告白
夏の県大会の日。会場のスポーツ会館はむせ返るほどの熱気に包まれていた。
床板から立ち上る湿気、観客たちの熱い視線、そして汗の匂いが入り混じって、呼吸をするだけで胸がざわつく。
「いけぇー!」「頑張れー!」
四方から飛んでくる歓声。その中にーー確かに、サキの声が混ざっていた。
耳で聞いたわけじゃないのに、わかる。あの声は、間違いなくサキだ。
胸の奥がキュッと締め付けられるように熱くなる。背中を押されるようにして立ち上がった俺は、決勝戦の場に足を踏み入れた。
相手は因縁のライバル校。ここまで何度も苦しめられてきた宿敵だ。
審判の声とともに始まる一瞬前、膝がわずかに震えそうになる。だが、竹刀を握った瞬間、不思議なくらい心が静まった。
サキに、伝えたい。
勝って、胸を張って、正面から気持ちを言いたい。
もう、曖昧なまま逃げたくない。
「メェーン!」
全身の力を込めた一撃が相手を捉える。竹刀と面がぶつかり合った瞬間、乾いた鋭い音が体育館に響き渡る。
「面あり!」
審判の声とともに審判の旗が3本上がった。歓声が爆発する。
そこからはもう無我夢中だった。体が勝手に動き、気づけば相手を気合で押さえ込んでいた。
試合終了の合図。勝敗を告げる瞬間、俺たちの中学の勝利が決まった。
優勝!
その言葉が耳に届いた瞬間、胸の奥が一気に解放される。
観客席を見上げると――サキが立ち上がって拍手しているのが目に入った。
小さな手で一生懸命たたく姿。笑顔。
その瞬間、全身が熱に包まれるように震えた。
勝ったから嬉しいんじゃない。サキが見てくれていたから、こんなに嬉しいんだ。
大会が終わった夕暮れ。
熱気がようやく冷め始めたす会館を抜けて、俺は竹刀袋を肩に担ぎ、裏手へと回った。
夏の夕焼けが西の空を燃やし、蝉の声が遠くで響く。
足取りは重いのに、胸の鼓動は止まらないほど速い。
言うんだ。今日こそ。逃げない。
心臓が壊れそうなほど暴れているのに、不思議と気持ちは澄んでいた。
「サキ!」
声を張り上げると、サキが振り返った。
オレンジ色の夕日に照らされた横顔が、あまりに眩しくて、思わず息を呑んだ。
「優勝、おめでとう!」
サキの笑顔。拍手をしていた時と同じ、いや、それ以上に柔らかい表情だった。
その笑顔に、背中を強く押される。
「俺……ずっと伝えたかったことがあるんだ」
声が震える。喉が乾いて、唇がうまく動かない。
けれど、サキのまっすぐな瞳に見つめられると、もう逃げ場なんてなかった。
夕日の光が二人の間を赤く染める。
俺は息を吸い込んで、胸の奥にしまってきた想いを言葉に変えた。
「俺、サキのことが好きだ!」
響いた声は、剣道で一本を決めたときよりもずっと強く、熱く、重かった。
心臓は爆発しそうに跳ねているのに、どこかスッと楽になった気がした。
モヤモヤは、もうどこにもなかった。
一瞬、沈黙が落ちた。
耳に届くのは、蝉の声と自分の心臓の鼓動だけ。
どうしよう。返事が来なかったら。怖い。
けれど、その沈黙を破ったのは、サキの小さな笑い声だった。
「……知ってたよ」
「えっ……!?」
思わず声が裏返る。
「だって、顔に出しすぎなんだもん。授業中とか、稽古の時とか。ちょっと見ればすぐわかるよ」
サキは恥ずかしそうに笑いながら、少し頬を赤らめた。
「……でもね、私もあんたのこと、ちょっと気になってた」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が一気に熱で満たされる。
汗なのか涙なのか、自分でもわからない熱いものが目頭に滲んだ。
「え……じゃあ……」
声が震えて止まらなくなる。
サキはゆっくりとうなずき、笑顔のまま手を差し出した。
「うん。よろしくね」




