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『第三章スタート』【悲報】過疎ってる駅前シャッター商店街のおみやげ屋が異世界に転移したので、ご当地キティを売ってみたら大儲けした件  作者: 太陽唸り過ぎ-無-
第二章

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第47話 違和感

年内の更新は第49話で最後となります。

読者の皆様読んで頂き本当にありがとうございました。

よい年末年始をお過ごし下さい。

また、来年もよろしくお願いしますm(_ _)m


 玲奈は夕闇に包まれる長屋へと戻った。腕の中では、孤児院でレオからもらった積み木を握りしめたまま、奏音がすやすやと寝息を立てている。


 店の改装工事を終え、汗を拭っていた奏多が、玲奈のただならぬ様子に気づき、手を止めた。

「……玲奈? 顔色が悪いぞ。孤児院で何かあったのか」

  玲奈は今日起きたことを奏多に伝えた。

 黒い瞳の少年、レオとの出会い。彼が口にした「ア〇パ〇マン」という言葉。そして、彼が前世の日本の知識を持つ「転生者」である可能性。


 一通り話を聞き終えた奏多は、鋭い視線のまま腕を組み、深く考え込んだ。

「日本人の転生者……か。だが、玲奈、何かがおかしいと思わないか?」

 奏多の指摘に、玲奈も心に刺さっていた小さな棘を自覚する。

「俺たちがこの世界に来たとき、あの『神』のような存在に会った。スキルの説明も受けた。だが、そのレオってガキは、その肝心な部分を何も言わなかったんだな?」

  そう、そこが最大の違和感だった。レオは「気がついたら赤ん坊だった」「何も覚えていない」と言った。しかし、もし彼が本当の転生者なら、ユニークスキルを授かった記憶や、前世の最期の記憶が断片的にでも残っているはずだ。


「それに、玲奈。お前、その少年の姉弟についても聞いたんだろ?」

 奏多の言葉に玲奈は頷く。猫獣人の姉、ミミリア。シスターの話では、レオを拾った獣人夫婦の実子だという。

 「……明日、もう一度あの院へ行く。今度は、レオ君じゃなく、そのお姉さんに会ってみるわ」

 玲奈の予感は、確信に近いものへと変わっていた。レオの黒い瞳や容姿は確かに日本人のようだが、彼の言葉には「記憶」としての重みが足りない。まるで、誰かに教え込まれた台本を読んでいるかのような軽さがあったのだ。


 翌日、玲奈は孤児院の裏庭で、花に水をあげているミミリアの姿を見つけた。

 猫の耳をぴんと立て、しなやかな体躯を持つ彼女は、レオと同い年とは思えないほど大人びて見えた。十五歳ほどの少女の姿をした彼女は、玲奈の姿を認めると、どこか冷めたような、しかし鋭利な光を宿した瞳で微笑んだ。


「……いらっしゃいませ。エデンベルクで噂の『灰色の魔女』様。弟が、随分とお世話になったようですね」

  ミミリアの口から出た「灰色の魔女」という呼び名。そして、彼女が放つ、この世界の住人とは思えないほど洗練された立ち振る舞い。

 玲奈は腕輪を介さず、スマホの画面に日本語で一文を打ち込み、彼女に突きつけた。

 『ミミリアさん。レオ君に何を教えたの?』

  その瞬間、ミミリアの表情から温度が消えた。彼女はふっと鼻で笑うと、完璧な発音の日本語でこう返した。

「……バレちゃった。やっぱり、本物の日本人相手じゃ、付け焼き刃の演技は通用しないわね」


 「レオは日本人じゃないわ。あの子は、この世界のただの人間。……私がそう思い込ませただけ」

 ミミリアは、玲奈を院の裏手にある静かな木陰へと誘い、淡々と真実を語り始めた。

 彼女こそが、前世で病弱な身体に苦しみ、若くして亡くなった日本の工芸デザイナーの転生者だった。転生時、彼女が神から与えられたユニークスキルは、皮肉にも『無病息災』。自身が一切の病や怪我を受け付けないだけでなく、彼女が「家族」と認めた者にも、驚異的な自然治癒力と抗体を与えるという、慈愛に満ちた力だった。


 「私の両親は私のスキルの力でどんな傷もすぐ治り、病気なんて縁がなかった。だから、猫獣人特有の流行病で両親が死ぬなんて、絶対にありえないのよ」

 四年前、彼女の両親は「流行病」で亡くなったことになっている。しかし、ミミリアは見たのだ。夜の帳に紛れ、両親を暗殺していった「人族」の集団を。彼らの狙いは、異常な治癒力を持っていると思われた両親だった。


 その惨劇の最中、ミミリアは前世の記憶を完全に覚醒させた。そして、両親の死体を前に震える幼いレオを連れて逃げ延びた。

 「でも、子供の獣人一人じゃ、犯人を探し出すことも復讐することもできない。だから私は、レオを『前世は日本人』に仕立て上げたの」


 彼女は、レオの容姿がたまたま自分の前世の同胞に似ていることを利用した。彼に日本語を教え、日本の知識を「記憶」として植え付け、彼を特別な『遊具王』として担ぎ上げた。

 レオが人々の注目を集めれば、いつか両親を殺した者たちが、再び「特別な力」を求めて現れるはずだ。その時、彼らを自分の手で屠るために。


 「レオには悪いと思ってるわよ。でもあの子、職人だった両親の作業を見て覚えたのか器用に再現できるの。だから私が教える日本の知識や遊びを、本当に楽しそうに形にするの。レオもどうやらスキルが使えるみたい。言ってみれば「完全模倣」スキルかな。それが分かったから偽の記憶を覚えさせたの……。滑稽よね、この世界の人間が偽物の転生者を演じているなんて」


 ミミリアの瞳には、ただ復讐という炎に焼かれた廃墟のような虚無感が漂っていた。

 玲奈は、喉が締め付けられるような感覚に襲われた。ミミリアが抱える絶望は、自分たちが異世界に求めていた「夢」とは対極にある、あまりにも重い現実だった。


 ミミリアはレオに、自分が日本人だと思い込ませることで、彼を復讐の「餌」にした。しかし、レオが玲奈に見せた、子供たちを喜ばせたいというあの笑顔だけは、決して偽物には見えなかった。

 「……ミミリアさん。貴方は、レオ君を何だと思っているの?」

 玲奈の問いに、ミミリアは答えなかった。ただ、遠くで子供たちに囲まれて笑うレオの背中を、悲しそうに見つめるだけだった。


  玲奈は確信した。ミミリアもまた、レオを愛しているのだ。愛しているからこそ、彼を自分たちの血塗られた復讐に巻き込むために、自分自身すらも騙そうとしている。

「私は貴方の復讐を助けることはできない。でも……レオ君が作った『遊び』を、本物の笑顔に変える手伝いはできるわ」

  エデンベルクの街に、新たな波乱の予感が漂う。ナセル領の闇、そしてミミリアが追う両親の仇。それらは、玲奈たちが築き上げようとしている「平穏な日常」と、いずれ激突することになるだろう。

 玲奈は、ミミリアの震える手を、そっと握りしめた。

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