お前ら、付き合ってんの?
サキと手を繋いだ、あの夕暮れから。
俺の世界は、ほんの少しずつ、でも確実に色を変えていった。
翌日の教室。見慣れたはずの黒板、ざわつくクラスメイトの声、窓から差し込む光。
全部同じ景色なのにサキが隣にいるだけで、不思議と輝いて見えた。
「ねぇ、ノート見せて」
いつもと同じように声をかけてくるサキ。
でも今は、その何気ない仕草すら胸の奥をじんわりと温める。
「お前、また忘れただろ」
口では呆れたふりをする。けれど心の中では、嬉しくて仕方がなかった。
また俺を頼ってくれたんだ。
放課後の帰り道。
部活を終えて汗だくの俺の肩には、竹刀袋がずしりと重い。
けれど、その横でサキが笑ってくれるだけで、不思議と疲れが溶けていく。
「今日もかっこよかったよ」
そんな言葉をふいに投げかけられ、思わず耳まで真っ赤になる。
「おう、、、、」
平静を装いながらも、心臓はドクドクと早鐘を打っていた。
もっと強くなりたい。もっと胸を張れる自分でいたい。
そんな気持ちが、勉強にも剣道にも力をくれるようになった。
もちろん、いつだってうまくいくわけじゃない。
小さなケンカも、数えきれないほどあった。
「なんで既読つけて返事しないの!」
「いや、部活中だったんだって!」
拗ねたように唇を尖らせるサキに、必死で弁解する俺。
言い合いながらも、心の底では「こんなことで本気で怒ってくれるなんて」と、どこか愛おしく思ってしまう。
好きだからこそ、ぶつかることもある。
でも、ちゃんと話して乗り越えた分だけ、前よりも強く繋がれることを知った。
季節はめぐる。
春の桜の下を並んで歩き、夏のプールで友達に冷やかされ、秋の文化祭で一緒に模擬店をまわり、冬の寒さに肩を寄せ合う。
どんな時間も、もう一人じゃなかった。
周りの友達も少しずつ気づいていく。
「お前ら、付き合ってんの?」
茶化されて慌てて否定するけれど、視線を交わしたサキが小さく笑ってそれだけで心臓が飛び跳ねた。
秘密でもなく、でも大声で言うことでもなく。
俺たちは、俺たちなりの歩幅で進んでいった。




