もやもや1
俺はどこにでもいる、ごく普通の中学一年生だ。
クラスではそれなりに友達がいて、休み時間にふざけ合って笑うこともできるし、テストの点だって悪くはない。
先生にも「よく頑張ってるな」って言われる程度には真面目だと思う。
だけど、そんな表向きの姿の裏で、俺の頭の中はいつも同じことでいっぱいだった。
そう――女の子のことだ。
休み時間、好きな子が友達と肩を寄せ合って笑っている。
その笑顔を見ただけで、胸の奥がきゅっと掴まれたみたいに苦しくなる。
俺もあの輪の中に入って、一緒に笑いたい。
隣で「なぁ、それ面白いな」って自然に声をかけたい。――でも、体が動かない。
机に突っ伏して、ただ心臓の音ばかりがうるさく響く。
まるで足が床に縫い付けられてしまったみたいに、どうしても一歩が踏み出せない。
「話しかけたい……でも無理だ……」
その言葉を、喉の奥で何度も繰り返しては、苦笑いするしかなかった。
俺は剣道部に入っている。
竹刀を握ったのは幼稚園のころからで、今では県大会でも常に上位にいる。
道場に立てば自然と体が動くし、竹刀を交えれば相手の動きだって見抜ける。
緊張はするけど、負ける怖さよりも「勝ちたい」という気持ちが前に出る。
だけど――女の子の前に立つときだけは違う。
竹刀よりも、彼女の目の前で声を出すことの方が、何倍も勇気がいる。
稽古から帰って、夜ベッドに横たわっても眠れない。
頭の中では、文化祭のフォークダンスのシーンを勝手に思い浮かべてしまう。
あの子と手をつないで、ぎこちなく笑い合う。
ただの想像なのに、顔が一気に熱くなって、布団を頭までかぶってジタバタする。
「なんだよこれ……試合よりよっぽど緊張するじゃん……」
自分でも笑えるくらい、情けない。
机の引き出しの奥には、こっそり切り抜いたアイドル雑誌のページが隠してある。
誰にも見られたくない、大事な秘密の宝物だ。
夜中に部屋の電気を消して、こっそり取り出して眺めると、胸がドキドキして止まらなくなる。
写真の笑顔に「もし本物の彼女だったら……」なんて想像が膨らむたび、胸が甘く締めつけられる。
「やべぇ……。本物の彼女なんてできたら、どうなっちゃうんだろ……」
現実では話しかける勇気すら出ないのに、妄想の中ではいくらでも彼女に手を伸ばせる。そのギャップに気づくと、なんとも言えない虚しさに襲われた。