第50話 開店の喧騒 ①
新年あけましておめでとうございます!旧年中は本当にありがとうございました。今年もよろしくお願いいたします!
自由都市エデンベルクの一角に、その店は産声を上げた。
宿屋兼酒場『守護の炎』。そしてその店内に併設された魔道具店『概念工房』。
開店当日、店の前には異様な光景が広がっていた。看板娘として店先に立つのは、膝まで届く艶やかな灰色の髪をなびかせ、深い銀の刺繍が施された漆黒のローブを纏った美女。彼女は一切の言葉を発さず、ただ静かに微笑んでいる。だが、彼女が手をかざせば、宙に浮かぶ魔導書(を模した店の飾り)から不思議な声が響き渡るのだ。
「いらっしゃいませ。ようこそ、概念の迷宮へ」
ミミリアから皮肉混じりに言われた「灰色の魔女」という二つ名。玲奈はそれを逆手に取り、店のブランディングに利用した。もともとアニメや物語の「演出」の重要性は知っている。ミミリアにデザインを相談した看板や内装は、この世界の粗野な酒場とは一線を画す、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
店内は、開店と同時に押し寄せた客でごった返していた。
奏多が酒場の厨房で『濃縮出汁珠』を使って作った試供品の特製スープを飲んだ客は「おい、この『濃縮出汁珠』ってのが入ってるスープを飲んだら安物の肉が高級品に化けたぞ!」という声が聞こえ商品の評判は上々だ。
父親と一緒に来た女の子が説明員も兼ねた臨時の店員のレオに勧められて『抱きしめる声』に父親の声を録音し「見て、このぬいぐるみ、本当にお父さんの声がするの!」と興奮してサンプルのぬいぐるみをなかなか離さない。
「遊具王が考案したっていう、この『数字絵札』も面白いわね!」
人族、ドワーフ、そして『隠遁の腕輪』で容姿を馴染ませた獣人たちが、分け隔てなく笑い、飲み、遊んでいる。その光景を、カウンターの端でミミリアは呆然と見つめていた。
「……信じられない。私の教えた『嘘の知識』が、こんなにもこの街に受け入れられるなんて」
彼女の隣では、レオが子供たちに囲まれ、誇らしげにトランプの遊び方を教えている。ミミリアの復讐の炎は、あまりの賑やかさと平和な空気感に、その行き場を失っているようだった。
そんな喧騒の中、店の空気が一瞬で凍りつくような、圧倒的な「静謐」が入り口から流れ込んできた。
現れたのは、三人の男女だった。
先頭を歩くのは、月光を糸にして織り上げたような、透き通る銀髪を持つ長身の青年。その瞳は深い森の奥底のような緑色で、見る者を射抜くような鋭さと、底知れない知性を湛えている。
彼の背後には、同じく銀髪を短く切り揃えた、活発そうな少女。そして、その二人に守られるようにして立つ、さらに幼い少女がいた。その幼い少女は、見た目は日本の小学生ほどにしか見えないが、纏う空気はこの場の誰よりも重く、神聖ですらあった。




