第42話 ぬいぐるみ生産計画 ①
ドワーフのガルドの協力で『鋭利の刃』の刃物部分の量産に目処がついた。ただ『濃縮出汁珠』と『浄化の泡石』がギルドの専売品契約になり、店で売る商品が減ったことで玲奈は更なる新商品を考えた。
それは、彼女の娘の奏音や獣人の女の子たちに、玲奈が端切れで作った日本の「ア〇パ〇マン」のキャラクターたちに似せたぬいぐるみだった。
元は単なるぬいぐるみだったのだが、娘の奏音は、一歳半になり片言で「パパ」という言葉を覚え、そしてその言葉と共に「パパっ子」という恐るべき性質を覚醒させた。
奏多とゼノスがダンジョンに潜る期間が長引くと、奏音は奏多に会いたいと「うわあああぁぁぁん!パパ、パパっ!」激しく泣き叫び、そうなると玲奈や獣人の母親たちが何をしてもしばらく泣き止まない。
「大丈夫だよ、奏音。ママもいるよ」
玲奈は心で紡いだ言葉を『隠遁の腕輪』の温かい声で発するが、奏音の激しい泣き方は収まらない。獣人の母親たちが代わる代わるあやしても効果はない。しかし、奏多が帰宅した瞬間に泣き止み、満面の笑顔を浮かべるのだから、玲奈にとっては複雑な感情が渦巻く。
だが、奏多が帰宅すれば、一瞬で泣き止んで満面の笑顔を浮かべるのだが、次の冒険に出かける時には、別れ際が修羅場となる。
玲奈は、ぬいぐるみに奏音の「パパっ子の寂しさ」を解消するための要素を追加しようと考えたのだ。
(奏多さんの声があれば、奏音は泣き止む。彼の『守護の炎』は、私たちを物理的に守るだけでなく、その『声』そのものにも、私と奏音を安心させる『概念』が宿っているのかもしれない)
怜奈は市場で珍しい素材を見つけていた。それは、特定の魔鳥の「声帯器官」を乾燥させたもので、音を蓄え、魔力を流すことで再生できる、原始的な録音素材として売られている。
玲奈はこれを購入し、『概念具現』の力で、ぬいぐるみに録音・再生機能を組み込むことにした。
「録音した音声を、変えること無く特定の魔力で再生する」という概念を、魔鳥の素材とルーンで固定する。奏音で試そうと奏多の帰宅時、玲奈は彼の「大丈夫だよ、奏音」という優しい声を録音して貰った。
奏多がダンジョンから戻らず奏音が泣き出した時、玲奈は奏多の声を録音したぬいぐるみを彼女に渡した。ぬいぐるみを握ると、奏多の「声」が再生される。
すると、奏音はピタリと泣き止み不思議そうにぬいぐるみを抱きしめた。
「パパ……」
奏音が微笑んだ。その光景を見た玲奈は、胸が熱くなった。
このぬいぐるみを見た獣人の女の子たち4人(ライラの娘のフィオナ、他の母親たちの娘のエミリア、ミア、クロエ)も、興味津々だった。
「わぁ、これ、とっても可愛いし、お父さんの声を入れてもらえたら、冒険に行っても寂しくないのに!」
「玲奈の作ったキャラクターたちも、すごく可愛いわ!市場で売っているぬいぐるみとは全然違う」と獣人族の女の子たちにも好評だった。
玲奈は、自分ではあまり売れないだろうと思っているが、少女たちの熱烈な要望に、商品化を承諾した。
「そうね。これを、『抱きしめる声』として売り出しましょう」
玲奈は商業ギルドに行き、売り物になるかディンケルに相談した。彼はこの魔道具を試用しそのコンセプトに驚愕した。
「これは……!単なるおもちゃではありません。遠方の家族の『絆』を具現化する、画期的な魔道具です! 特に、戦場や交易で家族と離れる人々の多いこの街では、間違いなく爆発的に売れます!」
ディンケルはすぐに魔鳥の素材(録音機能の核となる部分)の安定供給ルートを確保し、綿や布地といった量産に必要な材料を商業ギルドを通して仕入れる手配をしてくれた。
これで材料の目処は立ったが、次の大きな課題は「ぬいぐるみの作り手」だった。
『概念工房』の主な商品は、薬やナイフといった工業的なもの。裁縫や手芸の技能を持った人材が、獣人の母親たちの中にいなかったのだ。




