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会社にて


月曜の朝、オフィスのデスクで書類を整理していると、同僚が声をかけてきた。


「麦島さん、この資料のおかげで助かったよ。締め切り間に合ったの、君のおかげだね」


「……あ、はい。よかったです」


私はぎこちなく笑う。


普段は目立たない事務仕事、改めて誰かに感謝されたのは初めてだった。

まるで、心の奥底に小さな種が芽吹き、じわじわと温かいものが全身に広がっていくようだった。


私も、誰かの役に立てるんだ。


そんなささやかな喜びが、日々の業務に新たな彩りを添えていく。

自分がここにいてもいいのだと実感し、また一つ仕事での成長を感じた。


帰り道、鞄の中で栞がかすかに音を立てる。その音を聞くと、聡さんのことを思い出した。

カチャリと何かが栞に当たった音は、私に労いの言葉をかけてもらっているようだった。



そうだ、要珈琲店へ行こう。



胸が高鳴り、聡さんに会いたいと思う気持ちが膨れ上がる。

彼に会い、話し、珈琲を飲むあの空間を思うと、自然と足取りが軽くなる。

思い出すだけで、コーヒーの匂いが香ってくる気がする。


いつもの帰り道が、今日は違う道のように思えた。

仕事の疲れを抱え、電車に揺られていると、窓に映る自分の顔が、少し明るく、可愛らしく見えた。


これまで、私は自分を「価値のない存在」と決めつけていた。


温かい言葉をかけてもらうことは、きっと何度かあったはずだ。

しかし、その度に心のどこかで疑い、素直に受け止められずにいた。



けれど、要珈琲店に通い、聡さんと話すうちに、少しずつ変わっていった。

聡さんの穏やかな眼差し、優しい言葉、細やかな気遣い。



それらは、私がこれまで避けてきたものだった。

けれど、聡さんの前では、ミルクがゆっくりと珈琲に混ざり合うように、素直に言葉を受け入れられた。


そして、今日の職場での「ありがとう」という言葉。


それは、聡さんに出会ってから初めて、心の底から嬉しく思えた言葉だった。

長年自分を縛っていたものが、少しずつ解き放たれていく。 


聡さんに、この喜びを伝えたい。



聡さんに話せば、きっと、心から喜んでくれる。

そんな気がした。聡さんに会いたい、彼の笑顔が見たい。

そんな気持ちが、私の足を自然と要珈琲店へ向かわせた。


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