第78話 リリエッタからの忠告
悠真が店に戻り、和央さんの店で買い揃えた資材を裏口から運び終えたときだった。
上着のポケットに入れていたスマートフォンに着信を知らせる振動を感じた。画面を確認すると「非通知」が表示されている。
「……非通知? 誰だ?」
訝しみながら通話ボタンをスライドさせ、耳に当てる。
すると、スピーカーからは電子的なノイズに混じって、どこか透明感のある、それでいて頭の中に直接響くような不思議な声が聞こえてきた。
『——もしもし、ユウマ。聞こえますか? リリエッタです。』
「リリエッタ!? え、 また、スマホに……」
『ふふ……、そちらでは私の声はどう聞こえていますか?』
「いや、リリエッタの声で聞こえてるよ。」
リリエッタは、少し懐かしむような声で続けた。
『ユウマがアルテミシアの私たちの元を去ってから、こちらではもう4日が過ぎました。』
「4日……。こっちではまだ丸一日も経ってないのに、やっぱり時間の流れが違うんだな」
悠真は、改めて境界の向こう側にある異質さを実感した。
『本題ですが、ギルドに預けていた査定が終わったと連絡がありました。「魔石付きオーク」の魔石と、解体した素材の買取報酬、それからギルドが買いたいと言っていたユウマが持ち込んだあの青い布……「ブルーシート」と「ポリ手袋」の代金です。それを受け取りに、こちらへ来ていただけますか?』
「ああ、もちろん! ちょうど追加の品物も揃ったところだし、明日は店を営業するよ」
悠真が意気揚々と答えると、リリエッタの声が少しだけ真剣なトーンに変わった。
『ユウマ、来る前に少し大切な説明があります。こちらの「お金」の仕組みについてです。……まず、オークの討伐報酬ですが、ギルドの仲介手数料として10%、そしてこの地を治める領主様への税金として10%の、計20%が差し引かれます。これは冒険者の義務として、避けては通れないものです』
「20%か……。日本の所得税や消費税を考えれば、そんなものかな」
『問題は、ユウマが持ち込んだ「商品」の売却益です。通常、出所不明の物資や他領地からの輸入品には、35%という重い税が課されます。ですが、今回は私たちのパーティーが仲介し、討伐に協力した功績が認められました。私たちはB級パーティーの優遇措置を受けられるので、税率は15%まで軽減されます。……それでも少し高く感じるかもしれませんが、承知しておいてくださいね』
「15%……。いや、リリエッタさんたちが交渉してくれたおかげですよね。ありがとうございます。35%も引かれたら、商売として成り立たなくなるところでした」
悠真はスマホを肩に挟みながら、手元の電卓を叩く。手取りが減るのは痛いが、この「世界の秩序」に組み込まれることは、店を守るためのパトロールのようなものだ。
『良かった、理解が早くて助かります。……それと、ギルドの人たちが、あのブルーシートの耐久性に驚愕していました。解析を試みた魔導師たちは「構造が理解できない」と頭を抱えていたそうです。……ユウマ、あなたは思っている以上に、この世界に劇薬を持ち込んでいるのですよ?』
リリエッタの忠告は、静かだが重かった。
「……分かってるよ。僕にとっては『単なる
日常品』だけど、ここでは魔法の道具になるんだね」
『ええ。では、北の城壁近くの店の前で待っています。……』
電話は静かに切れた。
悠真はスマートフォンの画面を見つめ、一つ息を吐いた。




