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もやもや4

 春の県大会出場選手決定試合・・・団体戦の5名を決定する剣道部内の試合だ。


 体育館にはいつもより多くの観客がいた。クラスの女子たちの応援に来ていた。女子たちの声がざわざわと混じり合い、緊張が肌を刺す。

 試合は既に終盤を迎えており、すでに5名のメンバーは決定していた。

 最後に代表者5名での総当たり戦を行っていたのだ。 


 俺は二年生の先輩と向かい合い、正座して一礼した。

 開始の合図と同時に、竹刀がぶつかり合う乾いた音が体育館に響き渡った。

 踏み込みの衝撃で床が鳴り、相手の気迫が全身に伝わってくる。頭の中は真っ白。でも、体が勝手に動いた。長年の稽古で染みついた反射が、迷いを押し流してくれる。


 そして――最後の一本を決めた瞬間、体育館歓声が広がった。

 応援席から女子の黄色い声が飛んできた。その声の中に、好きだったあの子の声も混じっている気がして、胸が一気に熱くなった。


 試合後、ケンジが駆け寄ってきて肩を思い切り叩いた。

 「お前、マジですげぇな! 絶対勝つと思ったわ!」

 「……ありがと」

 言葉は短いけど、心の奥はじんわり温かくなった。


 汗で髪も顔もぐちゃぐちゃなのに、不意に視線を感じる。ふと見ると、数人の女子がこっちを見てひそひそ話していた。


 「ねぇ、やっぱ強い人ってかっこいいよね」

 耳に入ってきたその一言に、心臓がドクンと大きく跳ね上がった。


 でも――。

 帰り道、ペダルを踏みながら、やっぱりあの子の笑顔を思い出してしまう。

 俺に「めんどくさい」って言った、冷たい一言。試合で勝っても、その言葉は胸に刺さったままだった。


 「勝ったからって、好きな子が振り向くわけじゃないんだよな……」

 ため息が夜風に混じり、虚しく流れていった。


 その時だった。

 「ねぇ! 今日の試合、見てたよ!」

 後ろから声が飛んできた。驚いて振り向くと、同じクラスのサキが立っていた。彼女は明るくて、誰とでもすぐ仲良くなれる人気者だ。


 「めっちゃかっこよかったじゃん!」

 「えっ……あ、ありがとう」

 不意打ちの言葉に、顔が一気に熱くなる。耳まで真っ赤になった気がした。


 サキはにこっと笑い、俺の横に並んで歩き出した。


 「ねぇ、今度フォークダンスの練習あるでしょ? 私、パートナー誰になるかなぁ~。あ、もし一緒になったらよろしくね」


 「え……?」

 思わず立ち止まった俺を見て、サキはくすっと笑った。


 「なにその顔! 変なの!」

 そう言って、ひらひらと手を振りながら走り去っていった。


 残された俺は、心臓がバクバクと暴れて止まらなかった。

 足も手も変に熱くなって、どうすればいいのかわからない。


 「まさか……こんな展開……」

 夜の道で、思わず両手で顔を覆った。


 ――また、眠れない夜が始まりそうだった。




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