受験前の焦りと不安
冬の冷たい風が校舎の隙間から吹き込み、廊下を歩くだけで頬が切れるように冷たかった。
窓の外にちらつく雪を見ながら、俺の心はどこか落ち着かなかった。
受験まで、もう数ヶ月。
あの文化祭の熱気や笑い声が、夢だったみたいに遠く感じる。
放課後の教室。
黒板には進学希望者の一覧が貼り出され、赤ペンで名前が囲まれていた。
「ほんとに受かるのかな」
サキがぽつりとつぶやいた。
その横顔は、強がっているようで少し震えていた。
俺は机に突っ伏していたペンを握り直し、言葉を探した。
「受かるに決まってんだろ。ここまで一緒に頑張ってきたんだから」
そう言った声は、思ったよりも震えていた。
本当は俺だって、不安でたまらなかった。
模試の結果が思うように伸びず、竹刀を握る手よりもシャーペンを握る手の方が汗ばんでいた。
ある夜、二人で図書館に残って勉強していたとき。
「もうイヤ!」
サキが突然、ノートを閉じて大きな声を上げた。
「全然頭に入らない! 公式だって覚えたのに、すぐ忘れちゃう!」
目に涙がにじんでいて、俺は思わず黙り込んだ。
胸が締め付けられる。
それは俺自身の気持ちそのものだったからだ。
「……わかるよ」
気づけば、俺も声を震わせていた。
「俺だって、不安で仕方ない。模試で落ち込んで、なんで俺だけできないんだって思って……正直、逃げたいくらいだ」
サキが目を見開いた。
そして小さな声で「、、、あんたも?」とつぶやく。
俺は深くうなずいた。
「でもさ、俺はあの日決めたんだ。特待生の誘いを断ってでも、一緒にこの道を選んだ。だから……逃げない。逃げたくない」
気づけば、机の下でサキの手をぎゅっと握っていた。
サキの手も震えていた。でも、その震えごと、俺は受け止めた。
しばらく沈黙が流れたあと、サキが小さく笑った。
「……ずるいよ、あんた。そんなこと言われたら、私も逃げられなくなるじゃん」
その笑顔に、胸がじんわり熱くなった。
それから俺たちは、ケンカしながらも勉強を続けた。
「なんでこの問題解けないの! 昨日やったじゃん!」
「お前だって英単語覚えたの忘れてただろ!」
言い合いながらも、最後は笑い合って、机に向かう。
涙と笑いの繰り返し。
その全部が、俺たちの力になっていった。
冬休みのある日。
夜遅くまで勉強して家の前まで送っていったとき、サキがふと立ち止まった。
冷たい吐息が白く空に溶けていく。
「ねぇ、受験が終わって、春になったらさ……一緒に桜、見に行こうね」
その声はかすかに震えていたけど、どこか未来を信じていた。
「……あぁ、絶対に行こう」
俺は迷いなく答えた。
その瞬間、寒さなんて忘れるくらい、胸の奥が熱くなった。
受験前の冬。
不安や焦りに押し潰されそうになりながらも、俺とサキは確かに前に進んでいた。
二人の影は白い雪の上に並んで伸び、冷たい風の中でもしっかりと重なり合っていた。




