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『第三章スタート』【悲報】過疎ってる駅前シャッター商店街のおみやげ屋が異世界に転移したので、ご当地キティを売ってみたら大儲けした件  作者: 太陽唸り過ぎ-無-
第三章

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第77話 運搬方法

 エデンベルクの街の石畳を思い描きながら、悠真は物流という名の「壁」に思いを馳せていた。


 昨日、奏多たちがレジ袋を沢山抱えて帰って行った際、ふと気になったのだ。アルテミシアの住人が荷物を運ぶ手段は、驚くほど限られているのではないか。


 小規模なら背負子のような木枠を背負い、少し多ければ時代劇で見かけるような一輪車、あるいは二輪の荷車。それ以上となれば、荷馬車を出すしかない。

(ここに日本の軽トラックとか、せめて電動カートを持ち込めれば革命が起きるだろうけど……さすがに目立ちすぎるし、ガルドさんが狂喜乱舞して街中を暴走する未来しか見えないな)

 悠真は苦笑しつつ、まずは現実的な解決策を求めて、市内の大型商業施設へと車を走らせた。


 キャンプ用品店の一角で、悠真は「それ」を見つけた。

 以前、テレビのキャンプ番組で見たことがあったが、実物は予想以上に頑丈そうだった。太いタイヤに、折り畳み式の真っ赤なスチールフレーム。耐荷重100kgを誇る、アウトドア用のキャリーワゴンだ。


「これだ……これならエデンベルクの石畳でも、多少の悪路でもいける」

 展示品限りという札がかかっていたが、むしろ好都合だった。新品のピカピカよりも、少し展示で馴染んでいる方が異世界では浮かないかもしれない(という自分への言い訳をしつつ)。悠真は即決で購入し、ついでに保冷剤をいくつか買い足した。三ツ谷さんの和牛を最高の状態で運ぶには、保冷の強化は必須だった。


 次に悠真が向かったのは、先程もお世話になった和央さんの資材店だ。

 ギルドに納品する分のブルーシートは確保したが、肝心の自分用(作業用)を買い忘れていたのだ。この店はメンバー会員特典で5%オフになるのも、零細土産屋の店主にはありがたい。


「いらっしゃい! おお、悠真じゃないか」

 事務所から顔を出したのは、和央さんではなく、専務であり美咲の兄でもある好夫だった。美咲とはあまり似ていない、がっしりとした体格の、頼りがいのある「地域の兄貴分」といった風貌だ。


「好夫さん、お疲れ様です。さっきも和央さんにお世話になったんですけど、買い忘れがありまして」


「ははは、親父から聞いたよ。ブルーシートをまとめて買っていったって? 何か大きなイベントでもあるのか?」

 好夫と世間話をしながら伝票を切ってもらっていると、話題は数日前に悠真も手伝いに行った「ヤマモト牧場」の草刈りのことに及んだ。


「そういえば悠真、草刈りの最終日、何か変な音を聞かなかったか?」

 好夫が、ふと思い出したように首を傾げた。

「音、ですか?」

 悠真の心臓が、少しだけ速く脈打つ。

「ああ。作業が終わって皆んなが片付けをして帰った後らしいんだ。牧場の敷地裏……あの深い森の方から、バリバリッ!っていう、ものすごい地響きみたいな音が聞こえたんだそうだ。それを聞いた牧場の職員さんは、てっきり大木がへし折れたのかと思ったみたいで。後で確認しに行ったんだ…」


 好夫は腕を組み、不思議そうに続けた。

「不思議なことに、何の変化もなかったんだ。折れた木もなけりゃ、崖崩れもない。ただ、そこだけ妙に空気が冷えてるような気がしたそうだ。。結局、気のせいだろうってことになったみたいだが空耳ってのも変な話だよな」


 悠真は、冷や汗が背中を伝うのを感じた。

(……それ、僕がフィアネスさんたちと一緒にオークを仕留めた時の音だ)

 あの日、次元の歪みから現れたオークを倒した際、確かに凄まじい破壊音が響いた。そして、悠真はオークの死体を放置してトラブルになるのを恐れ、自分のトラックの荷台に積み込み、こちらの世界(日本側)へ持ち帰ったのだ。


「……何だったんでしょうね。風の悪戯か、あるいは地下の空洞が崩れたとか」

「まあ、そうだろうな。ヤマモト牧場のあたりは地盤も固いし、変な事件じゃなきゃいいんだが」

 好夫は笑って話を切り上げたが、悠真は確信していた。


 あの日、あの場所で起きた「異世界との接触」の痕跡は、悠真たちが死体という証拠を消したことで、この世界では「不可解な音」としてだけ記憶に残ることになったのだ。


 買い物を終え、悠真はトラックの荷台にブルーシートを積み込んだ。


 店に戻り、悠真は買った品物を裏口から運び入れ、早速、購入したキャリーワゴンを広げてみた。

「これに三ツ谷さんの肉を積んで、保冷剤を敷き詰めて……よし、完璧だ」

 試しにワゴンを引いてみる。日本の舗装された道路では、タイヤは滑るように回る。

 これを引いて、あのエデンベルクの石畳を歩く時、人々はどんな顔をするだろう。


 馬車を出すほどではないが、手で持つには重すぎる「荷物」を運ぶための、真っ赤なワゴン。

 悠真は、そのハンドルをギュッと握りしめた。

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