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108話 魔猫の覚醒

「ユウマ、危ない!」

 リリエッタがとっさに悠真を庇おうと前に出る。


 魔人が放った漆黒の泥弾が悠真たちに迫る。

 しかし、その弾丸は悠真たちの数センチ手前で、まるで目に見えない壁に当たったかのように弾け飛んだ。

「え……?」

 悠真が自分の身体を見ると、リリエッタの髪に挿した「ご当地キティちゃんのヘアピン」と、悠真が持ち込んだ55個の「魔猫のアミュレット(ストラップ)」が、眩いばかりの光を放っていた。


 リリエッタの魔力、そして冒険者たちの「この街を守りたい」という願いが、日本のキャラクターグッズに宿っていた「門と結界の意匠」を完全に覚醒させたのだ。


「……ハッ! 結界が発動したわ! エレンミアの言っていた通り、この『魔猫』たちが、深淵の悪意を遮断してる!」


 リリエッタが歓喜の声を上げる。

 55個のストラップが空中に浮遊し、迷宮の入り口を囲むように「五芒星」の陣を描いた。

 その光に包まれた場所では、魔人の放つ不浄な力は無力化され、逆に冒険者たちの武器には聖なる力が宿る。


「ガルド、トドメだ!」

「おうよ、ユウマ! この『鉄の槌(釘打ち機)』で、干からびた化け物を粉々にしてやるぜ!」

 ガルドが前線へ飛び出した。塩によってカサブタのように硬く脆くなった魔人の身体。そこに、鋼鉄の釘が「ババババババシュン!」と乱射される。


 ひび割れた身体に釘が打ち込まれるたび、そこから亀裂が走り、魔人の巨躯が崩壊していく。

「……バカ……ナ……。コンナ……タダノ……ニ……」

 魔人は最後に、信じられないというような言葉を残し、雪のような白い塩の山の中で、完全に乾燥した砂となって崩れ去った。

 沈黙が訪れる。


 迷宮の入り口を囲むように配置された「ご当地キティ」の結界が、最後にピカッと輝き、紫の霧を迷宮の奥へと完全に押し戻した。

「……終わったのか?」

 ゼノスが呆然と呟く。


 霧が晴れ、日が北の山脈から差し込み始めた。エデンベルクを救ったのは、伝説の聖剣でも大魔法でもなく、日本の「塩」と「電動釘打ち機(ネイラー)」、そして「地域限定キティちゃんストラップ」だった。


「……勝ったぞおおおおお!」

 バルガスの雄叫びを合図に、広場は爆発的な歓喜に包まれた。冒険者たちが互いに抱き合い、悠真を神輿のように担ぎ上げる。

「痛い、痛いよみんな! 僕はただの店主なんだから!」

「がはは、謙遜するなユウマ! 貴様は今日から、エデンベルクの『守護聖人』だ!」数時間後、戦後処理が進む中、悠真はバルガスの執務室にいた。

 バルガスは満足げに、悠真が持ってきた「清算書」に、かつてないほどの高額な金貨の山を積んだ。

「……塩500kgの対価、および防衛物資の提供、そして戦略支援の報酬だ。受け取れ、ユウマ。商業ギルドのローレンツには俺から言っておく。

『あの塩は、国を救うための軍需物資として、ギルドが特別に徴用したものだ』とな。文句は言わせん」


「ありがとうございます。……」

 悠真が苦笑いすると、バルガスは豪快に笑った。

 エデンベルクに、本当の朝が来た。

 悠真は三輪カートを引き、誇らしげに「おみやげのながもり」への帰路につく。


 荷台は空っぽだったが、その心は、これまでにないほどの重みで満たされていた。

「さて、戻ったら和央さんに釘打ち機の修理代と、お礼の酒を持っていかないとな。それと……母さんに、今日こそは美味しい夕飯を作ってもらおう」

 悠真の「商人の戦い」は、これからも続いていく。

 次はどんな「お土産」が、この異世界を救うことになるのだろうか。

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