第103話 エデンブルグ防衛戦 ②
エデンベルク北門が重低音を響かせて開いた瞬間、吹き込んできたのは死の匂いを含んだ紫の突風だった。
門の向こう側、かつては冒険者たちが希望を胸に通り抜けた街道は、今や「深淵の浸食」によって変貌し、どす黒い霧が渦巻く異界と化している。
「怯むな! 盾を並べろ!」
バルガスの怒声が響くが、最前線の重装歩兵たちの顔は蒼白だ。彼らが手にする魔導の盾は、霧に触れた端から輝きを失い、ただの重い鉄の板へと成り下がっている。霧の中から現れるのは、鎌のような腕を持つ『カマキリ型魔物』や、二つの頭で互いの欠点を補い合う『双頭の餓狼』などでその数は数千あまり。
「どけ! 道を空けろ!」
その絶望の最前線に、異形の咆哮を上げる「三輪カート」を引いた悠真が突入した。
「ゼノス! フィアネス! ガルド! 一次防衛ラインを構築するぞ! 門から五十歩先、あの石碑の地点だ!」
「了解だ! 野郎ども、ユウマの道を作れ!」
ゼノスの剣が閃き、霧の中から飛び出した魔物の首を撥ね飛ばす。悠真は三輪カートのハンドルを握りしめ、エデンベルクの凸凹な石畳を、三つの車輪を回転させながら滑るように進んだ。
「ユウマ、俺の後ろから離れるなよ!」
ゼノスが剣を抜き、先陣を切る。
悠真は三輪カートを押し出し、霧の中へ突入した。
「フィアネス、ガルド! 準備はいいか!」
門の近くで防衛線を張っていた二人が合流する。
「待ってたぜ、ユウマ! その変な荷車、どう使うんだ!」
「これだ!」
悠真は三輪カートから、シルバーシートと強力なガムテープ、そして冒険者ギルドで積んだ角材を取り出した。
「ガルド、この角材で枠を組め! フィアネス、その枠にこの銀色のシートを貼るんだ!」
日本の建築技術と、ドワーフの怪力、エルフの手際の良さ。
ドワーフの怪力を持つガルドが、角材を地面に叩き込むようにして瞬く間に四角い枠を組み上げる。
エルフの精密な動作でフィアネスがシルバーシートを貼り付け、ガムテープで固定していく。
「ユウマ、これだけでいいのか!?」
瞬く間に、北門の前に巨大な「反射防壁」が完成した。
そこに、悠真が10000ルーメンスのLED投光器を向ける。
「ああ、これが僕たちの『魔法』だ。投光器スイッチオン! 光れっ!」
パァッ……! と、白銀の光がシートに反射し、紫の霧を数百メートルも先まで薙ぎ払った。
「ま、眩しい……! 霧が晴れていくぞ!」
視界を奪われていた冒険者たちが歓声を上げる。
だが、魔物たちも黙ってはいない。光を嫌った巨大なオークが、棍棒を振り上げて突進してきた。
「させねえよ!」
ゼノスが斬りかかるが、魔素を吸収したオークの皮膚は岩のように硬い。
「僕の番だ!」
悠真は腰の「電動釘打ち機」を引き抜いた。
射出モードを「連発」に切り替え、安全装置を解除する。
「これでも喰らえ!」
バシュン! バシュン! バシュン!
圧縮空気の破裂音と共に、90ミリの鋼鉄釘が秒速で射出された。
魔力の防護を持たない日本の「物理的破壊力」。
魔法耐性を持つオークの眼球や関節に、鋼鉄の釘が深く突き刺さる。
「ギギャアアア!」
さらに悠真は「カラス避けのレーザーポインター」を顔面に照射した。
「これは……どうだ!」
なぜか、照射したレーザーはオークの頭を貫き、その隙を逃さずゼノスが首を撥ねた。
「すげえな、ユウマ! 魔法も使わずにそんな攻撃を……!」
「日本の技術力を舐めるなよ!(こんな危険な道具だったっけ?)」
一行は、光の道を突き進んだ。
悠真がフィアネスにもう一個のレーザーポインターを渡すと、フィアネスは空を飛ぶ魔物に向けて照射する。
フィアネスの照射した緑色の光は百発百中で魔物の急所を貫く。
だが、光を嫌った魔物たちが、その源を潰そうと殺到する。
「グオオオォォ!」
体長三メートルを超える巨躯の『岩石ゴーレム』が、巨大な腕を振り上げて突進してきた。その皮膚は魔法耐性の高い岩のようで、並の剣では傷一つつけられない。
「僕の番だ……! 安全装置解除、連発モード!」
悠真は腰にタスキ掛けしたベルトから「電動釘打ち機」を引き抜いた。
「これを喰らえ!」
バシュン! バシュン! バシュン!
乾いた破裂音と共に、90ミリの鋼鉄釘が秒速で射出される。
魔法耐性がどれほど高くとも、物理的な「質量と速度」には抗えない。硬い岩の皮膚を鋼鉄の釘が剥ぎ取り身体を破壊した。




