もやもや5
体育館に流れるオルガンの音が、やけに心臓の鼓動と重なって聞こえる。
普段ならただのBGMにしか聞こえないはずなのに、この日ばかりは一音一音が胸を叩いてくるようだった。
「男子は列を作ってくださーい!」
体育の先生の大声が響き、俺たち男子はバラバラに動き出す。
緊張で手のひらに汗がにじみ、短パンに何度も擦りつけてはごまかした。けれど擦っても擦っても、すぐに湿ってしまう。
今日、サキと組めるのか?
それだけが頭の中をぐるぐる回る。鼓動がどんどん速くなり、胸の奥でドクンドクンと大げさなくらいに鳴り響く。息が浅くなり、肩で呼吸しているのが自分でもわかる。
あの日の「もし一緒になったらよろしくね」
サキのあの何気ない一言が、頭の中で何度もリフレインしていた。
「じゃあ、前から順にパートナー決めていきまーす!」
先生の声で、女子たちが一列に並ぶ。男子が順番に前に進み、パートナーを決めていく。ひとり、またひとりと決まっていくたびに、心臓がさらに暴れ出す。
「頼む……サキ、俺の前に来てくれ……!」
必死に心の中で祈る。声に出したら周りに聞こえそうなくらいの切実な願いだった。
そして――。
「よろしくね!」
振り返ったその笑顔は、まぎれもなくサキだった。
「……あ、よ、よろしく」
情けないほど声が裏返った。顔が一瞬で熱くなる。サキはクスクス笑いながら、ためらいもなく俺の手をとった。
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
やばい。手、やわらかい。小さい。温かい。ふわふわ。、、、
俺の掌は汗でじっとり濡れているのに、サキは全然気にする様子もなく、むしろ自然に握り返してくる。指先から腕にかけてじんわりと熱が広がっていき、全身が一気に熱を帯びた。
「ほら、ちゃんとステップ踏んでよ」
「わ、わかってるって!」
音楽に合わせて一歩、二歩。サキの手を握りながら前に進むだけで、息が苦しくなるほど緊張した。視線が合うたびに心臓が爆発しそうになる。
ほんの数秒のアイコンタクトですら、耐えられないほど甘く、苦しい。サキの笑顔が近すぎて、何度も目を逸らした。だけど、逸らした先でも意識してしまい、結局また視線が戻ってしまう。
曲が終わる頃には、俺はぐったりと肩で息をしていた。
「何でそんな疲れてんの? まだ一曲しか踊ってないのに!」
サキが笑いながら、俺の肩を軽く小突く。軽いはずの一撃が、ドクンと心臓を揺らす。
「べ、別に疲れてねーし……」
必死に取り繕うけど、声が妙に上ずる。
「ウソだぁ~。顔真っ赤だよ?」
サキの楽しそうな声が、さらに追い打ちをかけてくる。
「ち、ちがっ……」
否定する言葉もどもってしまい、余計に情けない。
そんな俺を見て、サキはまた楽しそうに笑った。屈託のないその笑顔が、体育館の照明よりも眩しく見える。
――こんな時間が、ずっと続けばいいのに。
心の中でそう願わずにはいられなかった。




