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『第三章スタート』【悲報】過疎ってる駅前シャッター商店街のおみやげ屋が異世界に転移したので、ご当地キティを売ってみたら大儲けした件  作者: 太陽唸り過ぎ-無-
第三章

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第68話 過去との再会― 玲奈視点 ―

 エデンベルクの城壁の隣に佇む『おみやげのながもり』。自動ドアから漏れ出す日本の蛍光灯の光は、私たちにとって異世界(アルテミシア)のどんな魔法の光よりも眩しく、そして懐かしかった。


 店内に入り、パイプ椅子に腰掛けた私は、店主の悠真さんが差し出したペットボトルの麦茶を、両手でしっかりと包み込んでいた。キャップを開ける瞬間の「パキッ」という音。一口含んだ瞬間に喉を通る、あの香ばしくて淡い苦味。


「……っ、ふ……」


 私の目から、再び涙が溢れ出した。それは、数分前の慟哭とは違う、温かな安堵の涙だった。

 悠真さんは、そんな私を刺激しないように奏多さんに向き直った。

「すみません、なんだか。うちみたいな、どこにでもある土産屋でこんなに喜んでもらえるなんて思わなくて。……奏多さん、でしたよね。ガルドさんやゼノスさんにもお世話になったんです」


「……こちらこそ、あいつらにあんな上等な土産をくれて感謝してる。あれはやつらには……毒だな。一度知っちまったら、もう元には戻れねぇ」


 奏多さんは自嘲気味に笑いながら、店内の棚に並んだ『地元限定カップ麺』や『佃煮味のお煎餅』のパッケージを、遠くを見るような目で見つめた。


「……奏多さん。僕、明日にでも三ツ谷精肉店っていう地元の肉屋さんへ行くつもりだったんですよ。もし良かったら、奏多さんの店に必要なものをリストアップしてくれませんか? 卸値に近い価格で、僕がこっちへ運びます」


 その提案に、奏多さんの瞳に鋭い光が宿った。

「……本気か。こっちの魔獣の肉は、下処理に半日かかる。だが、日本の肉なら俺の腕はもっと別の、本来の『料理』に注げる。……頼む。費用は銀貨でも金貨でも、あんたの言い値で払う」


 その時、私は立ち上がり、奏音の手を引きゆっくりと店内を歩き始め、入口近くの一角で足を止めた。

 色褪せたアニメポスターや、ご当地アイドルのサイン色紙、そして……。


 そこには、かつてこの店に通い詰めていた頃、おじさんに頼み込んで展示してもらった私が描いた召喚陣コールが敷いてあった。

 アニメの設定に色々な資料を見てそれらしい文字と古代エルフの秘術(という空想)、そして——幼稚な願望を混ぜ合わせた魔法陣。

『いつか、ここがどこか素敵な世界と繋がりますように』

『いつか、ここが私の居場所になりますように』

 私は召喚陣コールを描いていた当事の思いが蘇り息を呑んだ。

 悠真さんや奏多さんは、この店が「偶然」繋がったと思っているかもしれない。


 だが、私には分かった。

 火事の時に異世界への転移が叶ったように、この店をアルテミシアに引き寄せたのは、自分が命を削るようにしてこの店に置いていった「願いの残滓」だったのだ。


 自分がこの店を呼んだ。

 自分がこの優しい青年と、愛する家族を、日本の欠片へと引き合わせたのだ。

 私は、その召喚陣の上に、そっと自分の手を重ねた。

 今はもう、その陣には何も残っていない。役目を終えた後のように、ただの古い傷跡としてそこに刻まれているだけに見えた。


 悠真さんがこちらを振り返り、「玲奈さん、何か気になるものありましたか?」と声をかけてきた。

 私は慌てて手を離すと、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。

 そして、スマホに言葉を入力し答えた。

『いいえ。ただ、とても懐かしい香りがしたので。……素敵な絵ですね』


 私はあえて、自分がこの店の「常連」であったことや、この現象の引き金になったかもしれないことは、口に出さないことに決めた。

 もしそれを言えば、悠真さんに過度な責任を感じさせてしまうかもしれない。あるいは、この奇跡のような邂逅に、余計な「因縁」という重しを乗せてしまうかもしれない。


 今はただ、この青年が守ろうとしている「日常」を、自分たちも一緒に守っていければいい。

「パパ、これ! おっきい!」

 奏音が、特大サイズの『ポテトチップス・うすしお味』の袋を抱えて戻ってきた。

「おい奏音、それは大きすぎるだろ」

 奏多さんが苦笑いしながらも、それを買い物カゴに入れようとしたとき、悠真さんが制した。

「あ、いいですよ。それは今日の『再会祝い』です。僕からのプレゼントにさせてください」

「……いや、悠真さん。あんたは商売人だろう。最初からサービスしてちゃ、この世界じゃ舐められるぞ」

「いいんです。これは、連絡係としての『挨拶』ですから」

 悠真さんはそう言って笑い、カゴの中に奏音への駄菓子や、私が手に取った懐かしいお菓子を次々と入れた。


 奏多さんはしばらく悠真さんを見つめていたが、やがて負けたよ、と言わんばかりに肩をすくめた。

「分かった。……その代わり、今度俺の店に来い。日本の肉と、こっちの酒。あんたが腰を抜かすような『日本食』を食わせてやる」

「はい! 楽しみにしています」


 店を出る際、私はもう一度だけ「召喚陣コール」を振り返った。

 夕暮れのエデンベルクの光が、店内に差し込んでいる。

 そこには、日本の商店街の風景と、アルテミシアの石畳が、不思議な調和を持って混じり合っていた。

 私は、最後にスマホに言葉を入力し合成音声でお礼を言った。私の『隠遁の腕輪(コンセプト・リンク)』はなぜか使えない。

『悠真さん。このお店は私たちの希望です。本当にありがとう』

 自動ドアが閉まり、電子音が響く。

家族の日常「守護の炎(ガーディアン)」に私たちは沢山の袋を抱えて帰って行った。

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