第94話 小さな来客②
悠真は、カウンターの奥にある自分の私物棚を見た。そこには、姪の結衣が遊びに来た時のために用意していた小さなポータブルDVDプレイヤーと、数枚のアニメDVDがある。
「ねえ、リナちゃん。そのぬいぐるみのお友達、本当はどんなに強くて優しいヒーローなのか、見てみたいと思わないかい?」
悠真はテレビの電源を入れた。
「みんな、少しこっちにおいで。特別な『魔法の鏡』を見せてあげる」
子供たちが不思議そうにモニターの前に集まる。悠真がトレイにディスクを載せると、軽快な音楽と共に、あの『正義の味方』が画面いっぱいに飛び出した。
「わあ……動いてる!」
「飛んだ! ぬいぐるみと同じだ!」
リナの瞳が、これまでにないほど大きく輝いた。画面の中のヒーローは、お腹を空かせた誰かのために自分の顔を分け与え、困っている人を助けるためにバイキンと戦う。その自己犠牲的で真っ直ぐな優しさは、言葉の壁を越えて、子供たちの心に直接突き刺さったようだった。
「お父さんみたい……」
小さなリナが、ぽつりと呟いた。
魔道具の音声ではなく、画面の中で躍動するヒーローの姿に、彼女は失った父親の強さと優しさを重ね合わせているのかもしれない。
アリアは、画面を見つめるリナの小さな背中を優しく撫でながら、悠真の方を振り返って静かに微笑んだ。その瞳には、感謝の涙がうっすらと浮かんでいる。
「ユウマさん、ありがとうございます。シスターへのプレゼントも、このお菓子も、それからこの不思議な『魔法の物語』も……私たち、一生忘れません」
悠真は、レジカウンターに置かれた22枚の銅貨を、一枚ずつ丁寧にレジに収めた。
それは高価な魔石や和牛の代金よりも、ずっしりと重く尊いものに感じられた。
「商売っていうのは、信頼と笑顔を繋ぐ仕事だ」
昨夜、母が言った言葉の意味を、悠真は今、細胞レベルで理解していた。
リセールショップをやる資金が足りないとか、組合の根回しが面倒だとか、そんなことは二の次だ。まずは目の前のこの子たちの、小さな世界を守ること。それが『おみやげのながもり』の店主としての、本当の誇りなのだ。
「お菓子、シスターに渡す前に全部食べちゃダメだよ?」
悠真がおどけて言うと、子供たちは一斉に笑い声を上げた。
プレゼントを詰めた大きな袋を抱え、アリアを先頭に子供たちが店を出ていく。
外ではエデンベルクの太陽が、石畳を明るく照らしていた




