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第104話 エデンブルグ防衛戦 ③

 悠真たちが目指す「深緑の迷宮」は、全18階層からなる中規模のダンジョンだ。しかし、今回の「深淵の浸食」により、各階層の生態系は完全に狂い、上位の魔物が地上へと溢れ出している。


 ・1〜4階層:草生す回廊

 本来は『ホーンラビット』『ゴブリン』などが棲む初心者向けだが、現在は『シックル・マンティス』の大群が占拠。


 ・5〜9階層:石造りの大空洞

 中堅冒険者の狩場。現在は『岩石ゴーレム』や『ストーンガーゴイル』が門番のように徘徊。


 ・10〜14階層:地下水脈と苔の庭

『ポイズンサラマンダー』や『ハイドラ・パピー』が生息。霧が最も濃く、魔力吸収が激しいエリア。


 ・15〜17階層:魔界の入り口

 本来は『キマイラ』や『レッサーデーモン』が跋扈する魔域のエリアだが、今は未知の黒い泥に覆われた階層。『深淵の落とし子』たちが蠢く。


 「きりがない……! 倒しても倒しても、後ろから湧いてくる!」

 ゼノスが肩で息をする。一次防衛拠点は築いたが、魔物の波は止まらない。数千の魔物が光の壁を迂回し、側面から冒険者たちを包囲しようとしていた。


冒険者や兵士たちが疲弊し、絶望が漂い始めたその時、

「ひるむな! 助っ人に来たぞ!」

背後から地響きのような軍靴の音が響く。ギルドの緊急要請に応じ、街の各所から集結した精鋭冒険者と衛兵、総勢800名。その先頭には、かつて奏多たちをこの街へ送り届けたベテラン冒険者、バッシュの姿があった。


「よう、ゼノス!久しぶりだな。 景気良さそうじゃないか。」

「バッシュ! 助かった!」

「200人は北門の守りに回った。ここは俺たちで押し返すぞ!」

増援の到着により、戦況は劇的に改善した。


 悠真はこの機を逃さず、さらに前進を命じた。

「皆な盾を並べて道を作ってください! その先に『二次防衛拠点』を築きます!」


「その前に、一度全員風上に退避して欲しい。 退避が済んだら鼻と口を服や布で覆ってくれ!」

「ユウマ、何を……?」

「いいから早く!」

悠真は退避が済んだのを確認すると、三輪カートのダンボール箱から、『超強力 熊よけスプレー』の缶を取り出した。


「リリエッタ! お願いだ、特大の『風魔法』を迷宮の入り口に向けて放ってくれ!」

「ええ! ……大気の精霊よ、荒ぶる息吹を我が手に!」

リリエッタが杖を掲げ、迷宮の入り口へ向かう巨大な竜巻を生成し始める。

「今だ!」

悠真は熊よけスプレーを両手に持って一斉に噴射した。その濃縮されたトウガラシ成分などの禁忌成分の霧を、リリエッタの風の精霊魔法に乗せた。

激辛・旋風(スパイシー・ストーム)だ!」

紫の霧を押し返すように、真っ赤な刺激臭の嵐が迷宮へと逆流していく。

「グッ……ガハッ!?」「ギャアアアア!」

魔物たちは、経験したことのない粘膜への激痛に悶絶した。鼻の利く魔物ほどその被害は甚大だ。数百頭の魔物が、戦うどころか目を開けることすらできず、迷宮の入り口付近で折り重なるように倒れていく。


 「……恐ろしい道具ね。これ、人間にも効くのかしら」

 フィアネスが引き気味に呟く。

「人には絶対に向けちゃダメだよ!」悠真は叫んだ。

 

 だが、それも一時的な足止めに過ぎない。魔物の供給源であるダンジョンは健在だ。

 

 悠真は三輪カートを動かし、迷宮の入り口まであと300m程の距離にある広場へと到達した。

 

「リリエッタ、フィアネスがやってるようにこれを使って! 射程は数百メートルある。空飛ぶ魔物の目に狙いを定めるんだ!」

「わ、分かったわ! ……精霊よ、光の軌跡を導け!」

リリエッタがレーザーを構える。通常、このポインターは鳥を驚かせるためのものだが、魔力濃度の高いこの世界では、照射された光が精霊の加護を受け、収束された熱線へと変貌していた。

「シュバッ!」

リリエッタが放った緑色の光線が、上空を舞う『怪鳥ワイバーン』の眼球を正確に貫いた。


「ギャアアア!」

視界を焼かれたワイバーンが次々と地上へ墜落していく。その精密な狙撃は、エルフの動体視力と日本の光学技術が合致した、究極の対空兵器だった。


さらに、悠真は電動釘打ち機をガルドに手渡した。

「ガルド! バッテリー残量はたっぷりある。こいつで魔物を地面に縫い付けろ!」

「がはは! 面白い『槌』だな、ユウマ! ぶち抜いてやるぜ!」

一方、ガルドは釘打ち機の感触を確かめ、下卑た笑みを浮かべていた。


「へっ、この『鉄の短筒』、重さがちょうどいいぜ! ユウマ、連発でいいんだな!」

「ああ! 安全装置を押し当てて引き金を引くだけだ!」

ガルドが突進してくる『二頭餓狼オルトロス』の群れに向かって、ネイルガンを乱射した。


「バババババシュン!」

圧縮空気の炸裂音。ドワーフの怪力で反動を抑え込まれた釘打ち機は、もはや機関銃に近い掃射となった。90ミリの鋼鉄釘が、狼たちの眉間や胸板を易々と穿つ。魔力防御をバイパスする純粋な物理攻撃の前に、魔物たちはなす術もなく肉塊へと変わっていった。


「すげえ……! 魔法使いも騎士もいらねえじゃねえか!」

バッシュたちが驚愕する中、悠真は戦況を見極めていた。


「今だ! 二次防衛拠点を構築する! 杭を打て! シルバーシートを広げろ!」

悠真の指示で、バッシュたちの手によって、迷宮の入り口を半円状に囲う『光の防壁』が完成した。

投光器の光がシルバーシートに反射し、迷宮から漏れ出す紫の闇を完全に封じ込める。

「ふぅ……」

足元には数え切れないほどの鋼鉄釘と、使い果たしたスプレー缶。

「ユウマ。お前、本当にお土産屋か……?」今さらながらガルドが呟く。

 激戦の末、ついに「二次防衛拠点」が完成した。

 LED投光器からのシルバーシートへの反射光は今や巨大な灯台のように空を貫き、魔物の進軍を完全に阻害している。

 しかし、本番はこれからだ。

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