第60話 商店街の会合
公民館の会議室には、駅前商店街加盟40軒のうち、半分ほどが集まっていた。古いエアコンが唸りを上げている。悠真は顔馴染みの店主たちと世間話をしつつ、開始予定の18時30分を待った。その後、数名が遅れて現れ、商店街会長の矢田時計店の店主が、古びたマイクのスイッチを入れた。
「えー、それでは定刻となりましたので、月例会合を始めたいと思います」
議題は多岐にわたった。
① 商店街加盟店による早朝清掃実施の報告
② 夏祭りの商店街イベント案
③ 収穫間近の果物の盗難防止の夜間パトロールについて
④ 商店街の集客・活性化案
珍しく討論は白熱した。特に夏祭りのイベント案では、「昔ながらの金魚すくいを」という古参組と、「SNS映えするフォトスポットを」という若手組で意見が分かれた。悠真は中立的な立場を保ちつつ、メモを取る。
そして議題は③のパトロール案へ移った。
「昨年、近隣の農家さんで収穫間近の桃の盗難被害がありました。警察も回ってはくれていますが、今年は我々商店街も有志で夜間パトロールに協力してほしいという要請が来ています」
ここで悠真は、母親から言われていた言葉を思い出し、挙手した。
「あの、すいません。お土産屋の長森です」
視線が集まる。悠真は背筋を伸ばした。
「パトロールに参加すること自体は、地域のためにも賛成です。ただ、参加する側の負担を考えると、具体的な実施日と場所、それと警察や関係各所との連絡窓口をはっきりさせておかないと、結局なし崩しになってしまうと思うんです。できれば、商店街側で一人、専任の連絡係を立てて、農家さんとしっかり連携を取るべきではないでしょうか」
「長森くんの言う通りだ」「確かに、バラバラに動いても意味がないしな」と、周囲から同意の声が上がる。
「よし、それじゃあ長森くん。君がその連絡係をやってくれないか? 若いし、顔も広いだろう」
会長の矢田さんに振られ、悠真は「えっ、僕ですか?」と戸惑ったが、断りきれる空気ではなかった。「……分かりました。連絡係、引き受けます」と答えると、拍手が起きた。
会合が終わったのは20時過ぎだった。
片付けをしていると、会合に来ていた三ツ谷精肉店のおじさんに呼び止められた。
「長森くん、さっきは立派だったな。ところで、君の店、最近忙しそうじゃないか」
「あ、まあ、忙しいのは草刈り作業なんですけど 細々とやってます。……あ、三ツ谷さん。実はお聞きしたいことがあったんです」
悠真はアルテミシアでの「肉」の需要を思い出し、身を乗り出した。
「三ツ谷さんのところ、業務用にも卸してますよね? 取引の条件とか、今扱っている肉の種類を一度詳しく伺いたいんです。近いうちに、お店に行かせてもらってもいいですか?」
「お、珍しいな。卸に興味があるのか? 歓迎するよ。明日でも明後日でも来なさい」
力強い約束を取り付け、悠真は公民館を後にした。
帰宅後、母親にパトロールの連絡係を引き受けたことを報告すると、「まあ、偉いわね。しっかりやりなさい」と、どこか他人事のように褒められた。
母と夕食を食べ、シャワーを浴び自室に戻りベッドに倒れ込む。
頭の中でアルテミシアのギルドとの交渉と、日本の農家のパトロールの連絡係について考える。
「……1つ解決しても次から次に色々起こるよな」
悠真は苦笑し、静かに目を閉じた。明日は三ツ谷精肉店へ行き、アルテミシアで売れそうな「日本の肉」を仕入れる計画を立てなければならない。
運命の交差点にある悠真の夜は、こうして更けていった。




