第82話 ギルドでのプレゼン
ギルドの別室は、異様な熱気に包まれていた。
バルガスは、机に並べられた未知の物資群を、まるで伝説の武具でも見るかのような鋭い眼差しで凝視している。その背後には、バルガスが緊急で呼び寄せたギルド専属の鑑定士や、資材管理の責任者たちが、固唾を呑んで控えていた。
悠真は、自らの腕に巻かれた『会話の腕輪』の感触を確かめ、喉を一つ鳴らした。これから行うのは、単なる商品説明ではない。異世界の常識を、日本の「英知」で塗り替えるプレゼンテーションだ。
「……では、説明させていただきます。まずはこちら、青い布の強化版――『シルバーシート #3000』です」
悠真が、鈍い銀色の光沢を放つシートを広げると、鑑定士の一人が声を上げた。
「なんと……青いものよりさらに厚みがあり、表面の滑らかさが違う。これは一体……」
「これは表面に特殊な加工が施されており、太陽の光……こちらの世界で言う強力な光の魔力による劣化を大幅に防ぎます。青い布が数ヶ月でボロボロになる環境でも、これなら倍以上の期間、その強度を保てるはずです」
バルガスがシートの端を指で強く弾く。硬質な音が響いた。
「光の魔力を弾く……。砂漠地帯の遠征や、腐食の激しい湿地帯の野営に、これほど心強いものはないな」
悠真は頷き、さきほど代金を受け取った物と
同じ薄手の『ブルーシート #2000』と、それらのシートを固定するための『PEロープ』を提示した。
「このロープは水に強く、腐りません。シートと組み合わせれば、即席の堅牢なテントが完成します。ただし、火には弱いので、焚き火の近くでは十分注意してください」
続いて、悠真は箱に入った『ポリ手袋』を並べた。
「これは使い捨てです。魔獣の解体や薬草の調合時、直接手に触れたくない汚物や毒素から身を守るためのものです。」と箱の開け方や使用方法を教えた。
……そして、こちらが今回の目玉の一つ。『厚手の革手袋』です」
悠真は、和央さんの店で「突き刺しに強い」と太鼓判を押されたその手袋をバルガスに手渡した。バルガスがそれをはめ、拳を握り込む。
「……厚い。だが、驚くほど指が動く。それに、この表面の摩擦……剣の柄を握っても滑らんぞ。これは、ドワーフの鍛冶師が使うものか?」
「いえ、これは岩場や溶接現場で使われるものです。トゲのある植物や、鋭い岩場での作業に最適です。鍛治に使う物はまた別にあります。……ただし、バルガスさん。一つ断っておきます。これらはあくまで『作業用』です。戦士の剣を正面から受け止めるような防御力はありません。過信して無理な検証をしないよう、ギルドの責任において運用してください」
悠真の釘を刺すような言葉に、バルガスは不敵に笑った。
「分かっている。道具の限界を知るのも冒険者の嗜みだ」
次に悠真が取り出したのは、プラスチック製の『保護メガネ』と『ゴーグル』だった。
フィアネスやガルドはこの前ド〇キで買った『ゴーグル』を頭や首に掛けていて愛用してくれているみたいだ。
「これは、目に飛んでくる砂埃や、魔獣の体液、破片から視界を守るためのものです。魔法の障壁ではありませんが、物理的な飛散物には非常に有効です」
鑑定士がそれを手に取り、レンズ越しに部屋を見渡す。
「視界が……歪まない。これほど透明度の高い硝子を、これほど軽く、曲面に加工するなど……。リリエッタ様、これは高純度の水晶ですか?」
リリエッタは困ったように微笑み、「それはユウマにしか分かりません」とだけ答えた。
そして、悠真は最後に、最も慎重に扱うべき「魔導具(に見えるもの)」を二つ、机に置いた。
『LEDヘッドライト』だ。
「最後はこれです。頭に装着して暗闇を照らす灯りです」
悠真がスイッチを入れた瞬間、応接室の壁一面が、真っ白な光で塗り潰された。
「「「なっ……!?」」」
ギルド職員たちが一斉に目を覆い、後ずさる。バルガスでさえ、思わず椅子を鳴らして立ち上がった。
「無詠唱で、この光量……!? 魔石はどこだ? 触媒は!?」
鑑定士が狂ったようにヘッドライトを覗き込もうとする。
「落ち着いてください。これは魔力ではなく、中に仕込まれた『電池』という小さな筒の力で光っています。魔力を一切消費せず、額に装着すれば両手を自由に使える状態で、数時間から十数時間、暗闇を照らし続けます。……ですが、中を開けて分解しないでください。二度と光らなくなりますし、何が起きるか保証できません。後は、極端に明るくしないようにと人に向ける時はやや下向きにしてください」
「……魔力を食わぬ、常夜の灯火か」
バルガスは、絞り出すような声で呟いた。その目は、もはや悠真を「風変わりな商人」としてではなく、エデンベルクの、あるいはアルテミシアの勢力図を塗り替えかねない「概念の持ち込み手」として見ていた。
悠真は、全ての商品の説明を終えた。
「説明は以上です。」
バルガスはしばらく沈黙していたが、やがて深く、重い溜息をついた。
「ユウマ殿。あんたは……恐ろしい男だ。この品々がもたらす恩恵がどれほどか、想像もつかん。……特にあの『銀の布』と『額の灯火』。これらは特級の重要物資として、ギルドが責任を持って管理しよう。……報酬については、この後改めて相談させてくれ」
悠真は微笑んで頷いた。
「ええ、よろしくお願いします。あ、それからバルガスさん。このワゴン……『赤い荷車』についても、色んなタイプを探してきますよ」
「……期待している」
「このクッキーはギルドの職員の皆さんでお召し上がりください」と最後に悠真はクッキーの箱をバルガスに渡した。
ギルドを後にした悠真の足取りは軽かった。
赤いワゴンのゴムタイヤは、エデンベルクの石畳を快調に鳴らしている。




