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第100話 魔物の氾濫

ようやく100話に到達出来ました。読んで下さる読者の皆さま本当にありがとうございます。

感謝の念に堪えません。

これからもよろしくお願いします。

 紫の霧が渦巻き、怒号と金属音が交錯するエデンベルク。悠真が三輪カートのハンドルを握り直し、バルガスと共に駆けだそうとしたその時だった。


「ユウマ! ちょっと待ちなさい!」

 背後から響いたのは、凛とした、しかし明らかな焦燥を含んだ鋭い声だった。

 振り返ると、そこにはいつもの軽装な神官服ではなく、銀の意匠が施された堅牢な胸当てを身につけ、魔力に反応して淡く発光するスタッフを握ったリリエッタが立っていた。その隣には、リリエッタの背丈の半分ほどしかない小さな少女――エレンミアの姿もある。


 リリエッタは悠真の元へ詰め寄ると、その肩を掴んで激しく揺さぶった。

「ユウマ! なぜ、こんな非常事態にアルテミシアに来たの!? 鏡を見て異変に気づかなかったの? 今、北門の外は地獄なのよ。商売なんてしている場合じゃないわ!」

 彼女の瞳には、悠真を責める気持ちよりも、彼を失うことへの純粋な恐怖が浮かんでいた。悠真はリリエッタを安心させるように、わざと肩をすくめて不敵な笑みを浮かべて見せた。


「いやあ、リリエッタ。ちょうどこの前の納品分の精算に来たら、なんだか街中が騒ぎになってて。ほら、僕、お土産屋の店主ですから。イベントには顔を出さないと…」

「冗談を言っている状況じゃないわ! バルガス様、ユウマをすぐに安全な場所へ……!」

 リリエッタが必死にバルガスへ訴えかけようとしたその時、彼女の隣で黙って悠真のカートを観察していた少女、エレンミアが口を開いた。


「……静かにしとれ、リリエッタ。その小僧は、神がこの街に遣わした『黄金の切り札』かもしれんぞ」

 少女のものとは思えない、地響きのように低く、重厚な声。その場にいたバルガスやゼノスでさえ、思わず背筋を正すような圧倒的な威圧感だった。エレンミアは小さな手で悠真のカートに積まれた資材に触れ、最後に悠真の顔をじっと見つめた。


「でかしたぞ、小僧。貴様の持ち込んだ『奇妙な道具』と、あの店の在庫……。それがあれば、この「魔物の氾濫(スタンピード)」の勝ち筋が見えたわ」

「勝ち筋……? エレンミアちゃん、それはどういう……」

 悠真が問い返すと、エレンミアは北の空、迷宮の入り口がある山々を指差した。

「今回の氾濫は、『深淵の浸食』。迷宮の最深部で、この世界の(ことわり)とは異なる黒い『澱み』が溢れ出している。」


 「深淵の浸食。それは数百年に一度、この世界の境界が揺らぐ時に起きると伝承される厄災の予兆。だが、その出口である『門』を物理的、かつ霊的に封鎖できれば、氾濫は沈静化する。小僧、お前の店にある……あの『魔猫のアミュレット』をあるだけ持ってこい」

「魔猫のアミュレット……? あ、もしかして、リリエッタが買った『ご当地キティちゃん』のことですか?」

 悠真は混乱した。確かにリリエッタは魔除けにすると買って行った。あれがこの異世界で、魔物の氾濫を止める鍵になるというのか。

「いかにも。あれに宿る意匠には、外からの悪意を遮断し、内側の福を留めるという強力な『結界魔法』の原形が刻まれている。あれを迷宮の入り口、魔素が逆流している特異点に設置できれば、これ以上魔物は地上には出てこれないはずじゃ」

「ご当地キティちゃんが……結界の要に……」

 悠真は呆然とした。日本ではマスコットキャラクターとして親しまれているデザインが、このアルテミシアのことわりにおいては、魔を退ける神聖なシンボルとして解釈されているのだ。


「だが、あの場所まで辿り着くには、猛り狂う魔物の群れを突破せねばならん。松明の光では到底無理じゃ。……だが、小僧。お前が今持っている、その『魔力を吸われぬ光』と、この三輪の荷車があれば、不可能ではない」

 バルガスが拳を打ち鳴らした。

「なるほど! 迷宮の入り口まで強行軍をかけ、魔猫の結界で蓋をするというわけか! 面白い、エレンミア様が仰るなら賭ける価値はある!」


エレンミアは悠真の目を覗き込んだ。「小僧、これは商売ではない戦争じゃ。だが、お前がその『光』と『魔猫』を供給してくれるなら、我ら冒険者総員がお前の『顧客』となり、この街の命運という対価を支払おう。……持ってこれるか?」

 悠真は一瞬だけ、日本側の静かな店内を思い出した。

 あちらの世界の平穏を守るためにも、このエデンベルクを崩壊させるわけにはいかない。


「……分かりました。ヘヤピンは少し残っていた分を孤児院の女の子たちにあげちゃったけど、ストラップはまだ55個くらいはあったはず。ただ、今日は遅くなるからと連絡しないといけないし、他に持って来たい道具もあるから一旦は店に戻ります」


ふと見ると、リリエッタが顔を赤くして震えていた。

「あれ?、リリエッタ何か怒ってる?。孤児院の女の子にヘヤピンをつけてあげたのかって?。付け方が分からないって言われたから皆んなに付けてあげたよ。」

 リリエッタは悠真からぷいっと顔を背けてしまった。

「小僧、おぬしは女に少しだらしないのう。リリエッタ、ゼノス! 店の入り口まで護衛しておやり! 小僧、一刻を争うぞ。魔猫を持ってここへ戻ってこい!」

「了解!」

 悠真は三輪カートを反転させた。


 リリエッタが複雑な表情を浮かべながらも、悠真の隣に並んで走り出す。

 石畳を「カチ、カチ」と鳴らしながら、悠真は全力で自店へと向かった。

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― 新着の感想 ―
100話更新有難うございます 毎回楽しみです お土産屋さんの舞台もご当地キティちゃんも 記憶がリアルにあり この後の話が気になり何度も読み返して居ます 今後も更新楽しみにお待ちして居ます
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