第46話「遊具王」と呼ばれる少年 ②
玲奈はシスターに事情を話し、レオと二人きりで話をするための場所を借りた。
レオは警戒心と不安が入り混じった表情で、玲奈と向き合っていた。奏音は玲奈の隣で、レオが作った積み木をいじって静かに遊んでいる。
「レオ君。私は、あなたが先ほど言った言葉について、尋ねたいことがあるの。」
玲奈は『隠遁の腕輪』を通して、穏やかな声で話し始めた。
「あなたが言った「ア〇パ〇マン」。それは、私もよく知っているのよ。」
レオの黒い瞳が、再び大きく見開かれた。彼は、信じられないものを見るように、玲奈の顔を凝視した。
「……あなたも、知っているんですか?」彼の声は震えていた。
「ええ。正確には、私は、あなたが知っているのと同じ『世界』から来た人間よ。神坂玲奈。それが、元の世界での私の名前。」
玲奈が「神坂玲奈」と日本の名前を口にした瞬間、レオは張り詰めていた緊張の糸が切れたように、その場に座り込んだ。
「嘘だ……。まさか、僕以外にも……」
彼は、過去の記憶に触れられたことで、幼いながらも抱え続けてきた孤独と安堵が爆発したかのように、瞳に涙を浮かべた。
「私も、信じられないわ。あなたのような日本人の特徴を持つ子が、この世界に転生していたなんて。」
玲奈は、自分の喉が火災で焼けて声が出ないこと、この世界に転移してきた証拠としてスマホを見せ、腕輪の音声変換機能を使ってゆっくりと説明した。
レオは話を聞きながら、玲奈がスマホを所持しそれが動作していることに驚きの声を上げた。
「僕なんか、気がついたら森に捨てられた赤ん坊になっているし、森の中に一人きりで何も覚えてないんですよ。ただ、時々、日本の文字や知識が頭に浮かんでくるだけで……。自分がどこの誰だったかも思い出せない。」
玲奈は、レオが持つもう一つの驚くべき才能について尋ねた。
「あの積み木や折り紙は、どうやって思いついたの?この世界には、ああいう『遊び』の概念はないはずよ。」
レオは、顔を上げ、自信に満ちた表情で答えた。
「ああ、あれは、頭の中で勝手にイメージが湧いてくるんです。ブロック、パズル、トランプ……。僕は、この世界の人が知らない『遊びの概念』を、木材や紙を使って再現しているだけなんです。この知識を持っている僕を、シスターや孤児院の兄弟たちは『遊具王』って呼んでるけど……。」
玲奈は、ハッとした。
「『遊びの概念』を、この世界の素材で『再現』……。あなた、もしかして、私のスキルと似ているのかもしれないわ。」
玲奈は、レオに自分のユニークスキル、『概念具現』について説明した。そして、彼女が日本の『日常品』の「概念」をルーン文字に固定して魔道具を開発していることを話した。
レオは、目を輝かせた。
「そうか!僕がやっているのは、あなたのように魔力を使うわけじゃないけれど、日本の『遊具の概念』を、この世界の素材で形にする作業なんだ!」
レオがこの世界で「遊具王」と呼ばれる由縁は、彼の持つユニークスキル、あるいはそれに近い能力によって、日本の「遊びの概念」が彼の頭の中に固定されているからだろう。
玲奈は、レオとの出会いが、単なる偶然ではないことを直感した。
「レオ君。あなたは、私たちがこの異世界で生活の基盤を築く上で、とても大きな力になってくれるかもしれないわ。」
玲奈は、自分が開発した『縫製の魔羊皮』の仕組みについて説明した。
「これは、日本の『裁縫の概念』を、この世界の羊皮紙に固定したものよ。これと同じように、あなたの『遊具の概念』を、私の『概念具現』で魔道具として具現化できたら、どうなるかしら?」
レオは、一瞬考え込んだ後、満面の笑みを浮かべた。
「すごい!それなら、僕の頭の中にある、もっと複雑で楽しい『遊び』を、この世界の子供たちに提供できる!例えば、『カードゲーム』なんてどうですか?紙の代わりに、特定の魔獣の皮を使って耐久性を持たせて……そこに、日本のゲームの『戦略の概念』を刻み込む!」
玲奈は、その少年の創造性に、胸の高鳴りを感じた。日本の「娯楽」という概念は、このアルテミシア大陸の子供たちの心を掴み、玲奈の『概念工房』に、さらなる大きな商機をもたらすに違いない。
「ええ、やりましょう!あなたは、私の工房の専属アドバイザーになってくれるかしら?」
玲奈は、孤独な少年を、単なる内職の依頼人としてではなく、対等なビジネスパートナーとして誘った。
レオは、玲奈の真剣な瞳に応え、力強く頷いた。
「はい!僕は、僕の考えた『遊び』で、この世界の子供たちを笑顔にしたい!そして、あなたが守ろうとしている『日常』を、僕も一緒に守りたいです!」
こうして、玲奈は、異世界で、もう一人の日本人であり、「遊びの概念」の共有者である少年、レオと運命的な出会いを果たした。




