、大丈夫でしょう。



「さて巻き込まれたライラよ、実はエルヴィーナ様がお前を所望している」

「え? 所望ですか?」

「そうだ、エルヴィーナ様は第二王子殿下と婚約を結ぶ事になったが、侍女としてライラを受け入れたいとの事だ」

「えええっ!? しかし、平民の私が公爵家の侍女なんて……」


 私も間もなく十六歳になり成人を迎えますから問題はありませんが、でも何で急に?

 それに私は全力の平民です。

 公爵令嬢のエルヴィーナ様の侍女なんて、とても勤めきれる自信がありません。

 

「そこは心配するな。ライラは母上のカロリーネ殿から行儀作法を教わったのだろう? カロリーネ殿は元男爵令嬢だ、最低限の行儀作法は出来ている」


 そういえば侍従長様から行儀作法について、褒められたことがありましたね。

 でも私が出ていってしまうと、実家の商店を継ぐ人がいなくなります。

 それはダメでしょう。


「しかし実家の跡継ぎがいなくなります」

「それについてだが、マリエル嬢は実はアラゴ商店にいく事になってだな」

「待ってください領主様! うちに来るって本当ですか!?」


 良いことなの? それって。

 母上からすれば実の娘ですけど、生まれたときから伯爵家で養育されたのですよね。

 それに父上からだと、母上の連れ子になってしまいます。

 家庭内紛争待ったなし、ですよ。


「もちろんカロリーネ殿の娘としてではなく、アラゴ商店の店員として、だ。マリエル嬢も既に成人しているから、問題はない。あとこの件について詳細はカロリーネ殿にだけ話すから、ライラも父のカールやマリエル嬢本人には話さないように」

「か、かしこまりました」

「なおアラゴ商店の跡継ぎについてはライラ、君の子供が継ぐことになる。マリエル嬢は中継ぎだな。ただカールもカロリーネ殿もまだ若いから、中継ぎは必要ではないと思うが」

「私の子供と言われましても、結婚どころか相手すらいませんが」

「公爵家の侍女だぞ? しかもエルヴィーナ様直々の申し出である。おそらくエルヴィーナ様と第二王子殿下のご結婚後に、相手が決まる。済まないが、これについては君の意思は反映できない」


 そうですよね、公爵令嬢様ですもんね。

 平民の私の意思なんて関係ないですよね。

 しかし何で私なんてご所望したのだろうか、不敬ですがエルヴィーナ様は目の医者にいったほうが良いのではないでしょうか。



「君の平手打ちが綺麗だったから、だそうだ」

「なんですかそれ!? 理由になっていませんよ!!」

「第二王子殿下は騎士団長を目指しておられる。当然ご結婚後は、エルヴィーナ様も君も騎士団相手の交友が多くなるだろう。気の強い侍女なら、いざというときに役に立つそうだ」

「はぁ……」

「とにかくこれについては、済まないが決定事項と思っていてくれ」

「かしこまりました」



 こうして私は十六歳、つまり成人を迎えたと同時にエルヴィーナ様お付きの侍女となりました。

 なお数年後、騎士団に何故かいた領主ペレイラ子爵様の次男と結婚し、夫婦共に騎士団長となられた第二王子殿下とエルヴィーナ様を支えることになるのは、まだ知らない。



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公爵家令嬢の婚約相手は本文より「第三王子」が正しいと思いますが、タイトルでは「第二王子」になっています。
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