不死には出来ないけれど
ある旅人が偶然にも願いを叶えてくれる魔人に出会った。
「俺を不死にしてほしい」
旅人がそう願うと魔人が頭を掻きながら答えた。
「恐れながら申し上げます。人でありたいならば、不死ではなく精々一万回の蘇りにすべきかと」
「一万回? では一万一回目には死ぬのか?」
「はい」
「それでは不死ではないではないか」
旅人がそう言うと魔人は悩まし気に頭を捻っていた。
「お前、まさか本当は人を不死に出来ないんじゃないか?」
「いいえ。そう言うわけでは……」
「なら何故、俺の願いを叶えないんだ」
「それは……」
そんな実に無駄な時間を繰り返した後、旅人は遂に諦めて言った。
「もういい。一万の蘇りで」
すると魔人は心底安堵した様子で頷いた。
「かしこまりました」
それから数では表されないほどの時間が経った。
今、世界に生きているのは旅人だけだ。
より正確に言うならば、9999回の蘇りをした旅人だ。
「ようやく終わる」
ため息交じりに血だらけになったナイフを胸に当てながら旅人は呟く。
孤独に耐えかねて彼はもう数千回も自殺をしているのだ。
もしも、あの時本当に不死となっていたら、この行為さえも出来なかったと思うとぞっとする。
「あの世とやらに魔人はいるのか」
もし居るのであれば必ず感謝の言葉を捧げよう。
そう心に決めて、旅人は今、ようやく最後の命を捨てた。