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第91話 注文した商品の納入

 翌朝、悠真が店に出ると、シャッターを上げる前から爽やかな初夏の風が吹き抜けていた。


「……よし、今日も一日頑張るか」

 ガラガラとシャッターを上げると、まだ人通りの少ない商店街に、朝の光が差し込む。エデンベルクで見たあの眩しさとは違う、どこか穏やかで優しい光だ。


 午前10時半過ぎ、一台の軽ワゴン車が店の前に止まった。

「悠真さーん! おはようございます! ご注文の商品をお持ちいたしました。新作のサンプルも持ってきましたよ!」

 元気いっぱいの声と共に車から降りてきたのは、卸業者『えにしプロダクト』の安野美紀だ。

 彼女はいつも通り、ポニーテールを揺らしながら、大きな段ボール箱を手際よく抱えて入ってきた。


「美紀ちゃん、おはよう。早いね、助かるよ」

「ふふん、悠真さんから沢山のご注文を頂いたので上司からもしっかりと日頃のお礼と、新商品もアピールしてこいって言われて来ました! 」

 そう挨拶して、美紀が商品が入っているダンボール箱をいくつか店内に運び入れた。

 軽ワゴンとは言え、警察も路上駐車の見廻りをしている。美紀に店の裏口に車を停めるよう言うと、車を停めて店に入って来た。


「これが、電話でお話しした抹茶味の新作です」

 美紀に冷えた麦茶を出しすと、美紀は数種類のお菓子をカウンターに広げた。それは、深い緑色のパッケージが印象的なお菓子だった。


「まずはこれ! 『宇治抹茶仕立てのしっとりチョコ』。それからこっちは、外国人観光客向けに人気の『抹茶わらび餅ゼリー』です。ゼリーと言っても、こんにゃく粉が入っているので、食感がプルプルで、冷やしても凍らせても美味しいんですよ」


 悠真は、その「プルプル」という言葉に反応した。

(こんにゃく粉……。これ、アルテミシアの子供たちが『生きたスライムを食べてるみたい!』ってはしゃいでいた、あの感覚に近いかもしれない)

「……いい。これ、全部一ケースずつ、いや、ゼリーの方は二ケース頼むよ」

「えっ!? 即決すぎませんか? まだ試食もしてないのに……あ、でも悠真さんのその『確信した目』、最近すごみが増しましたね。何かいい売り方のヒントでも思いつきましたか?」


 美紀が探るように顔を近づけてくる。悠真は「まあね、ちょっとね」と苦笑いしてはぐらかした。

「あと美紀ちゃん、追加でこれもお願いしたいんだ。……これくらいのリスト、いけるかな?」

 悠真が手渡したメモには、これまでの発注とは少し毛色の違うものが並んでいた。

「えーっと……徳用パックの割り箸、大量のウェットティッシュ、それから……使い捨てのプラコップ? 悠真さん、お土産屋さんですよね? 炊き出しでも始めるんですか?」

「……まあ、似たようなものかな」

 悠真の脳裏には、奏多のカレーを夢中で頬張り、指を舐めていたエデンベルクの子供たちの姿があった。あの濃厚なカレーを、もっと手軽に、清潔に食べさせてあげたい。この使い捨ての道具があれば、シスターたちの後片付けの手間も減るはずだ。


「分かりました! 悠真さんの頼みなら、何とか揃えますよ。……あ、そうだ。これ、メーカーさんからのプレゼントです」

 美紀が数個手渡してくれたのは、小さな「抹茶パウダー」のサンプル袋だった。

「アイスにかけても、お湯に溶かしてもいいですよ。本物の抹茶に近い香りがするので、こだわりの強いお客さんにも受けるはずです」


 抹茶……パウダーか。ありがとう、これは面白い使い道がありそうだ」


「そういえば、悠真さんのお店の隣、空き店舗になってましたね。こんなに良い立地で勿体無いですよ。うちの会社が最近「コス◯コ」の二次販売店のFC代理店を始めたんですよ。悠真さんがオーナーになってみませんか?」

 と提案されたが、それって利益出るのと質問すると、すぐに資料持って来ますと美紀は軽ワゴンに戻っていった。


 悠真は、美紀から受け取った「抹茶パウダー」の小袋を光にかざしてみた。

 深い緑色の粉末。それは日本においては親しみのある香りだが、アルテミシアにおいてはどうだろうか。あちらの世界には薬草ハーブの文化はあっても、これほど鮮烈な香りと苦み、そして「旨味」を凝縮した葉の粉末は存在しないはずだ。

「これ、エルフ族のフィアネスやリリエッタが気に入るかもしれないな……。あるいは、奏多さんが新しい料理の隠し味に使うかも」想像は膨らむ。


 美紀が店の裏口に停めている軽ワゴンから資料のパンフレットを持ってきた。

 いろいろと説明してくれたが、そもそも大型店舗での営業形態を小売にして利益がでるのだろうか?。

 美紀はカウンターに「コス〇コ二次販売」のパンフレットを置いて「またご連絡します」と帰って行った。


「隣の空き店舗、か……」

 悠真はふと、隣の閉ざされたシャッターを見つめた。かつては老舗の仏具屋だったそこは、主人が引退してから数年、ずっと借り手がつかないままだ。

(もし、あそこを借りて、美紀ちゃんの言う通り大量仕入れの販売店を始めたら……。いや、それよりももっと『向こう』と『こっち』を繋ぐ拠点にできるんじゃないか?)

 大量のペーパータオル、巨大な洗剤、キロ単位の肉や乾物。それらは日本での「日常のまとめ買い」に便利だが、アルテミシアにおいては「革命的な物資の集積所」になる。


「……ま、今は目の前のことを一つずつだな」優真はひとりごちた。

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