第43話 ぬいぐるみ生産計画 ②
これで材料の目処は立ったが、次の大きな課題は「ぬいぐるみの作り手」だった。玲奈が一人で生産するには時間が足りなすぎる。
そのことをディンケルに相談すると
「マダム・レイナ。この街には、いくつかの孤児院があります。そこには、シスターたちや、裁縫を得意とする孤児が多くいます。彼女らに作業を依頼してみてはいかがでしょうか?。彼女らに安定した収入源を提供できれば、社会貢献にもなります」
ディンケルの提案は、玲奈にとってまさに一石二鳥だった。彼女は、異世界に転移する前、自分自身の孤独と現実への不満を抱えていた。家族の温もりを知らない孤児たちの生活が、自身の境遇と重なった。
「ありがとうございます、ディンケルさん。ぜひ、協力をお願いします。型紙はこちらで用意し、作り方を教えます」
玲奈は、羊皮に似た魔物の皮に、日本の「裁縫の概念」をルーンで固定する新たなアイテムの開発に取り掛かるのだった。
ディンケルの手配により、玲奈はエデンベルクの孤児院『希望の家』を訪れることになった。
その前に、玲奈は孤児院の子供たちにぬいぐるみの作り方を正確に伝えるための魔道具を作成した。皮に、布の切り出し方や縫い合わせの順番、そして綿の詰め方といった「裁縫工程の概念」をルーンで固定する。これは、複雑な手順を言葉ではなく、概念として直感的に理解させるためのものだった。
『縫製の魔羊皮』──それは、玲奈の『概念具現』の新たな応用例だった。
早速、玲奈は奏音を連れて『希望の家』の年季の入った木製の扉を開けた。孤児院は、石造りの古い建物だったが、庭には子どもたちの明るい笑い声が溢れていた。玲奈は、孤児院の責任者であるシスター・マーサに、魔道具の概要と、仕事の依頼を丁寧に説明した。
シスター・マーサは、玲奈の『抱きしめる声』のコンセプトに深く感動した。
「マダム・レイナ、これは神様からの贈り物です。遠く離れた戦場にいる父親や、交易で故郷を離れた商人の『声』を、子どもたちが抱きしめることができる。これ以上の慰めはありません」
シスター・マーサは、裁縫が得意なシスターたちと、高等技術を学んでいる孤児たち数名をすぐ集めてくれた。
「(心の中で)ありがとうございます。この子たちの内職が、彼らの生活の一助となることを願っています」
玲奈が心で紡いだ言葉は、『隠遁の腕輪』を通して、マーサにもはっきりと伝わった。
玲奈は、獣人の女の子たちが興味を示した「ア〇パ〇マン」風のキャラクターのぬいぐるみと、魔羊皮紙を子供たちに見せた。
「これは声を録音できる特別なぬいぐるみです。あなたたちの手で、この『抱きしめる声』を作ってほしいのです」
彼女は、子供たちの中で特に縫製が得意だという十歳前後の少女、アリアに『縫製の魔羊皮紙』を手渡した。
アリアは魔羊皮紙を慎重に広げ、その表面に刻まれたルーン文字に触れた。すると、彼女の目が一瞬輝き、すぐに迷いのない手つきで針と糸を取り始めた。彼女は魔羊皮紙を見なくても、ぬいぐるみの型紙を正確に布地に描き、切り出し、縫い合わせていく。
「すごい!私、この作り方が、頭の中に全部入ってきたみたい!」
アリアは驚きと喜びに声を上げた。他の子供たちもその光景に目を見張った。
シスター・マーサは、玲奈の持つ魔道具の力と、その深い優しさに感動していた。
「マダム・レイナ……あなたは、単に仕事を与えてくださったのではありませんね。子供たちに、自信という名の魔法をかけてくださった」
玲奈は、シスター・マーサの言葉に静かに微笑んだ。
こうして、孤児院の子供たちが『抱きしめる声』のぬいぐるみの縫製作業を請け負うことになり生産の体制が整った。




